第5話 俺は、ドMな彼女をどうにかしてあげたい

 七星浩紀ななほし/ひろきは翌日、学校にいる。


 午前中。そんな中、授業を受けていた。

 隣を見れば、彩佳が普段通りに真面目な表情で授業を受けているのだ。


 意外と、普通である。

 むしろ、元を辿れば彼女は普通なのだ。

 その上、先生や周りの人らからの評価も高い。


 ゆえに、彼女のことを貶める事なんてできなかった。


 というか、どうやって彩佳の悪いところを探せばいいんだよ……。


 浩紀は頭を抱え込んでしまう。


 ああ、面倒な約束をしてしまったなぁ……。


 椅子に座っている浩紀はシャープペンを持ち、面倒な表情を浮かべていたのだ。


 今日の朝から、彼女を観察しているものの、まったく悪いところを探ることができていなかった。


 むしろ、彼女の良いところばかりが視界に入る。


 柚木彩佳ゆずき/あやかは朝から他人のために活躍していた。


 通学途中だって、困っている人を助けていたり、挨拶や受け答えもしっかりとしている。

 学校に到着した頃、花壇に水やりをしたりと、行動自体が立派すぎるのだ。


 というか、どうやって、彼女の悪いところを見つければいいんだよ。




「ちょっと、そこ聞いてる?」

「え?」


 気が付けば、浩紀は黒板前に佇んでいる女の先生から視線を向けられ、指摘されていた。


「聞いてますか?」

「あ、はい……す、すいません」


 浩紀は視界の前にいる先生に対し、謝罪程度に頭を下げた。


 変なところで、目を付けられてしまったと思う。

 ちゃんと集中しないといけないと、心に念じるのだった。






 なんか、全然授業に集中できなかったな。


 浩紀はげんなりしていた。


 授業中は先生に怒られるし、皆の見世物になってしまっただけな気がする。


 溜息を吐きつつ、浩紀は校舎の廊下を歩いていた。


 現在、授業合間の簡易的な休憩時間帯。


 あまりの気まずさから教室の外に出たかったこともあり、廊下にいるのだ。


 変なところで、皆の話題の就寝にはなりたくない。


 というか、彩佳は?


 授業が終わった直後、彩佳は教室にはいなかった。


 どこか、別のところへと移動しているらしい。


あれ……?


 遠くの方へと視線を向けると、そこで先生と会話しているクラス委員長の姿があった。


 何やら会話しているようだ。


 浩紀が気づいた頃合いには話を終わらせていた。


 先生と別れた彼女と、廊下でバッタリと出会う。




「なんの話をしてたの?」

「ちょっとしたことよ」


 彩佳は簡潔に言う。


「そうなの? でも、面倒な事ばかり引き受けない方がいいよ。委員長だからって」

「私は他人のためになることをしたいだけ」

「でも、それが負担になってるなら、問題だと思うんだけど」

「そうかもしれないけど」


 なんか、変なところで、自分の考え方を曲げない女の子だと思う。


 もしかして、彼女の悪いところって、そういう風に自分の意見を曲げないところ?


 彩佳は真面目過ぎるのかもしれないけど。

 ストレスの原因って、彼女自身が作ってるんじゃないのか?


 やっぱり、Mだから?


 だから、そういう風に、大変なことであっても頑なに考え方を曲げようとしないのだろう。


 そんな風に、浩紀は受け取ってしまうのだった。






 彩佳の悪いところは、多分、勝手に自分で抱え込んでしまうところ。

 そのように思う。


 Mだからこそ、あまり気にしていないのかもしれない。

 むしろ、それが普通だから、わからないのだろう。


 彩佳はMだということが悪いところ。

 ということは、Mなところを、どうにかして指摘した方がいいのか?


 浩紀は変な妄想に浸ってしまっている。


 今のところは、Mなところを指摘するような罵倒がいいのだろう。

 にしても、Mなところを罵倒するとして、どんな言い方がいいのだろうか?


 Mと言っても、ただ単調に罵倒されることは望んではいない事だろう。


 浩紀は色々と思考を巡らせていた。


 罵倒するにもコツがいる。

 だから浩紀は昼休み、一人で食事をとっていた。


 浩紀は校舎の裏庭にあるベンチに座り、手にしているスマホで、罵倒という単語を検索にかけることにしたのだ。


「……Mとは」


 変態の一種だというのはわかる。

 自ら、奴隷になることを望んでいるのも珍しい。


 ストレスが原因であれば、別のことに集中させた方がいい気がする。


 M奴隷とか、やっぱり不純すぎる。

 自分には彼女のことを罵倒するなんてできない。


 罵倒以外にも何かあればいいんだけど……。


 罵倒よりも、どこか、リラックスできる施設とかの方がいい。


 浩紀はスマホを弄り、ちょうどいいスポットを探る。


 すると、手ごろな感じに、いいところを見つけられたのだった。






「彩佳さん? ちょっと一緒に行きたいところがあるんだけど」

「どこに連れてってくれるの?」


 放課後。浩紀は彼女に問いかけた。

 彩佳は笑顔を見せている。

 どんなことをしてくれるのか妄想し、喜んでいるかのようだ。


 連れていく場所はすでに決まっていた。


 決して嫌らしいところではない。


 彩佳に満足されないところかもしれなかった。

 けど、彼女をMのままにしておきたくないのだ。

 彼女には普通の女の子として生きていってほしい。

 そんな思いを抱いての誘いであった。


「あとでもいいけど、今日は私のところに来てくれないの?」

「それもいいんだけど、ちょっとね」


 浩紀は上手いこと話をそらしつつ、別のところへと何としてでも連れていこうとしていた。


 皆も帰り支度をする中。

 二人も後片付けをし、教室から出る。


 二人は昇降口を通じて、校舎から立ち去り、そこから目的となる場所へと、浩紀は誘導してあげるのだった。




「連れていきたいところって・」

「それは、ついてからのお楽しみってことで」


 浩紀はぼかしながら話す。


 彩佳は普通にしていた方が可愛らしい。

 やはり、人生で初めて告白してきてくれた子なのだ。

 それに、クラス委員長には、ストレスを貯めてほしくはなかった。


 元々、浩紀は彼女のことが好きだったりする。

 だからこそ、今回の行先で、ストレスから解放されてほしいと、内心、願っていたのだ。






「ここなんだけど」


 とある場所に到着するなり、浩紀は、その建物を指さした。


 その場所というのは、学校から二〇分ほど離れた先にある施設。


「ここは?」

「自然を感じられる場所なんだけど」

「植物園的な?」

「まあ、そうだね」


 ここであれば、精神をリラックスできると思う。


 ストレスフリーになるなら、緑の多い場所がいい。


 本当に効果があるかはわからないけど。


 浩紀は、隣に佇む彼女の様子を伺うのだった。

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