第6話
鳥のさえずりがクラトスを癒した。窓のサッシにも寄りかかって一日の始まりと共に自身の体も少しずつ目を覚ます。あの一件以来、学級の皆とはギクシャクした関係になっている。イグニールも同様で、目に見えて他の生徒から避けられているのが分かった。
──誰も逆らえなかったお山の大将が叱られたことでボロがでたといったところか。
本当は彼といい関係を築きたいものだが、最初にあぁなってしまっては中々難しいだろう。
先が思いやられるな——山積みの課題とは別に、新たに大きな問題を抱えてしまった。かといって、生徒達に
もう少し様子見だな、クラトスは立ち上がって支度をする。
今日は外で実践訓練だ。座学の時と比べて持っていくものがかなり少ないから助かる。
剣と本を手に持って部屋を出た。
「今日は実践訓練だ」
院内にある訓練場に集まる。藁を丸太の様に固く太い束が十字になって、それが無数に立っている。他の生徒たちの訓練の成果が出ているのか、それらはみんなボロボロになっていた。
「実践といっても今日が初めてだ。まずはお前たちがどの武器と相性がいいのか決めていくことにする。この中ですでに経験のある者は?」
クラトスが問うと、何人かが手を挙げた。
「手を挙げた者には悪いが今日は見学をしてもらう。それかあの──」
彼はそう言ってかかしたちを指さした。
「かかしを使って訓練していてもかまわない。それじゃあ別れろ」
昼まで間、クラトスは生徒と一対一でどの武器が合うか、どれを使いたいか。性格も含めて吟味していく。
やはり、自分が恐いのか距離を開ける生徒もるが、反面、好奇を寄せる生徒もいた。それに対しホッと胸をなでおろすと共に嬉しくもある。
若干決まらずまた後日決める生徒もいたが、おおかた決め終えた頃、昼の鐘が鳴った。
「よし、昼休憩にしよう。午後の授業もここでやるから遅れないように」
緊張が解けたのか生徒たちの頬が緩んで話し始める。それを見てなんだか微笑ましくて彼はフッと笑った。
「先生」
和やかな雰囲気をかき消すような凛とした声がクラトスを呼ぶ。
男に道を開けるように生徒たちがどいた
エルヴァル王国の王子、そして級長のフルート・ラズ・ヴァルが彼に前に立つ。
「どうした?」
「僕と勝負していただけないだろうか」
場がざわつく。
「かまわないが、午後じゃダメか?」
「食事をはさむと体が鈍くなる気がしてね。できれば今していただきたい」
「分かった。受けて立とうじゃないか」
「ありがとうございます」
彼はそう言って剣を抜いた。
「待て。受けて立つとは言ったが、実際の剣を交えることはできない」
クラトスは端においてある木刀を二本とり、そのうちの一本をフルートに差し出す。
彼は木刀を
「僕が王子だからか? それなら心配はいらない。怪我も承知の上でここに入学した。父もそれを承知している」
「その心意気は立派だが、お前が王子とか関係なく、誰に対しても模造した物を渡す。万が一の事があってからじゃ遅いからな。それを分かってくれないなら勝負はできない」
「......わかりました」
フルートは不服そうにしながら木刀を受け取った。
「本気でっかかってこい」
「言われなくても!」
彼は勢いよく木刀を振り上げた。クラトスもそれに対し応戦する。
大した腕だ——恐らく幼いころから剣を学んでいたのだろう。積み重なったものが剣に込められている。
「中々やるじゃないか」
クラトスはフッと笑った。
「それはどうも」
フルート笑い返す。
戦いの中で一つ気付いた。それは、勉強や訓練だけで身に付けたものじゃない。何か他の思いがあるとクラトスは直感的に感じた。
「だが」
彼は木刀を切り上げた。
フルートが持っていた木刀は宙に舞い上がり、彼はしりもちをついた。
カランと、地面のに落ちる木刀と同時に生徒たちが動揺した声を上げる。
「勝負あり、だな」
「......参りました」
フルートは軽く頭を下げる。
「さっきも言ったがいい腕をしている。正直驚いた」
クラトスはフッと笑って、しりもちついた彼に手を差し伸べる。
「僕と同じ歳だからって舐めていた。教師になるだけの事はある。思っていた以上だ」
フルートは苦笑を浮かべて差し伸べた手を握った。
「またいつでも相手してやる」
「えぇ」
「さ、そうとなったら早く飯を食おう。お前達も早く食べるといい」
観戦していた生徒達を促して食堂へ向かった。
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