第17話

 奇麗に石で敷き詰められた道から、また獣道へ戻る。木々の間を急ぎ足で前に進む。町を出てだいぶ時間が経つ。クラトスたちは、地面に視線を向けていた。


「マエルさん、村と町の真ん中辺りって言ってましたけど、分かるものなんですか?」


「恐らく、盗賊とアレクの父ちゃんで一悶着あったに違いない。だとしら、足跡が乱れているはずだ」


 道に沿って足跡やわだちが列をなしてついている。この道は西から東へまっすぐに続いている。北に逸れるたとしたら、跡は道を遮るようになっている。


「つまり、そこからまた辿ればいいと言うわけですね?」


「そういうことだ」


「あ、これ!」


 アレクが指をさす。その方向にはクラトスが言っていた通り、乱れた足跡があった。

 中間地点でこの痕跡。間違いない。奴らが残した痕跡だ。


「やっぱりあったか。見てみろ」


 今度はクラトスが指を向ける。グチャグチャになっている事跡から右に一本、線で引いたように続いている筋があった。


「こっちに行ったようだな。急ぐぞ」


 地面を蹴り上げ彼らは走り出す。道とは言えない筋の上を駆け抜ける。ベチャ、ベチャと水分を多く含んだ土が歩を進めるたびに足に付いた。だが、それを気にする者はだれもいない。

 ——後少し、あと少しで奴らにところまでたどり着く。

 一心不乱にその筋を追いかけた。




 

 洞窟を前にして筋は途絶えている。大穴の横には、空になった馬車が置いてあった。馬はいない。

 上品に装飾されているベルのブーツは泥まみれになっている。


「あの」


 アレクの視線に気づいたベルが言う。


「これ? 気にしないで。洗えばいいだけだし」


 フッと彼女は笑った。


「お前達、準備はいいな?」


 二人は大きく頷いた。空気が引き締まる。明かりを灯して洞窟に入った。

 歩いて小石をける音が中で響き渡る。カビの匂いが鼻を突き、湿った空気が肌にまとわりつく。

 遠くの方で何か聞こえる。耳をよく澄ましてみた。男たちの声が聞こえる。岩壁に反響して何を話しているかまでは聞き取れない。

 アレクとベルの方に振り返ると。彼らも分かっていたようで目を伏せた。

 大きく息を吐いて明かりを消す。


「消していいんですか?」


 アレクが耳元でささやく。


「あぁ、向こうに気付かれて警戒されては困る。それに見てみろ。うっすらと明かりが見えるだろ?」


 なるほど——彼は首を縦に振った。

 頼りなく灯されている明かりを頼りに、徐々に近づく。

 次第に声が大きくなり、はっきりと聞こえるようになる。


「村からかっさらってきた食料。おまけに馬車にも大量に飯もあって最高だぜ」


「あぁ、おかげで昨日の晩飯は贅沢に馬鍋だ」


 ヒッヒッヒ、と空気の抜けたしゃげれた声に、所々クチャクチャと唾液がハジける音がクラトスたちの耳を舐めまわした。

 耳を塞ぎたくなるような会話と声を聞きながら、ゆっくりと一歩ずつ詰め寄った。

 目の前まで来て立ち止まる。そしてまた二人に振り返った。ベルは顔を歪めていて必死にこらているのが分かる。

 行くぞ——口で形を作り、合図を送った。

 勢いよく盗賊の前に立つ。くつろいでようで、慌てて立ち上がった。


「何者だ!?」


 ついに対峙したクラトスは奴らを鋭く睨みつけた。



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