金獅子の学級

金獅子の頭領達

第4話

 向かい風が心地よくクラトスに吹く。すれ違う生徒たちは皆、初めてここに来た時と同じ好奇な目で見ている。今日から教師としての生活が始まる。分厚い本を片手に歩く。

 生徒に教えることの他に、この国の情勢、地理、上げられないくらいの量を勉強しなければならない。技量だって生徒に引けをとられてはいけない——山積みの課題を前にして苛立つ気持ちも少しあるが気にしている余裕はない

 担当するのは金獅子学級リオクラッシェという学級だそうだ。例の三人による生徒の派閥を回避するために人数は抑えているらしい。多人数では見切れる自信がないからむしろありがたい。


 しばらく歩いて金獅子学級の教室ついた。

 緊張と、ほんの少しの期待で胸の鼓動が早くなっている分かる。彼は大きく息を吸い、意を決して扉を開いた。


 十人十色という言葉にピッタリな生徒たちが座っている。先にすれ違った生徒同様、好奇の目を向ける者もいれば、興味なさそうに本を読んでいる者、そしてクラトスと関わりたくないのか目をそらす者と様々だ。

 教壇にあがり、指導書を机の上にドンと低い音をたてて置いた。


「今日からお前達の教師を担当する、クラトス・デスフィリアだ。よろしく」


 舐められないように、少々威圧的に言う。

 彼は一礼をして、彼は指導書を広げた。


「授業を始めるぞ。では23ページを開いて」


 昨晩、徹夜して今日の授業の分は頭に叩き込んだ。その成果もあってか順調な滑り出しであることにホッとする。


「せんせーい」


 鼻につくような声が教室に響く。

 顔を上げると、ニヤニヤしている生徒がだらしなく手を挙げていた。


「自己紹介、した方がいいんじゃないんですかぁ?」


「それならさっきしただろ」


「いやいや、もっと他にもあるでしょ?」


 生徒は手をフラフラと振った。


「趣味とか、好み女とかさ。あ、そういや先生って何歳?」


「二十だ」


「え!? うそ!?」


 彼は驚いた声を上げた。それにつられ、教室内もザワつき始める。


「俺らと同い年じゃーん! ねぇねぇ彼女は? いないなら、いい女紹介しようか? 」


「それ以上くだらんことを聞くな。授業を続けるぞ」


 ピシャリと遮り、再び指導書に目を向ける。


「お前さぁ」


 男は気だるそうな声で問いかける。ざわついていた教室もすぐに静まり返った。


「さっきから何様? 教師になって舞い上がってるのかもしんねぇけど、調子に乗るなよ」


 彼の眉間が寄った。あの、おちゃらけてた鼻につく声が打って変わって低くなる。

 ──こんなデカい態度を取れるのはあの三人の誰かだな。


「調子に乗るなだと? 調子に乗っているのはどっちだ? お前は『生徒』で、俺は『教師』だ。そこをはき違えるな」


「何だと......」


 眉間がまた一段寄ってシワが大きくなった。


「俺を誰だと思っている!」


 バン、と勢いよく机を叩いて立ち上がった。


「そういうのはまず、自分から名乗るんだ。誰もがお前の事を知ってると思うな」


 テメェ——拳が小刻みに震えている。彼は苦虫を噛み潰したような顔で言う


「イグニールだ」


 クラトスは手元の名簿を確認する。

 元アグア国の王家、今は公爵のナサ家のご子息。イグニール・ナサ。

 やはりあの三人の中の一人か。


「講釈垂れる前に、公爵にそんな口の利き方をして、教師とあろうものが礼儀の一つもなってないんじゃないのか?」


 ハッとイグニールはあざ笑うように言う。


「公爵様とあろう者が教師に対して礼儀も、作法も何一つ身に着けていないようだな。さぞかし甘やかされてきたんだろうな。俺と同い年には見えない。ただのボンボンのガキだな」


 クラトスはジッと彼を見つめて言った。顔が赤くなっている。相当堪えているようだ。彼の顔は今にも爆発しそうだった。


「これ以上は時間の無駄だ。やる気がないなら出ていけ。授業の邪魔だ」


 言うとイグニールは勢いよくドアを開けて彼は教室から出て行った。

 嵐が過ぎ去ったような静けさが包み込む。


 昔からこういう類の人間が大嫌いだ。傲慢で、平民や貧民から搾取し、自堕落な生活をして。どこにいてもこういう奴はいる。

 先が思いやられる——クラトスは大きくため息をついた。




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