歌舞伎と小説

 みなさんこんにちは、カイエです。


 今回は過去話ではなく、盟友(とカイエが勝手におもっている)伊草いずくさまのエッセイ「無菌室四畳半、日当たり良好。」の「まとめたいことがある」で書かれていたことにフックして、普段思っていることを書いてみたいと思います。


 まとめたいことがある - 伊草いずくさま「無菌室四畳半、日当たり良好。」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330652957001952/episodes/16817330656293852887


 ------ここから引用-----


 例を挙げると、「キャラの日常と小ネタとCPネタと何かいい感じの戦闘シーンハイライト、を秒で思い浮かべて書くに至る各技能と、それを楽しむ快楽回路は持ってるけど、本編を書くための技能群は持ってない」とか。


 この場合、「超活発で“小説メーカー使ってページに収めたとき一~四枚になる掌編”は百作とか二百作とか作れるし作ってるし頭の中ではすごいキャラや作品世界の解像度は上がってる、んだけど本編だけはない」みたいな感じに例えばなる。


 -----ここまで引用-----


 こちらについて、書き手ではなく読み手として書いてみたいと思います。

 最初はコメントに書こうと思ったのですが、伊草さんの言いたいこととレイヤーが違う話になるので、「ちよろず」に持ってきた次第です。


 ▽


 これ、よほどのプロフェッショナルでもない限り、多かれ少なかれありそうな話です。

 書きたいシーン(うまく書けると自信があるシーン)のために無理やり形にしたような小説も多いです(実はそういうのも結構面白いと思ったりします)。


 かくいうぼくも、書きたいシーン先行型です。

 まずそれ(シーン)があって、それを演じるキャストがいて、そのシーンに向かうストーリーは圧倒的に後ろからついきます。

 そしてもちろん、書きたいシーン以外が得意なわけでは、ない。

 むしろかなり無理をしてます。


 だからこそ計画的にキャラクターやストーリーを作れるかた(たとえば伊草さん)に憧れるわけで、いまも「物理法則」で四苦八苦しているわけです。


 ▽


 と、ここまでは書き手視点で、ここからが本題です。


 最近ぼくが熱望しているのは「ストーリーなし、書きたいシーンだけ」の小説です。


 ぼくはこれを勝手に「歌舞伎形式」と呼んでいます。


 ▽


 歌舞伎の超人気タイトル「三人吉三巴白浪さんにんきちさともえのしらなみ」の、血入りの盃を交わすシーンはすごく有名です。

 タイトルを知らなくても、そのシーンを目にすれば「あ、見たことあるかも」という人はすごく多いでしょう。

 いろんなマンガ作品や映画でもインスパイアされてますね。


 ほかにも「絶景かな、絶景かな。春の宵は値千両とは、小せえ、小せえ。この五右衛門の目からは、値万両、万々両」という石川五右衛門の台詞をご存知の方は多いでしょう。

 これは「歌舞伎『楼門五三桐さんもん ごさんのきり』のワンシーンだそうです。


 へぇー。


 で。

 じゃあ全体の細かいストーリーを理解している人がどれくらいいるのかといえば、ほとんどいないんじゃないでしょうか。


 というか、ぼくも知りません。


 しかし、これは無理もないことなのです。

 これは歌舞伎の大きな特徴「名シーンだけを演じることが多い」ことから起きる現象です。


 歌舞伎はバリバリの大衆芸能です。

 しかも都会の浮世で発展したものでもあります。

 気の短い江戸っ子が、クソ長いストーリーを初めから最後まで見てくれる、なんてことはもちろんなくて「いいから早くあの名シーンを見せろ!」ということになります。

 歌舞伎座も「じゃあやってやんよ」と、名シーンを繰り返し繰り返し演じるわけです。


 そしてお客はみんな、なんとなく「この人たちはこういう関係なのだな」と想像して、そのシーンのかっこよさに酔いしれるわけです。


 ▽


 これって、現代っぽくないですか。

 YouTube 動画なんかでも「最初の5秒で客を掴まないと見てもらえない」なんて言いますし、長い動画は倍速で見るのが当たり前なんて話もあります。


 ショート動画なんてその最たるものですよね。

 なんならまさに歌舞伎みたいに「いいシーンだけでよくわかんないけど面白い! 高評価!」みたいなのが当たり前になりつつあります。


 つまりみんな気の短い江戸っ子みたいに「いいから面白いシーンを見せろ」と思っているわけですね。


 ▽


 でもって。


 ぼくはいわば名シーン集みたいな「得意な書きたいシーンだけ」の小説があったりしたら、面白いにちがいないと思っています。


 設定と名シーンだけで、ちゃんとしたストーリーは読者の想像任せの小説。

 読んでみたい!


「そんなの小説じゃない」って向きの人もいそうですけど、ショート動画みたいなものだと考えれば、さほど変じゃないのかなぁと思っています。


 同時に、そんな「名シーンだけ」の小説にも「面白いもの、合わないもの」はあるわけで、「そういうスタイルのための技術」もやはり必要で、進化もするはずです。


 ショート動画には技術やセンスが不要か? と言われれば、もちろん違うわけで、ショート動画という文化特有の難しさや技術もあり、進化し続けています。



 だから、小説を書きたい人が書きたいシーンに自信があるなら、ストーリーが書けなくてもいいからそのシーンに全ツッパして、夢中になる「シーン」を読ませて欲しい。


 バックストーリーがわからなくても、魅力的なキャラクターに惚れてみたい。


 世界を共有してほしい。


 ▽


 ……とぼくが思ったきっかけは、とある知人の絵師さんです。


 このかた、すっごく個性的なキャラクターを量産される方で、一人ひとりのキャラクターの性格、バックボーン、口調、人間関係まで、あたかもそこにいるかのようにいきいきと書き上げます。


 どのキャラクターも「誰にも似てない」。

 リファレンス元が全く見えてこない。


 これってすごいことだと思うんですよ。


 キャラクターどうしのワンシーンで「こんな感じ」というのもいくらでも量産されるかたで、でも、そういう複数のシーンを連結するストーリーがあるわけではないのです。


 こういう方、結構多いんじゃないかと思います。


 でも、ぼくはそれでエンタメとして成立すると思っています。

 なんなら、そういうシーンだけをマンガ形式や小説形式で公開して欲しい。

 その美麗な絵で、個性的なキャラクターどうしのワンシーンを読ませて欲しい。

 その世界に浸らせて欲しい。


 だからぼくはつねづね「歌舞伎みたいに、いいシーンだけ書いて公開してほしい」と懇願しているのですが、本人は「ちゃんとしたストーリーもないものは公開できない」といって、かたくなに形にしようとはしません。


 1ページ完結、なんなら一コママンガでいいのになぁ……。


 ▽


 結論としては「それでもいいから書いて公開してほしい」という感じです。


 本当に魅力的なキャラクターや面白いシーンがあるのなら、本編が書けないなんて理由で埋もれさせるのは勿体無い。


 と考えるカイエでした。

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