第6話 壁画古墳と四獣の役割

 先週に引き続き、壁画古墳に関してのセミナーに参加してきました。題材は、奈良県明日香村にあるキトラ古墳と高松塚古墳です。この二つの古墳は天武天皇の息子である弓削皇子と刑部親王が、それぞれ埋納されていると考えられています。弓削皇子は西暦699年の薨去、刑部親王は西暦705年の薨去とされているので、その差は6年しかありません。この6年という短い期間で古墳が建造されました。


 二つの古墳の造りを比較すると、共に同じような施工技術が見受けられました。同じ施工者だと推測されます。また、石室の壁画も似通っており、同じ絵師が描いたものだと推測されます。


 石室の天井には、二十八宿の星座と太陽と月が描かれており、四面には五行説に則った四獣が描かれています。以下に、四獣を示します。


        北:玄武

 西:白虎          東:青龍

        南:朱雀


 明日香村にある高松塚古墳を見学に行った時、どうしてこれらの四獣が描かれていたのか疑問に思いました。また、そうした中国からの文化的思想が色濃く反映されていることに、驚きを感じたことを憶えています。


 四獣は、五行説から来ており麒麟を加えて五獣となります。青龍、朱雀、白虎、玄武は、上の図にある様に、東、南、西、北、それぞれの方角を護っており、麒麟は中央を護っています。麒麟が該当する色は黄色になります。余談になりますが、神話のなかで中国を最初に統一した帝のことを黄帝と表記します。また、四獣は季節も表しており、青龍は春を意味します。つまり、黄帝も青春という言葉も、こうした五行説の影響を受けていることが分かります。


 石室の中に描かれた四獣は、天と地を結ぶ媒体と考えられています。四方に青龍、朱雀、白虎、玄武を配置して、八方に神の力を及ぼすのです。キトラ古墳には、そうした四獣とともに、十二支を人型に模した獣頭人身像も描かれています。十二支が護る中、玄武を除く三神が、時計回りにグルグルと回っています。その様子は螺旋のイメージで、被葬者の魂が天高く昇っていく様子を現していると、先生は語っておられました。


 対して、高松塚古墳は、同じ四獣が描かれていますが、メッセージ性が違うとのことでした。高松塚古墳と言えば、飛鳥美人が有名ですね。キトラ古墳の十二支とは違い、十六人の男女が描かれています。極彩色豊かなこれらの人物像。何を意味していると思いますか?


 鉾や太刀を持っている男子像がありますが、それらの武器は袋に包まれています。警備をしている感じではありません。女子像は華やかで楽しそうです。軽やかにおしゃべりを楽しんでいるみたい。男子像をもう少し観察してみます。椅子を持っている方や、平袋を抱えて何かを運んでいます。そうした中に、鉤型の棒を持っている男子がいました。


 当時、現代でいうところのホッケーのような球技が流行っていたそうです。そう言われてみると、鉤型の棒が、ボールを打つスティックに見えてきます。どういうことなのでしょうか?


 キトラ古墳に比べて高松塚古墳には、もう一つ明らかな違いがあります。白虎の向きが違うのです。キトラ古墳の白虎は北を向いているのですが、高松塚古墳の白虎は南を向いています。つまり、螺旋を描いていないのです。南を向いているのは、白虎だけではありません。十六人の男女も、共に南に向かって歩いています。


 天子の行幸において、隊列は四獣の旗を掲げて随行します。その場合、朱雀を先頭にします。漢代の儒家が編集した「礼記」には、次のように書かれていました。


 行(すす)むに朱鳥(しゅちょう)を前にし、而(しこう)して玄武を後にし、青龍を左にして、而して白虎を右にし、招揺(せんゆう)上にあり。

 ※招揺は、北斗七星の中の一つの星になります。


 つまり、高松塚古墳に描かれた壁画は、南に向かって出行しようとしています。天に上るのではなく、これから遊びに出かける様な雰囲気なのです。そのメッセージの意味は分かりません。現世での楽しい思い出を現したのか、黄泉がえりを期待したのか、判断は出来ません。


 面白かったです。もっと詳しい話もあったのですが、僕では説明しきれないので割愛します。全体的な概要だけを紹介させて頂きました。セミナーを聞いてから、一気に書き上げました。言葉足らずな所もあったかと思います。ふー、疲れた。

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