第6話 ミリアは認められる
「え……? ミリアさん素晴らしいです。素晴らしすぎますよ!!」
メメ様の発言デジャヴ。
庭園内で気になったことを十二個ほど報告しただけである。
ついでに良いなと思ったところも報告した。
果実園と農園が素晴らしかったり、公爵邸の中央付近に位置する噴水周りのベンチやテラス。
あそこでお茶などをしたらさぞ優雅だろうなぁなどという感想も含めた。
庭園巡回の影響で、公爵邸がさらに好きになったのだ。
一年しかいられないと思うと寂しい気持ちにすらなってしまうほどである。
メメ様だけでなく、周りにいる使用人たちまでもがザワザワとしていた。
「新人のミリアさん、たった一日で公爵邸の散策をしてしまったそうよ」
「まぁ、私たちの研修では一週間も必要だったのに!?」
「それだけでなくて、料理も万能、掃除も抜群に早くて丁寧らしいわよ」
「この前の異常に美味しかった料理って、ミリアさんのだったのね!」
「あのメメ様が私たちに報告するんですもの。よほど凄い新人さんなのでしょう」
だんだん恥ずかしくなってきた。
伯爵邸での嫌な視線とは真逆で、明らかに尊敬の眼差しのようなものを向けられている。
そこまでのことをしたつもりはないし、ここの公爵邸が如何に優しくて褒め合える空間なのだなと理解できた。
「ミリアさんには本当に教えることなどありませんね。前にも言いましたが、むしろ私たちが学習したいくらいです」
「そ、そんなに褒めていただかなくとも、やる気はありますよ」
「いえ、これは事実なので。もしかして、ミリアさん……。お世辞を言っているとでも?」
「え……」
図星だし、そうですと言い返せなかった。
メメ様がクスクスと笑みを浮かべた。
「公爵邸は、お世辞を言うほど甘くはありませんからね。今までの言動は全て事実です。それだけ、ミリアさんの評価が高いのですよ」
「え……えぇっ!?」
「ふふ、どうやらご自身で気がつかれていないようですね。使用人としての仕事に関しては完璧ですよ」
「信じられません……。私、ずっと遅いだのグズだのノロマだのと言われる毎日だったもので……」
私よりも伯爵邸メイド長のシャルネラ様のほうが仕事のスピードはとても早かった。
少々雑なところもあり、私はそのあとにコッソリと直したり掃除し直したりすることはあったが、伯爵様からシャルネラ様は毎回褒められていたらしい。
いまだに、お世辞抜きで褒められていることに実感がわかなかった。
「そんなこと言った人ひどすぎます!」
「ミリアさんってそんなに酷い人がいる中で働いていたんですの!?」
「悪魔みたいな人がいるところに戻らないで、ずっとここにいればいいですのに」
なんということだろうか。
私のことをこんなにみんなで庇ってくださる。
ますますここでの修行にやる気がみなぎってきた。
使用人たちが一斉に私の近くに集まって、円陣を囲んでいるような状態になってしまった。
中央に位置する私は、ひとまずなんとなく一回転ぐるっとまわり全員の顔をチェックして覚えておく。
その動作がおかしかったのか、ガイム様がくすりと笑って笑顔を見せた。
「ミリアさんの事情は大方把握しました。明日からはミリアさんにやってもらいたいことがあります」
「は、はい。なんでもします!」
「よろしい。これはもしかしたら、公爵邸そのものをさらに良き場所に改良するチャンスかもしれませんので」
今までどんなに大変な仕事であっても、なんとか終わらせてきた。
もちろん公爵邸ではそのようなことはないだろうが、過去の経験があるから、『なんでもやってやるー』という気合いだけは十分だった。
だが……翌日。
「A班は最少人数で掃除と庭の手入れ、裏庭の農作業関連を。B班は……、ミリア先生の料理教室を始めたいと思います」
「へ? 先生……?」
使用人たちのいかにも期待していますよといった視線が重くのしかかってきた。
どうやって教えれば良いんだ?
というよりも、教える立場なのかな私……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。