第6話 嘘つきゲーム

「な、何とか間に合ったぁ…」

なんとかHRまでに間に合い、席へ着く。本当に仮面が外れているのかを確認するために、周りを見渡すと、先ほど見た気持ち悪い真っ黒な面をつけ、不気味な笑みを浮かべている生徒は一人もおらず、昨日もみた楽しそうに話をしている同級生たちの顔がそこにはあった。

”どうだい?仮面を外してみて。”

うん、昨日と同じ教室だよ。ありがとう、鏡谷。

”ほ、褒められるような事はしていないよ、別に。”

仮面が外れていることを感謝すると、鏡谷の照れた顔とすごく嬉しそうな感情が浮かび上がってきた。

鏡谷、ほんとにありがとうね

”幸四郎くん、面白がってるんなら、やめておいたほうが身のためだよ”

え?ど、どういうこと?

そう聞いた瞬間、自分が過去に犯した失敗体験の数々がよみがえってきた。

思い出したくもない数々のいわゆる黒歴史というものが。

ご、ごめん!僕が悪かったよ!

「じゃあ、一時限目は理科だから、忘れずに教室を移動しろよ」

頭の中で鏡谷と言い合いをしていると、いつの間にかHRが終わっていた



その日ごとに決められたカリキュラムの全てが終わり、もう見慣れた騒がしい部活棟の廊下を渡り、生徒会室へと入る

「し、失礼します」

「来たか、早く椅子に座れ、始めるぞ」

同じように座るように指示をされ、何もない部屋の中にポツン、と向かい合うように置かれた二席の椅子の瀨見良せみらさんが座っていない方の椅子へと座る。

「早速だが、特訓を始めるぞ」

「は、はいお願いします」

僕が座ったことを確認すると、暇つぶしで読んでいたであろう本をパタン、と閉じて説明を始めた。

「昨日も言ったように、おまえにはこの一週間で『ペルソナ』を使いこなせるようになってもらう。今日はその一つとしてあるゲームをしようと思う。」

「ゲーム、ですか?」

偽りの顔ペルソナを使いこなせるようにするためのゲームって、なんだろう?

「そうだ。そのゲームは題して『うそつきゲーム』という名前にでもしておこうか。」

『うそつきゲーム』?え、どうしよう。僕うそなんてつけないんだけど。

そんなことを考えていると、瀨見良さんはこのゲームは、と内容の説明を始めた。

瀨見良さんの説明では、先行うそつき後行正直者に分かれ、先行うそつきから話を始めて、一分間話をし、うそつき側が好きなだけ話の中にうそを折り込ませる。

ひととおり話し終えた後に正直者側はどの部分がうそだったかを半分以上当てれば、正直者の勝ちというゲーム。との事だった。

「当然、今回おまえにはをしてもらう。」

「え、なんでですか?」

僕がペルソナを使いこなせるようにするためには、バレてしまわないように上手にうそをつけるようにするのが良いはずだ。そう思い瀨見良さんに聞いた。

「まあ、初回だからな。うそをつく側の勝手が分からないだろうからな。まずは手本としてだ。」

そのあとでおまえにもやってもらう、と納得のいく説明をされた。

”このゲームならペルソナの能力を使えるんじゃないかな?”

ペルソナの能力?ペルソナを使ったら、別人格鏡谷と入れ替わるんじゃなかったっけ?

”それじゃあ、今日の朝は僕と幸四郎くんは入れ替わってた?”

そう言われ、思い返すとたしかに入れ替わってはいなかった。

”実は、ペルソナには人格を入れ替えるだけではなく、うそんだ。”

そっか、面が黒くなればうそをついてるってことだから、それを利用するんだね。

”そういうこと。それじゃあ早速面を付けてごらん”

僕は言われたように頭の中で面を付け直すイメージをする。その瞬間、目の前にいた瀨見良さんの顔には真っ白な面が付いていた。

「準備はいいか?神谷。」

「え?あ、はい。すみません、ボーッとしちゃってました」

「そういうことか、なら早速始めるぞ」

瀨見良さんがそういうと、ポケットから携帯電話を取り出し、一分間時間を測り始めた。

「突然だが、最近動物を飼ってみたいと思っているんだ」

「か、飼うなら動物はどういう動物がいいんですか?」

「あぁ、実は猫が好きでな。飼うなら子猫を飼ってみたいと思っているんだ」

うそ。

「じ、実は僕も猫を飼ってみたいんですよね」

「そうだったのか。いいよな、猫って。疲れた体をいやしてくれるからな」

「そういえば、瀨見良さんって普段はどんなお仕事をされてるんですか?」

「俺の仕事か?俺の仕事は主に他の役員から回ってくる書類の確認をするぐらいだな。あとは、生徒たちの悩み相談だな」

うそ。

「た、大変ですね。生徒会のお仕事って」

「そんなこともないぞ。立村に比べればな」

「会長ですか?」

「あぁ、立村は適当な性格だが、なんやかんやで役員たちに慕われているんだ。俺以外のな」

うそ。

「なんで瀨見良さんは会長のことが嫌いなんですか?」

「あぁ、それはな―――」

ピピピッ、ピピピッと、あらかじめセットしていたタイマーが忙しなく音を立て始めた。

意外と一分間って短いんだね。

「それじゃあ、神谷。どこがうそだと思う。」

そう聞かれ、僕は瀨見良さんがうそをついていた場所を指摘した。

「どうですか?」

「ぜ、全問正解だ…いったいどうやったんだ?」

「それは―――」

それは答えられません、と答えようとしたとき、体中から力が抜け、視界が暗転し、何も見えなくなった。

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