第2話当然のこと
僕はもう一度、西田さんに話しかけに行く事にした。
今度は本心で、友達になろうと言うんだ。
もしいじめ屋の奴らが彼女に手を出したら止めに行くつもりでいたけれど、偶然今日は何もしなかったみたいだ。
そして、放課後になった。
今日はたまたま彼女は日直で学校に残る。
話しかけに行くなら、二人きりになれる今がチャンスだ。
僕はあえて遅く帰る準備をし始める。
クラスのみんなはがやがやと喋りながら、どんどんと教室を出ていく。
視界の端にいじめ屋の奴らが映る。
僕は気づかれないように奴らを目で追ったが、奴らは馬鹿笑いをしながら教室を出ていった。
ふぅ、と安堵のため息を洩らす。
しかしそれと同時に、不安が押し寄せた。
あの時に怖くて逃げた僕を、西田さんはどう思っているのだろうか。
少なくとも良くは思っていないだろう。
緊張が高まっていき、心が縮こまっていく。
そうして気づいたら、教室内は僕と彼女の二人だけになっていた。
彼女は黒板に書かれたチョークの文字を黒板消しで消していた。
僕はその背中を席に座りながら見つめ、小さいなと思った。
どこか寂しそうで、弱々しそうで、胸がぎゅっと苦しくなった。
そして気づかぬうちに、僕の口から言葉が発せられていた。
「西田さん!」
僕は、はっ、となる。
やばい、言ってしまった。
動悸が激しくなり、頭の中が真っ白になっていく。
「え、えっと、どうしました?」
彼女は振り向き、穏やかな表情を浮かべる。
小さくて可憐な声が、久しぶりに耳に届いた。
「え、えっと」
僕は緊張する中、必死に思考を巡らせて、
「友達になろうよ!」
思いついたその瞬間に、言葉になって口から出てきた。
「あ、えっと」
僕は言ってしまった自分に動揺して、更に焦ってしまった。
「私から距離を置いていたのに、、ですか?」
その瞬間、息が詰まる。
彼女のその言葉は、僕の胸のど真ん中を貫いて心臓に突き刺さった。
心臓がどんどんと冷たくなる。
さっきまでの多大なる緊張が、恐怖に変わった。
覚悟していたのに、、
「ご、ごめん、そうだよね、おかしいよね。ごめん、きょっ、今日用事あって帰るわ」
心臓がぶるぶると震え、言葉も同じように震えた。
僕は急いで鞄を持って、教室から走り去るように出ていった。
そして廊下をしばらく走って、トイレの個室へと駆け込んだ。
僕は便器の蓋の上に腰掛け、両膝に肘をつきながら上半身を屈める。
長くて震えたため息が洩れる。
西田さん、どんな表情してたっけ、、
何故か記憶になかった。
でも想像できるのは、酷く冷たい僕の胸を切り裂くような表情だった。
まあ当然だ。
急に友達になろうと言ってきたくせに、急に見捨てて、逃げて、そんなやつを憎まないやつなんていない。
何だか、いじめ屋に言われたあの時と同じような気持ちになった。
逃げたい、諦めたい。
そんな弱々しい前の自分と同じ気持ち。
でも、それでも諦めたくない。
それは罪悪感とかではない。
西田さんを想う気持ちだった。
僕はトイレから出る。
今から戻ろうと思ったけれど、まだ心臓に入った傷が響いて、胸を苦しめる。
僕は家に帰ろうと、階段を降りて下駄箱の所へと向かった。
そして自分の番号の下駄箱を開けると、そこにはローファーは無く、一枚の大きな紙がぐしゃぐしゃになって詰め込まれていて、そこには
大きく
〈死ね〉
と書いてあった。
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