Hot snow【ジーク×ユライ】
「ジークだ、よろしく、ユライ」
「よろしく」
触れた掌は温かく、彼が生きているということを本当の意味で知った。
*Hot snow*
目の前で、仲間が撃たれた。孤児たちに、瓦礫でおもちゃを作っている姿を幾度か見たことがある。子供が好きで、優しい男だった。
「メリア」
メリアの腹にはぽっかりと穴が開いており、中からどす黒い液体と、柔らかそうな内臓が飛び出ていた。腹を撃たれたから、顔はとても綺麗で、まるで眠っているような静かな最後だった。でも名前を呼んでも動かない。そういえば彼は、僕が人型になって初めて、まともに会話をした人間だった。
「ユライ、いくぞ」
隣にいたキオンが泣くのを堪えながらメリアの遺体の胸からタグを引きちぎってポケットに入れた。遺体は持って帰れない。可能なら衛生面から焼くか埋葬するが、それも今回は難しそうだ。今はノーツたちを安全な場所に匿わせるために、移動の最中だったから。
「ノーツたちは気付かれてない。俺たちにも、無差別に乱射しているだけだ。場所までは特定できないみたいだな」
「センサーはないということか」
「あぁ。そうみたいだな。こっちだ、来い」
アンドロイドたちには移動するものを感知したり、生きものの体温を関知するセンサーがあるものもいる。それを、無効にする装置をノーツたちは持っているらしい。僕は持っていない。人数分はないから、重要な人間しか持てないのだ。今回、メリアを撃ったアンドロイドはセンサーを持たないらしい。メリアは運が悪かった。僕は十字架を切ってメリアに頭を下げた。撃たれたのが僕だったなら、身体を代えれば元に戻ったのに、と少し残念な気持ちになった。そして、短い祈りの後、重い銃器を背負い、キオンの後に着いていった。
「………ふう」
着いたのは爆破された形跡はあるものの、比較的残っていて隠れやすい家だった。数か月前までは子供のいる家庭に使われていたようだ。壁に、幼児の絵が貼ってあった。たぶん、この場所で殺されたのだろう血の痕と共に。
「ユライ、生きてるか」
キオンが声をかけてきた。
「なんとかね、マリオは?」
「腕を撃たれた。が、なんとか持ち直すだろう。ノーツたちが精一杯治療してくれてる」
ノーツたちは医療の知識もあった。元々ドクターだったのだ。アンドロイドを停止する装置を作っているがこう毎日怪我人が多くてはそちらに向かうこともできないだろう。アンドロイド側に流す情報も少なくて助かる。
僕は迷っていた。
ノーツたちの必死さを間近で見て、それでも、彼らを殺せるのかと。
僕には彼らをどうしたいという意思がない。アンドロイドとしては殺した方がいいのだと思う。ノーツたちが死んでしまったらそれまでだったんだなとも思う。でも、殺す理由が、僕個人にはない。彼らに嫌なことをされたわけでもないし。
ノーツたちを殺すのは簡単だ。銃で撃てばいい。起爆装置を置いてボタンを押すだけでいい。情報をアンドロイド側に流すだけで、いい。
ただ、ノーツたちを殺すのは全ての情報を引き出してからだと言われていた。装置の図面等が残っていたらノーツじゃない他の人間が、アンドロイドの脅威に変わるだけだからだ。
「これ、お前が持っていてくれ」
チャリッと音がして、キオンがタグを投げた。回収したメリアのタグだ。
「なぜ、僕に?」
「アイツ、お前と仲良かっただろ」
「そう、かな」
確かに常に一緒にいた。たぶん、相棒というものだったのだろう。彼にとっては。
「メリアはお前のことが好きだったんだ」
「え?」
「おっと、お前がホモフォビアだとしても俺に当たるなよ」
投げられたタグをじっと見る。少し血がついて汚れていた。好き、という感情はジークに対して持っていたが、好かれるという感情は知らなかった。
「なあ、ユライ。お前、人を探していると言ったな」
「うん」
「会えるといいな」
キオンは生きている間に、と続けたかったのかもしれない。ジークはキオンの幼馴染だ。一緒にいたら会えるかもしれないと思っていたが、それは安易な考えだった。人間は駆逐され、生き残っている人間は既に隠れており、どこにいるかなんてわからなかった。キオンにはジークのことは言っていない。それとなく家族や友人のことを聞いてみたが、ジークの行方はわからなかった。
「………もう、諦めた方がいいのかもしれないな」
「………恋人だったのか?」
「そんなんじゃないよ、彼は僕のこと、知らないから」
「彼?」
キオンが驚いたように目を見開いた。
「男だったのか。てっきり、家族か彼女かと……」
「男だよ、僕と同じ年くらいの……昔、世話になったから」
「世話になったのに、向こうはお前のこと知らないのか」
「いろいろあってね」
ふふ、と笑うと、キオンは肩をすくめた。
「やあ、ユライ」
血だらけの白衣を着て、ノーツが歩いてきた。バルコニーから夜空をみていた僕は手を挙げて挨拶する。ノーツはポケットから電子タバコを取り出して、スイッチを入れた。タバコや酒なんて嗜好品を使うのは人間だけだ。少し依存というものに興味はある。
「メリアのこと、聞いたよ。残念だったな」
「まあ、仕方ないよね。あそこが彼の墓場だったってだけで」
そう言うと、ノーツは驚いた様子でこちらを見ていた。なにか変なことを言ったのかなと首をかしげると、ノーツは目をそらして「いや、その、彼は君の恋人だと思っていたから……」と呟いた。
「えっ?」
「付き合っていたんじゃないのか」
「僕が、メリアと?」
先程、キオンから投げつけられたタグを掌で弄る。結局捨てられなくて自分のタグと共に、首から下げていた。
「そんなふうに、見えた?」
「あぁ。少なくともメリアはお前のこと………」
「それ、キオンにも言われた。でも、そんなんじゃないよ、彼とは………相棒みたいなものだったのかな」
僕はメリアに対して何の感情も持っていなかった。ノーツやキオンたちのように興味すら、なかった。それなのに、周囲の人間はメリアは僕のことを好きだったという。
「…………ごめん」
ぽつりと漏れた言葉は何への謝罪だったのか。メリアの気持ちに答えられなかったためか、そもそも意識すらしていなかっただけなのか。ノーツは美味しそうに煙を吐きながら、うっすらと笑った。
「君は機械のような人間だな」
その言葉にぞくりとする。
「感情の起伏が、ない」
「…………あるよ」
「表面上は、ね。心配そうにしていても、心の中ではなんとも思っていないんだろう」
まさか自分がアンドロイドだとばれたのかと思ったが、そうではないらしい。いや、この時点でノーツにはばれていたのかもしれない。なんたって、ノーツは人類一と言っていいほど、頭がよくて勘がいい男だった。
「……性格なんだ」
「ふーん」
「それより、ノーツ。装置の進みはどうだい?」
「機械より人間の方を弄っていることが多くてね、残念ながら進んでない」
ノーツは電子タバコを咥えながら、空を見上げた。
「……人間に勝ち目なんてあるのかね」
「ノーツが無理だと思った時点で、人類は敗けだよ。君しか、アンドロイドに勝てないんじゃないかな」
「ははは、そうかな。ユライは面白いな」
「感情の起伏がないのに?」
「怒るなよ」
「怒ってない」
僕は、ノーツの電子タバコを奪って吸ってみた。けれども、吸いなれないからなのか煙が喉に入り、盛大に噎せる。ノーツは笑いながら、電子タバコを受け取った。
「ユライ見てると、思い出すんだよな」
「ごほっ、ごほっ、誰を?」
「大切だったやつ」
ノーツはもう一度深く吸って、スイッチを切った。フーッと真っ暗い闇の中に、煙が吐き出される。
「家族?」
「いいや、家族は母だけだったけど、数年前に病死したんだ」
「じゃあ恋人?」
「いいや、そいつには恋人がいた」
「………片想いだったの?」
僕のジークへの思いのように、ノーツはこっそりと愛を捧げていたのだろうか。そう問うと、ノーツは「さあね」と意味深な笑みを見せた。
「……死んじゃったの?」
人間は簡単に死ぬ。メリアも、キオンの妻子も、簡単に死んだ。心臓が止まって、脳の機能が低下して……逆もあるかもしれないけど、そうして人間は死に至る。死ぬという怖さはまだ感じたことがなかったし感じることもないのだろう。壊れるという怖さとはまた別物だから。
「うん、まあそうなのかな」
「曖昧だね」
「ははは、そうだね」
ノーツは白衣のポケットの中に、冷めた電子タバコを突っ込んだ。そして「仕事に戻るか」と部屋の中にきびすを返す。
「ユライ」
「なんだい?」
「僕が愛したのは、世界で初めて人間を殺したアンドロイドだよ」
去り際に囁かれた告白に、僕は言葉が出なかった。
***
その日の銃撃はとても酷かった。相手にセンサーがあるアンドロイドが含まれていたのか、両手で機関銃を発砲されては反撃する暇もない。爆撃音の中、なんとかノーツたちを地下道に案内できた。後は自分だけ、と思い振り替えるとピカリと閃光弾が弾け飛ぶ。視力を奪って逃げられなくしてから殺そうとする方法だ。ついで、瓦礫が崩れる音がする。ノーツたちを逃した入り口が閉ざされたのだろう。僕はセンサーではアンドロイドに認識されるから撃たれることはまずないとは思うけど、視力がないのはまずい。
「クソったれ!」
漏れたのは悪態の言葉。作り物の目は人間よりも影響は少ないが、それでも激しい光には目が眩む。こうなってしまっては座り込むしかない、そう思った瞬間「こっちだ!!」と腕を捕まれた。そして引きずられるように、影の中へ入っていく。仲間ではない人間の声だ。
………いや、この声、くぐもっているが、どこかで聞いたことがある。
「はぁ、はぁ………」
「頼むよ、気付かないでくれよ、向こうに行け」
どこかの瓦礫の隙間に入ったのだろう。撃ってくるアンドロイドを軽く覗き、舌打ちをする。男は黒の戦闘服にゴーグルと帽子とマスクをしていた。片腕で僕を支えて、片腕で大きな銃を構えている。男は僕の頭を自分の胸に押しつけて、守ろうとしてくれているのがわかった。
「……センサーが……」
「何だ?」
「センサーがあるから、気付かれると思う」
「畜生っ」
「相手はどんな形状をしている?ひとり?」
「……メタリックなボディーに両手に機関銃を持ってるスペシャルな美女だ。足はメデュウサの髪のように数本で移動してる。見た感じは2人だ、こんな状況じゃなければ間違いなくナンパしてる」
こんな状況で冗談を言えるなんてと思わず口が緩んでしまった。戦闘用のアンドロイドはいくつかの種類にわけられる。そして、その弱点も異なる。たぶん相手は索敵のために作られた小型の兵器だ。前線で活躍するようなタイプ。そいつのセンサーは、額にある。身体が小さいから高い位置に埋め込まれていることが多い。
「頭を狙えるかい?」
「あいつらの?頭を飛ばしても、人工知能が体にあったら意味がない。こっちの場所がバレるだけだぜ」
「額にセンサーがある。そこを撃てば、相手は人間を探せない」
「なるほど」
僕の目は既に見えていて、でもアンドロイドだとバレたらまずいから見えない振りをした。男は僕をより奥に押しやって、座らせてから、慎重に銃を構える。数分後、パーンパーンと2回音がして、銃撃音がやんだ。と思ったらより激しい銃撃が始まった。
「失敗したのか?」
「なめるな、二つとも額ど真ん中だ。あいつら、わけわからなくなって暴れてるだけだろ。弾切れならいずれ終わる」
男のいう通り、しばらくしたら音は小さくなった。完全に聞こえなくなって、ふう、と男はため息をつく。
「助かったよ、ありがとう」
「いや、君のお陰だね。こちらこそ礼を言いたい。センサーの場所なんて、なんで知っていたんだ?」
「僕の知り合いに、やつらのスペシャリストがいてね」
僕はスッとゴーグルを外して身体を見る。どこも傷付いてはいないみたいでほっとする。万が一、皮膚が剥がれたら鉄の塊が見えてしまう。こんなときは毎回ドキドキする。
「目は?」
「平気みたい。とっさに目をつぶったから」
「そうか、まともに受けたのかと思ったが安心したよ」
男も帽子を取り、ゴーグルを外した。
その、顔を見て僕は息を飲んだ。誰よりも会いたかった、探し求めていた男だったからだ。
「ジ……………」
「お、君の仲間か?」
遠くから、キオンが僕の名前を呼ぶ声がする。
「ユラーイ!!ユライ、生きてるかー?」
「………キオン」
「キオン?」
キオンは走り寄って僕の側に来た。そして、隣の男を見るなり、驚いた様子で目を見開いた。
「もしかして、ジークか?」
「キオンってあの、子供の癖に町一番太っていた……あの……」
「いつの話だ!」
互いを確認しあった二人は、笑いながらきつく抱擁した。戦地での幼馴染みとの再会は、どんなに嬉しいことだろう。僕はジークに会えた喜びで胸がいっぱいになった。
ジークが生きていた、ただそれだけで、嬉しい。
「ははは!!なんてこった、お前とまた会えるなんて、おいまさか幽霊じゃないだろうな」
「馬鹿言うな。お前こそ、すごい痩せたじゃないか。誰かと思ったぞ」
「強制的なダイエットをしたせいかな。お前こそ、窶れたじゃないか。相変わらずイケメンだがな」
幼馴染み二人は抱き合った後、すぐに離れた。そして、キオンが僕の方を向いた。
「ユライ、怪我はないか?」
「あぁ。そっちの彼が助けてくれた」
「そうか、良かった。君だけ逃げ遅れたから、心配していたんだ。紹介しよう、こっちはジーク。昔、家が近所だったんだ。こっちはユライ。俺たちの仲間だ」
ジークは笑顔で手を差しのべてくれた。それに恐る恐る触れる。僕は夢を見ないけど、夢のようだと思った。
「ジークだ。よろしく、ユライ」
「よろしく」
掴んだ手にぐっと力を入れて起き上がらせてくれた。背の高いジーク。愛しい男。それが、目の前に生きて立っている。僕の涙のセンサーは壊れてしまったから出ないけれども、出てたら確実に涙を流していただろう。
「リックが撃たれたけど、命に別状はない。ノーツたちは無事だ」
「そうか」
「ジーク、お前今なにしてるんだ?」
「生きているよ、必死にね」
「仲間は?ひとりか?」
「他に3人いる。無事かはわからないけどな」
辺りを見回すと、誰一人立っていなかった。ジークの仲間らしき人間は隠れてしまったのか、あるいは………。
「………生き残ったのは俺だけか」
「仲が良かったのかい」
「いや、戦争が始まってから一緒にいた奴等だ……素性も知らなかったが、助け合って生きていた」
ジークは俯く。泣いてはいなかった。その心の中はどうなっているのか、僕にはわからないけれども。
「……一緒に行こう、ジーク。お前の力が必要なんだ。ノーツたちを紹介する」
キオンがジークの肩を叩いた。
ジークは僕らと共に行動することになった。ジークは器用な人間だから、すぐにみんなと打ち解けた。
「ジーク、困っていることはない?」
「大丈夫だよ、ユライ」
「そう、僕にできることがあったら言ってね」
「おいおい、そこ、夫婦みたいな会話はやめてくれ」
「どちらかと言えばユライが母親みたいな台詞だったけどな」
「ママが恋しい年じゃねーだろ、ジーク」
周りの野次馬がどっと笑う。ジークはからかいを本気に取らず「ユライは新参者に気を使ってくれてんだよ」と流していた。それでも、ジークが僕のせいで嫌な思いをしてると思ったら気落ちする。僕は食事をキオンに貰って、ジークの隣に座った。
「ごめん、僕は君に構いすぎてるかな」
「気にするな、ありがたいと思っているよ」
ジークは僕を見て、優しく微笑んだ。それだけで僕は、天にも昇るほど幸せな気持ちになった。
「ユライ」
隠れ家を歩いていたら名前を呼ばれた。振り向くと、キオンと仲のいい古参の兵士が手を降っていた。僕とはあまり話したことのない男だ。呼ばれる理由がなく、首をかしげながら僕は近付く。
「何か用?」
「ここじゃちょっと……向こうに行こうぜ」
するりと腰を抱かれ、嫌悪感に眉を寄せる。
キオンたちの仲間になったばかりのときはよくあった。いわゆる、性欲処理の誘いの前兆だ。僕はアンドロイドだから性欲なんてものはないに等しい。強いて言えば、体はセクサロイドだけど、セクサロイドのように人間の精を欲する機能は持たないのだ。相手が言葉が通じない様であれば、力ずくで拒否してきたし、今回もそうなりそうな雰囲気だった。
「ここじゃ駄目な理由は?」
「無粋なこというなよ、ジークにはやらしてんだろ」
ぎゅっと尻を揉まれて、その手を振り払う。
「僕に触るな」
「お堅いこと言うなよなあ。お前、メリアともヤってたんだろ。いいじゃねーか。セックスするくらい浮気になんねーよ」
「…………」
メリアとはそんな仲ではなかった。彼とはそんな話すらしたことがない。この男と違って、とても紳士だった。メリアが僕を好いていてくれたと言うだけで、下賎な男にそんな風に言われる筋合いはない。
「お、図星か?ジークには黙っといてやるから、一回だけヤろうぜ。お前も尻の穴、弄られたくてうずうずしてるって顔してるぜ」
僕はその男を睨む。こんな男、生きていても、誰も幸せにならないのではないか。ピュウと口笛を吹く男の喉元に、ポケットから取り出した、缶詰を開けるためのナイフを突きつけた。一瞬のことで、男は目を見開き、ごくんと唾を飲む。
「人間は脆い。アンドロイドと戦うより簡単に人を殺せる。僕は知っている人間を殺したくない。さあ、生きたいか死にたいか、どちらか選んでくれ」
「ちっ、冗談も通じないハスラーが」
男は鼻に皺を寄せ、僕の手を払った。そして、大きく舌打ちをして去っていった。僕はナイフをポケットにしまい、深くため息をつく。そして、影から見ていたジークに声をかけた。
「ジーク、いるんだろ」
「………あぁ」
ジークは降参と言うように両手をあげて物陰から出てきた。
「すまない、止める前に、君が解決していたから」
「いや、巻き込まれなくて良かったよ。ジークが出てきていたら、またあらぬ噂が立ってしまう」
「………こういうことは、多いのか?」
「………まあ、たまにね。僕は女顔だし」
ジークの顔も整っているが、彼は男性より女性に好かれそうな顔だ。それに、性格上そういった男性からの誘いはあまり来ないだろう。逆に僕は多くの人間が好む顔と研究されてきたセクサロイドなのだから仕方ない。
「………ユライ。君は、その、恋人がいたのか?」
「いないよ」
「……そうなのか?」
「何て言えば、君が信じてくれるかわからないけど…神に誓って…僕は誰とも寝たこともないよ」
他の誰に何と思われようとも、ジークだけには嫌われたくない。ジークは少し思巡した後、口を開いた。
「………俺は、ユライのことが好きだ」
突然の告白に、思わず立ち止まる。ジークは真剣な顔で頭をかいた。
「…ジークは……ゲイなのか?」
「愛すのに、女だとか男だとか気にしたことがない。君という人間に、惹かれた」
人間、という言葉にツキンと胸が痛んだ。それでも、僕は嬉しさのあまり言葉が出なかった。
「気持ち悪いと、思うか?」
「………」
「……ユライが誰を思っていようと、俺は」
「………僕も、男が好きだ。君が、ジークが、好きだ」
「ユライっ」
「君が好きだ、ジーク。ずっと、好きだった」
堪えきれなくなって、ジークの胸に飛び込む。
「俺の、恋人になってくれないか」
「もちろんだよ……嬉しい……」
抱き止めてくれた腕は逞しくて、彼を騙しているという罪悪感をかき消した。
好きだ。
ジークが好きだ。
自分の誇りだった形を変えるほど、ジークが好きだ。
例え、君が僕の秘密を知らなくても
例え、僕が人間でなくとも
ジークの側にいれる
ジークが僕を見てくれる
それが許されるのであれば、僕はもう何も要らない。
ジークと恋人になって、キスをして、セックスをして、愛されるということを知った。
一緒に戦って、助け合って生活をして、人間にでもなったかのような気分になった。
このまま永遠にこの生活が続けばいいと思っていた。
だけど、物語には必ず終わりがある。
キオンもノーツも、僕が殺した。
君は殺せなかったけど、彼らは殺せた。大切な、仲間だったから、他のアンドロイドに殺されるくらいなら、僕が殺したかった。
ノーツは最後『やっぱり、君は〔そう〕だったのか』と笑っていた。撃ってからわかったことだが、彼は身体の半分以上が、アンドロイドだった。
でも、ノーツの物語は、また別のお話だ。
これは僕とジークのお話。
『ジーク、愛してる』
決してバッドエンドの悲恋話ではなく、
一人の人間に愛された一人のアンドロイドの
幸せな生涯を描いたラブストーリー。
その奇跡的な話は、だいたいこんな感じだった。
*END*
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