あだ名遍歴

 妙なあだ名をつけられがちです。

 

 ペンネームである「カイエ」については「自己紹介」で書きましたが、ほかにも「ハゲ」「テクノ」「マリコ」など妙竹林なあだ名をつけられてきました。

 

 今にして思うと、どうやら気づいてなかっただけで、ぼくはいじられキャラだったらしいです。

 

 そうだったのか。

 書いててびっくりした。

 

 ▽


「ハゲ」というのは、ぼくが五分刈りの子供だったころ、父親に「スキカル」という家庭用バリカンで、アタッチメントを忘れた状態でガーっとやられてしまったことが原因です。


 ちなみに誕生日でした。

 泣いて怒ったら逆ギレされました。

 なんでや。

 

 ちょうど頭のど真ん中をつるりとやられたので、まるで野武士のようです。

 どうせなら全部ツルツルにしておけばよかったものを、ぼくは「しばらく帽子を脱がずに生活する」というアホな選択肢を取りました。

 

 当然バレます。

 音速であだ名が「ハゲ」になりました。

 

 ▽

 

「テクノ」というのは、テクノポップスにハマっていた姉に、髪型を好き放題された結果ついたあだ名です。


 当時、いわゆるモード系のファッションが雑誌などで流行っていました。

 現実にそんな格好の人間は見たことがありませんが、とにかく当時はカッコよく見えたものです。

 テクノミュージシャンもみな、モードっぽい格好をしていました。

 

 テクノにどっぷりハマっていた姉は、ぼくを実験台に妙竹林な髪型を試しました。

 前髪は長く、それ以外はほとんど坊主で、しかももみあげは真っ直ぐ落とすいわゆる「テクノカット」の進化系。

 名付けて「テクノレザーカット(命名 : 姉)」の誕生です。

 

 姉に「かっこいいよ!」と煽てられ、父母の「やめとけ」という反対を押し切って、そのまま中学校へ行きました。

 

 すごい騒ぎになりました。


「それ、なんて髪型なんや」という質問に、ドヤ顔で「テクノレザーカット」と答えました。

 音速であだ名が「テクノ」になりました。


 これは高校に上がるまで続きました。

 当時のぼくはこのあだ名を気に入っていました。

「Techno」のサインなんかも考えて、積極的に使っていました。

 周りに騒がれて、ちょっと良い気分でした。


 でも、今にして思うと、実はあれは良い意味ではなかったような気がします。

 気づいてなかっただけで「頭がおかしくなった」と思われていただけなのかもしれません。

 こんど姉に会ったら、賠償金を請求したいと思います。


 ……髪型がらみのあだ名が多いことに、いま気づきました。

 なんでや。

 

 ▽

 

「マリコ」は単純で、ぼくがいつも小説を読んでいたからです。

 ネタ帳も持ち歩いていて、何か思いつくとメモを取っていたこと、あとは小説投稿雑誌などにしょっちゅう原稿を送りつけていたのも原因の一つだと思います。

 

 別に林真理子先生の本を特に好んで読んでいた事実はないのですが、たまたまそれに目につけた友人が「マリコ」と呼び始めたのがなぜか定着しました。


 ちなみに発音は「マリモ」とか「カネコ」とおなじです。

 名前というよりは苗字っぽかったのだけが救いです。

 

 これについては単純に不愉快でした。

 なぜなら当時のぼくは、自分のことを「教授」と読んでほしかったからです。

 

 なのに現実は「マリコ」。


「俺のことは教授と呼べ!」と叫べたらよかったのですが、気の弱い自分にその勇気はありませんでした。


 ▽

 

 そうそう、その「教授」についてです。

 

 ぼくには坂本龍一さんに憧れていた時期がありました。

 音楽とファッションがかっこいい、そして何より「教授」って通称がかっこいい。

 

 別に坂本龍一さんの人格や主義主張などの深い部分には興味ありません。

 要するにとんがった音楽と見た目のイメージから「こんな知的な雰囲気の男になりたい」と思っていたのでした。


 当時はバンドブームで、ぼくはドラムをドンドコ叩いていました。

 バンド仲間や友達には、ことあるごとに「俺のことは教授と呼べ」と繰り返し言ってきたのですが、ただの一度も「教授」と呼ばれたことはありません。



 ところで、ぼくは数えきれない悪癖のある人間ですが、一つ仲間うちで有名な癖があります。

 それは「教えたがり」であることです。

 

 ぼくは三大欲求をずっと「食欲・性欲・知識欲」だと思い込んで生きてきたくらいには知識欲が強く、「呼吸している間はずっと何かを吸収し続けなければならない」などと考える人間でした。

 今からすればまったくの意味不明ですが、「新しく何かを知ることのない時間に何の価値があるのか」と本気で考えていたのです。


 嫌なガキです。

 

 そんなことをしていると、学問「以外」のところでわからないことがあると、友人たちはたいていぼくに聞いてくるようになりました。


「いらないことなら何でも知ってる」というのが、当時のぼくの評価でした。

「何でもは知らないよ、いらないことだけ」みたいな感じです。


 当時はまだインターネットが本格的には普及しておりませんでしたので、いわゆる雑学専門の Wikipedia として重宝されていたわけです。

 

 

 そのような事情でついたあだ名は、なぜか「教授」ではなく「ハカセ」でした。

 漢字の「博士」ではなく、カタカナで「ハカセ」です。


 どういうわけか、これがあっさりと定着しました。

 学校の課外学習などで調べ物があるときなど、先生が「ハカセに訊くの禁止」と言う程度には定着していました。

 卒業のときの寄せ書きにも「ハカセへ」と書かれていました。

 なんでも、イメージはオバQ のハカセだそうです。

(ご存じない方は「オバQ ハカセ」で画像検索してください)

 

 

 悔しい!

 坂本龍一さんみたいな知的キャラを目指していたはずなのに!



 なのに現実は「ハカセ」。

 大人になって、当時の友人に会っても、ごく自然に「ハカセ、全然変わんないね」みたいな感じで呼ばれます。

 これがもし「教授、全然変わんないね」だったなら、どれほどカッコよかったでしょう。


 ぼくは半ばやけくそになって、そのうちに「Cahier」に「Dr.」をつけて「Dr.Cahier」を名乗るようになりました。

 

 つまり「ノートハカセ」というわけですね。

 何がしたかったのか、自分でも訳がわかりません。

 

 ▽

 

「ハカセ」というあだ名は、今だに継続中です。

 業界で「ハカセ」といったらそれはぼくのことです。

 

 もし見かけたらどうぞよろしくお願いいたします。

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