幕間
少し忙しくしておりましたがぼちぼち再開したいと思います。
今回はマルコ視点ではなく三人称でお送りいたします。
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広いホールに機嫌の良さを示すような穏やかなハミングが響き渡る。ハスキーボイスのその声はダンスホールの中央にあぐらをかいている男から発せられていた。
痩躯かつ小柄で、髪は毒々しい紫に染められ、鉢が膨らんだようなクラゲらしいシルエットに整えられている。インナーにはこれもまたビビッドなピンク色が入っている。三白眼の下にはくっきりとしたくまが残り、幾つも開けられたピアスの穴には無骨な銀色のボールピアスが差し込まれている。
服装はハイセンスというべきか、派手な格子柄のついた紫と黄色のジャケットに明るい黄色のTシャツを着ており、ぴっちりとしたくるぶし丈の紫色のスキニーズボンを着ている。モンクストラップのついた先の尖った革靴を素足に履いている、言ってしまえば「ダサい」格好の男は上機嫌で笑っている。
「ボス、こちらにおられましたか」
「んあぁ〜?なんだミゾネかぁ。俺になんか用?」
ミゾネと呼ばれた黒髪の男は狐のように細い目をさらに細めて軽く微笑み、それから封筒を懐から取り出した。青色の封蝋で閉じられたそれを壊れものでも扱うように丁寧に。
「こちら、ボス宛のお手紙です」
「手紙ィ?誰からだよ」
「例の『あいつ』からですよ、ボス」
上機嫌だった男は途端に顔をしかめ、それから立ち上がってツカツカと肩を怒らせながら歩いてきた後に手紙をひったくり、封筒の端を噛んでひっぱり、ビリビリと引き裂くように開いた後目をギリギリまで近づけて読み始める。徐々に顔は険しくなりながらもイライラしているようにギザギザの歯がガチガチと音を立てる。
「……くそ、あいつあいつあいつあいつ!!」
べしりと床に手紙を叩きつけ、それからその紙を靴でグシャリと踏み躙る。
「……くそぅ」
力なく呟きそれから拾い上げた後、その手紙をジャケットの内へ丁寧に仕舞い込む。それはあくまで恋人からの手紙を仕舞うような仕草である。今までの行動とはまたチグハグさがあるそんな行動だが、ふと男はチラリとミゾネを見た。ミゾネはただ小首を傾げて笑っている。
「……仕事の依頼だ。どうやらちゃっちいファミリーが俺たちのところへ戦いをふっかけてくるみたいだぜ。そいつらをぶちのめすのが俺の仕事だとよぉ。俺を小間使いかなんかと勘違いしてねぇか?あいつはよぉ」
「
「そうだ。
嫉妬心にまみれた相貌から、あいつという人物には相当こだわりがあるのだろう。しかしながら、その怒りもまた長く持続しない。男は短気ではあったものの、怒りが冷めるのも早いたちのようで、すでに冷静な表情で指示を出す。
「
「ええ、みたいですね。では、一旦相手の情報を探って……」
「いや、必要ねぇ。俺たちは
「申請ずみの場合は、一旦戦いが終了して停戦期間後にしか申請できませんよ。それに、無名のファミリーを転がすのに総力戦に持ち込めば、費用が押しますから」
はあ、と男は息を吐く。ボスと呼ばれてはいるものの、財布のひもを握っているのはミゾネの方だったようだ。
「順位戦の申し込みを上位にできるくらいの資金繰りってことは、吸収すればあの方は喜ばれるかもしれませんよ?」
「…………」
じと、と三白眼を鋭くして睨み付けたものの、男は胸元をくしゃりと握りしめた。
「……なら、
「ええ、もちろんですよ。うちはそうやって大きくなってきたんですから」
「ステラの名を冠するやつがうちの中に組み込まれるのは気に食わねえが、いざとなりゃあ頭だけ追い出しゃ良いからな。メンバーの選定はすでに終わってんのか?」
「ええ。五人勝ち抜き、うち一戦に関しては二人での申し込みが行われていますから」
男は階段を踏み締め、階上へと歩き出す。
「おや、お返事を書かれるので?」
「書くわけねぇだろバカかテメェは」
「では、ここでお待ちしておりますので、できるだけ早くお願いいたしますね」
見透かしたようなミゾネの言葉に男は盛大に舌打ちして腹立たしさを表すように足音をわざと立てながら立ち去っていった。
「んん〜〜〜……
「おや、
「んグゥ……せめてステラ・ファミリーの抗争の件からはぁ、私を外していただけませんかねぇ」
「ステラの名を冠するものに関しては厳しく行かなくてはと仰っていたのはあなたの方でしょう、
「うぅ、前回行った時は酷い目に遭いましたしぃ……それに、いえ……
ふっくらとした指先をモゾモゾ絡ませながら、彼女はソファーへと体を沈み込ませる。
「……
「ふふ、再び王が生まれることを期待しているのですか?残念ながら……我々は
「……確実に、死んでいる、ですよねぇ。……はぁ……私ったら、どうしたら良いのでしょうねぇ」
もったりとした響きの言葉を紡ぎながら、雨の降りしきる外を見つめた
死体を偽装するような能力はない。あったところで幻を見せるだけ、加えてその場にいた全員がそうと納得するほどの……何かを見た、というわけではない。ケーキを切り分けるように
雨は変わらずに降っている。
三日後には戦いが始まる。
「……ただの、隠し子とかであればただ安心なんですがねぇ……」
「隠し子?」
「いえ、なんでもありませんよぉ〜。私のただの妄想ですからぁ」
全てが明らかになるのは、その時だ。
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