第10話 みんぱくみんぱく

 最近の僕は、小説を書いていません。小説を書くための準備は進めています。前々から「聖徳太子の小説を書く~」と息巻いていますが、小説を書くための材料がなければ調理のしようがありません。聖徳太子の小説を書くために必要だと思われる材料は、多岐に渡ります。聖徳太子自身のデーターはもちろん必要ですが、それだけでは小説は出来ません。当時、冠位十二階が制定されましたが、冠位十二階を表現するためにはそれ以前の統治機構を理解する必要があります。また、大和朝廷の成り立ち、つまり代々の天皇の系譜からくる歪な血脈の執着についても調べる必要があります。


 また、僕は中央卸売市場で果実の売買に携わっておりますが、果実の売買で重要な指標は相場です。上がったり下がったりします。でも、その相場を可視化できているのはお金という物差しがあるからです。しかし、飛鳥時代には貨幣がありません。当時は、縄文時代から続く物々交換が経済の主体でした。とは言っても、お金の代わりになるものは存在しました。物品貨幣です。お米、布、塩、鉄、翡翠、黒曜石等は、お金の代わりに使われていたと思います。その市場の様子を、僕はイメージしたい。


 物品貨幣の一つに「布」があります。最近は、この布のことも関心があります。平安時代は、税金として布を収めさせていました。現代では安価に布を生産できるのでイメージし難いかもしれませんが、当時の平民は自前で布を作っていたようです。水際に生えている背の高い麻を収穫して、その皮を剥ぎ、そこから糸を紡ぎます。そう、糸から作る必要があるのです。糸を作った後は、布の作成です。鶴の恩返し等の昔話には「機織り」が登場することがあります。立派な機織りの道具があれば便利ですが、当時の平民が当たり前に持っていたとは思えません。腰機――こしはた――という専門の道具が無くても布が織れる簡易な方法がありました。


 昨日、万博にある民族学博物館に行きました。午前中に入館して、閉館の17時までずっと見学をしていたのですが、その展示物の中に、実物の「腰機」がありました。感動です。実物を見たいと思っていました。「みんぱく」には何度も訪れているので見ているはずなのですが、当時は関心がなかったので記憶に残っていませんでした。その構造を理解する為に、僕は跪いてジロジロと観察します。シンプルなのにその構造が分からない。経糸を交互に上下しないと、緯糸を走らせることが出来ません。その事は分かっているのに、実物を見てもその使い方が分からない。仕組みが知りたくて手を伸ばしたら、「触るな!」と警備員に怒られてしまいました。


 聖徳太子の小説を書くために、色々な博物館に行きました。大阪歴史博物館、大阪府立近つ飛鳥博物館、奈良県立万葉文化館、県立橿原考古学研究所附属博物館、堺市博物館、狭山池博物館と足を運びましたが、中でも「みんぱく」は最高です。遊び心があります。想像力を掻き立てられます。昔の人々の暮らしが、イメージし易くて良かったです。


 と、そんなこんなで喜んでいると、新しい「みんぱく」を見つけました。「奈良県立民俗博物館」です。聖徳太子に関する直接の資料はありませんが、人々の生活の様子が分かるみたいです。機織りもあるそうです。現在、朝の8時半。これから行ってこようと思います。

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