第8話 メメの美容講座
「う……う〜ん……うまくいかない……」
「こればかりは慣れですね。いずれ綺麗に仕上げることはできるかと思います」
毎朝、使用人としての仕事をするまえに顔に化粧をする習慣だけは身についた。
だが、どうしてもうまく化粧ができなくて困っている。
メメ様から教わったのに、なかなか上手にできないためガックシと顔を落とす。
「珍しいですね。そこまで気を落とすことはないかと」
「何度も教わっているのになかなかできなくて、メメ様に申しわけないなと……」
付きっきりで教わっているのになかなかうまくいかない。
少しづつできるようになってきてはいるため楽しいし、もっともっと頑張ろうとは思っている。
だが、メメ様に負担をかけさせてしまっていることに関しては本当に申しわけないと思ってしまう。
「人間、得意不得意というものはあります。それに、掃除は何年もやり続けていたからできるとしても、化粧を始めたのは公爵邸へ来てからでしょう?」
「そうですが……」
「まだ一ヶ月も経っていません。始めたばかりなのに落ち込む必要などありません」
メメ様の優しいご教授を受け、顔を戻した。
「今日は新しいお仕事を覚えていただきますので」
「はいっ! しっかり挽回したいと思います!」
「挽回もなにも……、ミリアさんはお化粧以外は明らかに公爵邸の使用人の中でトップクラスですから。いや、あるいは王都の使用人の中でも一番なのでは……」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。本日は、私ども使用人たちが独自ルールで行っているマッサージです」
「マッサージ……ですか」
シャルネラ様に毎日のように足を揉んだり手や腰をほぐしたりするように命令されていた。
やはり公爵邸でも似たようなことはするのだろう。
しかも、今回は一人相手でなく、使用人二十人全員にマッサージをするとなればさすがに大変だと思う。
覚悟を決めなきゃ!
「独自ルールのため、強制はいたしません。ただ、美容に力を入れるためにもお勧めはしますが」
「もちろんやります。やらせてください」
「本当に好奇心と意欲が素晴らしいですね。教えがいがあります」
「楽しみです!」
マッサージか……。
さすがにあの作業は大変だからなぁ。
気合を入れて挑まなきゃ!
と、思っていたのはマッサージが始まる直前までだった。
♢
「きゃははははああああああぁぁぁぁー!!」
「ふひょぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」
「あーーーーーーーーーーっ!!」
私は情けない悲鳴と発狂を繰り返している。
悶絶状態になりそうなのを必死にこらえつつ、痛気持ちよさと本当に痛いのと、くすぐったさが全て同時進行していてなんとも言えない快楽を味わっている。
「メメメメメメメ様っ!」
「メメです。メが五文字多いです」
「私がマッサージするのではなく、される……のですかぁぁぁああああ痛い痛い痛い!!」
質問しながらも、使用人たちが私へ容赦ない攻撃(マッサージ)が続く。
メメ様も私の足裏を容赦無くグイグイと押してくる。
「使用人たるもの、仕事ができるだけではいけません。外見もしっかりと整え、身体も常にメンテナンスを欠かさず、常に美意識を保つことが大事なのです」
「こればっかりはぁぁぁぁああああ……、ひい……ひい……」
「足裏を押し、足首から揉み解しで血行を促進し、ヘッドスパで疲労と心身の疲れの癒し、最後に特製のボディミルクを使って綺麗になりましょう」
「はぁ……はぁ……。毎日……ですか?」
もはや痛みと気持ち良さのドッキングで大変な状況である。
ある意味でこれはキツい。
「二十一人いる使用人で交代制です。六人が一人に集中的にマッサージを行います。それを二度やっていますので、概ね三日に一度は気持ち良い日になります」
「ふへぇ……」
「ミリアさんは今日は体験していただくだけで結構です。明日からは体験を兼ねてどこを押されているか、どのような力加減でどこを揉まれているかなどを分析していただきます。他の方々にもやっていただきますので」
「は、はい。押す場所などはなんとなくわかりそうです」
「よろしいです。でも、今日はこのまま気持ちよくスッキリしていってください。みんな、新人様に特別フルコースやるわよ」
「「「「「はい!!」」」」」
このあと、私は身体中をされるがままにされ、最後にボディミルクというものを塗ってもらう。
終わったあと、身体がここにいないのではないかというくらいの身軽さ、スッキリした感覚を体験した。
美容も大事なのか……。
今までその手に関しては無頓着だったから、良い機会だししっかりと意識するように心がけることにした。
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