第7話 ミリアは母親に感謝する

「「「「「おぉぉぉぉぉおおおおお〜」」」」」

「こちらの食材の出汁はマイナス要素なので、別鍋で茹でて、改めてだし汁の入っているほうにうつすと……」

「「「「「ほおぉぉぉぉぉおおおおお〜!!」」」」」

「主人様の健康を考慮し、脂身はある程度カットします」

「「「「「ほおぉぉぉぉぉおおおおお〜!!」」」」」


 全て亡きお母様から伝授されたことである。

 伯爵邸で料理をする機会はなかったが、知識だけは覚えていたからなんとか実践ができた。

 それにしても……、使用人たちが初めて知りましたといわんばかりの反応である。


「そのような閃きをよく編み出しましたね!」

「いえ、これはお母様の教えです」

「すごいお方に習ったのですね! 一流の料理人でも知らなさそうな技ですよきっと」


 この国、ジュベナリーヌ王国自体が、他国と比べてもあまり食に対する文化が発展していないらしい。

 食材が貧しいわけではないのだが、基本的には素材に火を通したり、生で食べても良いものはそのまま提供したりすることがほとんどである。


 いっぽう、お母様は元々他国の人間だったため、その国の文化の良い部分を私に色々と教えてくれていたのだ。

 今、ここで使用人たちが喜んで覚えようとしてくれるのも、すべてお母様のおかげである。


「お母様、ありがとうございます……」


 私は小声で天国にいるお母様にお礼を言った。


 ♢


「美味い……」

「「「「「ありがとうございます!!」」」」」


 レオンハルト様が美味しそうにスープを食べている。


「ここにいる皆で作ってくれたのか?」


「ほとんどミリアさんの監督のもとでございます」

「的確丁寧なご指導で、しかも、調理法や今までの常識を覆すようなことまで……。驚かされる点ばかりでした」

「ご主人様からのお褒めに預かり光栄でございますが、全てはミリア様のおかげです」

「ほう……」


 なにを言っているのだろうか。

 私はただ、お母様から習ったことをそのまま伝えただけである。

 頑張って作ろうとしていたのは使用人のみんなだ。

 私は褒められるほどのことまではしていない。


「みんなで頑張って作ったので、褒めるなら作った使用人さんたちにお願いします」

「ふむ……。もちろん皆ががんばってくれたことはそうであるが、こればかりはミリアがいなければ出来なかったことでもある。素晴らしい」

「えぇっ?」

「それに、今回ミリア以外の者たちは初めて作ったのだろう? それでこれだけのクオリティを出せたのだ。ミリアの教育もとい、教え方が非常に良かったのだろう」

「えぇっ?」


 そんなことはないと思うが、どういうわけか全員が私に感謝するような眼差しを向けてくる。

 お母様、ごめんなさい。

 料理の知識を教えてくれたお母様が褒められるべきことを私が……。


「今後、公爵邸の食卓は華やかになりそうだな。ありがとう」


 レオンハルト様が私に向けて笑顔を見せてくれた。

 群青色の綺麗な瞳と目が合い、私もつられて笑顔になった。

 こんなに心の底から嬉しくなって喜べたのは初めてかもしれない。

 これもすべてはお母様のおかげだ。


 私は、レオンハルト様の笑みと使用人たちの喜ぶ顔を見て、おなかいっぱいになった気分だった。

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