第7話 伏見稲荷

 仕事が午前中だけだったので、伏見稲荷に足を運びました。聖徳太子から弥勒菩薩を賜った秦河勝が、京都の太秦にある広隆寺――またの名を蜂岡寺――を建立した話は以前にしました。当時、京都における秦氏の影響力は非常に大きく、平安京の土地は秦氏が寄進し更には建造も秦氏が行いました。圧倒的な経済力を持つ秦氏は、京都にある神社仏閣の建設にも、深く関わりました。八坂神社や伏見稲荷といった京都を代表する神社もそうです。特に、伏見稲荷は、西日本では最も参拝客が多い神社だそうです。


 有名な見どころは、細い参道に密集して並べられている千本鳥居でしょうか。行ったことは無くても、写真で見たことがある方は多いはずです。一般的な神社は、本殿に向かう参道の入り口に大きな鳥居があります。ところが伏見稲荷では千本鳥居。名前は千本ですが、現在までに多くの寄進が続けられていて、実際は一万基もの鳥居があるそうです。話だけは聞いていましたが、僕は行ったことがありません。確認することにしました。


 週末や祝日は人が込み合うと思ったので、平日の水曜日なら人も少ないだろうと思っていたんです。浅はかでした。午前中に到着したのですが、多くの人が観光に訪れていました。そう、参拝ではなく観光なんです。しかも、日本人よりも海外から訪れた人が圧倒的に多い。中国、韓国、インド、マレーシアといったアジア圏からの来訪者はもちろんのこと、ヨーロッパ系の観光客も多くみられました。コロナで抑圧された3年間でしたが、確実に観光客は戻ってきていることを感じました。また、昼からは修学旅行の生徒さんも沢山来られていました。


 僕は、伏見稲荷に関する予備知識が無かったので、千本鳥居の意味するところが分かっていませんでした。駐車場にバイクを止めて、本殿に向かって歩くのですが、大きな参道に巨大な鳥居が立っていました。その鳥居の先に本殿が見えます。かなり立派です。抜ける様な青い空と、本殿や鳥居の朱色とのコントラストが素敵です。また、それらがデカいので圧巻です。観光客の多くがスマホを掲げて撮影していました。しかし、その周りには、有名な千本鳥居が見当たりません。


 ――ん?


 更に奥に進んで行きました。伏見稲荷は稲荷山の西側の麓にあります。233メートルという少し可愛らしい小ぶりな山なのですが、その山の頂上に向かって参道が続いていました。その参道にその有名な千本鳥居がありました。噂通りです。朱色の鳥居が延々と伸びています。観光客と一緒に、鳥居のトンネルに入って行きました。何処に向かうのか僕は分かっていません。折角なので、とことん見てやろう。そんな気持ちでした。


 ところが、歩けど歩けど終わりがやってきません。延々と階段を上らされます。かなり息が切れました。久しぶりに汗を流します。途中展望台のように開けたところがありました。京都の街並みが小さく見えます。かなり上ってきたことを理解しました。その先に、お茶さんがあり案内板があります。自分の現在地を確認しました。


 初めて知ったのですが、稲荷山には多くの神社がありました。七神蹟地と呼ばれ稲荷山を囲むようにして建っています。その七つを巡る様にして、千本鳥居がハイキングコースになっていました。一周するのに、およそ一時間。


 ――えっ!


 これまでにも登ってきたのに、更に一時間歩くのです。ある意味、感心しました。神社の参拝が、参拝だけで終わらない。海外の観光客にとっては、強烈な体験として記憶に残るでしょう。観光地としてのコンテンツ力を感じます。


 頂上にある一ノ峰にやってきました。さすがに疲れています。喉も渇きました。自販機で飲料水を買うことにします。しかし、その手が止まりました。


 ――220円。


 観光地&頂上価格。高いです。しかし、喉が渇いていたので買いました。その後は、一気に下山です。今回、伏見稲荷を体験したわけですが、歴史的に何か新しい発見はありませんでした。訪日観光客が回復している現状を認識したことが大きかった。折角なので、今回は伏見稲荷のもう一つの名物を堪能することにします。それは、雀の焼き鳥です。ご存じですか? 伏見稲荷では、雀の姿焼きを食べることが出来るのです。


 20代の頃に、雀の焼き鳥を一度お店で注文したことがあります。しかし、その時は食べることが出来ませんでした。口には入れたんです。しかし、雀の頭蓋骨を噛んだ途端、顎が止まりました。それ以上、噛み続けることが出来ず、吐き出してしまいました。誕生日を迎えて52歳になった僕の、再度の挑戦です。


 ――アタック・ザ・雀の焼き鳥。


 普通に食べれました。美味いか不味いかを問われると、普通。タレがこってりと塗りつけられていて、タレを食べているような感覚です。一串700円は高いと思いましたが、ここでしか食べられないと思えば、それもありです。過去の宿敵に打ち勝ったという意味で、僕的には価値がありました。二回目はありませんが……。


 次回は、八坂神社にも足を運んでみたいです。

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