二日目
三浦は百円ショップで買ってきた、額縁付きの絵を壁に飾ろうとしていた。壁のシミがひどく印象が悪かったからだ。ふと部屋の隅をみると、どこからか雨漏りがあるのかカビが生えていた。
「せんせー、もっとお金稼いで壁紙張り替えましょうよ。それと雨漏り」
「まあそのうちね」
もう、と言いながら三浦は求人情報誌を眺めていた。
突如プルルルと、電話が鳴った。
「はい、あなたの心の悩みなんでも解決します。『
三浦は定型文を読み上げてから相手の声を聞き、思わず背筋が伸びた。
「はい、はい、今確認します」
三浦は受話器を手でおさえると
「せんせー、桜崎さんが今から行って良いかって、どうします?」
「どうぞー、どうせやることもないし」
三浦がうなずくと
「はい、大丈夫です。ええ、時間は……」
*
電話の一時間後、診察室に桜崎はいた。
「……」
最初は誰も喋らなかった。
「ようこそまた来てくださいました。先日は失礼な発言、申し訳ありませんでした」
「いいのよ、こちらもちょっと怒りすぎた」
「いえいえ、ただ少し言葉が足りなかったことをお詫び申し上げます。もうすでに治療が始まっていたのです」
「ええ、友人からそう聞いたわ。きっとあなたのやり方なんでしょうよ、って。さ、はやく進めてちょうだい」
「かしこまりました。では始めましょう、今日は簡単な質問に答えていただきます」
「あ、一つ言い忘れてました。約束して欲しいことがあります。今から私が言う質問に深い意味はありません。中には当然のこともあるかもしれません。それでも怒らないでください。私はこの場で私の思想を押し付けようとか、あなたの考えを改めようなどとは全く思っていません。ただ純粋に、まるで宇宙人やAIが質問しているような気持ちで答えてください」
「何よ、まるで私が簡単に怒る人みたいじゃない」
「いえいえ、これはみなさんにお伝えしていることです。もし桜崎さんがそれを忘れそうになったら、これを……」
「このうさぎちゃんが出てきます。その時は私の言葉を思い出してください。いいですね?」
「わかったわ」
「今のあなたは……まだこんなもんかな」
とそのうち1とかかれた紙を桜崎の方へ出した。
「どういうこと?」
「すみません、深い意味はありません。今のあなたではとてもこちらの2、3のは太刀打ちできません、ということです」
桜崎が怪訝な表情を浮かべた。
「いや、まあいずれわかりますよ。まずこちらをどうぞ」
A4サイズの紙には上から一つずつ質問が書いてあった。そしてその下にとてもあてはまるを10、全く当てはまらないを0のメモリがあり、自分がどの程度にあてはまるかに丸をつけるというものだった。
Q:私は頑張っている 10
Q:私はだれよりも頑張っている 9
Q:頑張っていない人は評価されなくてもいい 10
Q:頑張っている人を評価しなくてもいい 0
……
Q:部下は上司を馬鹿にしてもいい
「何よこの質問、当てはまらないに決まってるでしょ。絶対ダメ、こういうやつほんとにダメ」
桜崎は0を力強く、何度も大きく丸をした。
全ての質問に答えたあと、
その間、桜崎は気になることがあった。
「ねえ、そっちの紙には何が書いてあるの」
「いやー、まだ早いと思いますけどね、見てみます?」
「変なことが書いてあるわけ?」
「いや、変ではないですけど。見たければどうぞ」
桜崎は少し考えてから裏返してあった2と書いてある紙を表にした。そして質問に目をやった。
「何よ、これ……」
質問はこうだった。
Q: 桜崎美代子は馬鹿にされてもいい
Q: 桜崎美代子がやってきたことは全部他の人につぶされてもいい
Q: 桜崎美代子は怠け者だ
読んでいくうちに、再び桜崎の顔が紅潮し始めた。
「何よ……あんた! ふざけんてんの、これ!?」
すかさず
「あ、桜崎さん。今のあなたは絶対にこれは見ない方がいい」
桜崎はきっ、と刺すように睨みつけると、3と書いてある紙を奪い取った。そしてそれを表に返した。内容はこうだった。
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