第5話西川水族館
私は早く出過ぎてしまったか、言われたバス停で実は10分前から待っている。
本当は9時集合なのを8時半から来てしまったのだ。
ちなみに横には半目しか開いていない知乃もいる。
「お姉ちゃん早すぎたんじゃない」
寝ぼけた声で知乃が言う。
家でじっとすることが私にはできなかったし、それに莉子さんのこともあったのだ。
今日はいつもとは違う仕事で朝早かった。
私はそれを昨晩に聞いていたので、早く起きて莉子さんのために弁当を作っていた。
それから一時間くらい適当にすることしかできなかったから、はやく出ることにしたのだ。
知乃が横で盛大に欠伸をかます。
それが私にもうつり、私も欠伸をしてしまう。
そのまま、私はスマホでyabtubeを確認する。
最近出した曲を見てみる。
視聴回数がいつもより伸びていて、嬉しい。
そうしていると、里美ちゃんが来た。
「おはよー、音子ちゃん。あっ、その子が音子ちゃんの妹さん?」
「おはよー、そうだよ」
それを聞いている知乃はちゃんと挨拶をした。
「おはようございます。私は知乃です。今日はよろしくお願いします」
そんな知乃ちゃんを見て、里美ちゃんは驚いた。
「えっ、しっかりしてるね。それに可愛い」
「でしょ、自慢の妹だから」
そう言いながら後の三人を待つ。
時間を見ていたら今は50分これでやっと待ち合わせの10分前になる。
今更ながら早く来てしまったことに後悔している。
でも、それはそれでよかったのかもしれない。
だって、里美ちゃんに会えたのだから。
それから5分後に他の三人も合流した。
「お前ら早いな」
そう大河が言う。
「その後ろで欠伸してるのが妹?」
そういう風に翼は聞いてくる。
「うん、私は黒田知乃です。今日はよろしくお願いします」
さすが私の妹。
そこで紅葉が目をかっぴらく。
「きゃー、妹なんだ。可愛い。何歳?」
「えっと、中学二年生」
そのままバスに乗り、水族館へ向かうことになった。
水族館に着くと、すぐに知乃は興奮する。
まず、知乃のチケットを買って六人で水族館に入る。
「ねぇ、どうする?」
「じゃあ、分かれるか」
それから、私と里美と知乃、大河と翼と紅葉で行動することにした。
今から一時間後のイルカショーで落ち合うことになった。
「ねぇ知乃ちゃんは何が見たい?」
そう里美は知乃に聞く。
でも、私たちはあんまりこういった所に来たことがなかった。
だから、私はともかく知乃はかなり興味を持っているはずだ。
「全部見たい」
「全部か。一応一時間後にイルカショー見るから。それまで見れるものは見ようか」
「うん」
私より知乃のお姉ちゃんしてくれている。
すごいなぁ。
これは人間になってから感じたことだが、人間の時の感情が難しい。
人間になってからはそれまでのことが自分が感じたことのように残っている。
でも、感情操作だけが人間になってから難しい。
そう思っていると知乃が私の手を繋ぐ。
「行こう。お姉ちゃん」
さすがに知乃は私のことを分かってくれていたのだろう。
私の手を取り、最初の魚から見ていく。
私たちの後ろを里美は保護者のようについてくる。
いろんな魚を見て知乃はその度に「きれいだなぁ」と言う。
知乃の水晶体のような目にその輝きが反射する。
そうやって、見ていると時間はあっという間に過ぎていく。
そして、イルカショーが行われる場所に三人で急ぐ。
運良く大河が私たちのことを見つけてくれて、六人一緒で見ることができた。
その間は私は右では知乃と左では里美と手を繋いでいた。
里美とはなんで繋いでいたか忘れていた。
そのまま少し荷物の整理をしているとみんなが外に出てしまっていた。
その上里美ちゃんから電話がかかってきた。
「あの、ごめん。私が見ていなかったから知乃ちゃんがいなくなった」
「里美のせいじゃないよ。それに知乃も中学生だし電話かけるなりしてると思う」
そっか。
私、知乃に悪いことしたなぁ。
人間じゃないとできないことって山ほどあるから。
私はそのことを思いながら知乃に電話をかけてみる。
でも、出ることは無い。
私は何度もかけ直したけど繋がらない。
知乃、知乃、知乃、知乃、知乃――――。
あれっ、おかしい。
息ができない。
「大丈夫?」気づいたら側には翼と里美がいた。
「はーい。音子、ゆっくり息を吸って。そのまま吐いて」
そのまま私は話しを聞いてみると、ハンカチを忘れたと思ってイルカショーの場所に戻っているとさっきと同じ席で私が胸の辺りを押さえてたって。
それで私が過呼吸を起こしてたってこと。
「大丈夫?これ」
そう言って翼は私にミネラルウォーターをくれた。
「まだ、新品だし。もしよかったらあげる」
私たちでいるときは翼はかなり役立つ。
普段役立たない感じで話しているが、役に立つ。
そのまま私たち三人で探してみたが、見つからない。
そのまま私はぼそっと言葉を漏らした。
「なんで私は知乃のこと考えてなかったんだろ?」
独り言を言ったつもりだったが、里美には聞こえていたらしい。
「考えているよ、ちゃんと」
「えっ?」
翼はそれを魚を眺めながら聞いている。
いや、もしかしたら聞いてないのかもしれない。
「私は知乃ちゃんならお姉ちゃん好きで、今日本当に楽しかったんだなって言うのが分かるよ」
そうしたら、翼が魚から目を離して私を見る。
「僕はさ、末っ子だからお姉ちゃんとかお兄ちゃんとかの気持ちあんまり分からないけど、幸せなんだと思う。こんなにいいお姉ちゃんがいて、いろんなこと考えてくれて。僕は羨ましいなぁって思ってるよ」
「そう…かな…」
そうやって、私は知乃のことを想う。
そうしていると、里美が後ろから私を抱きしめる。
「お姉ちゃん出来てて偉いよ。音子ちゃんすごいね」
そう言われると、どっと何かが吹き出したかのように膝から崩れ落ちた。
「はい、これ。涙拭きなよ」
そう言って、里美からハンカチを受け取る。
「洗って返すね」
「そんなのいいって」
「ううん、洗わないと気が済まないから」
「うん、分かった。でも、今日はまだ使うから」
そう言って、里美にハンカチを渡す。
そうすると前から声がする。
その声は私を求めている。
「あっ、知乃――」
知乃が私目がけて走ってくる。
「おねぇーちゃーーん!」
次の瞬間ぎゅっと知乃に抱きしめられた。
「痛いよ、知乃」
そうすると、知乃が走ってきた道を後ろから大河と紅葉が歩いてくる。
二人が見つけてくれたのか。
そうか。
「ありがとね、二人とも」
「あぁ、こいつがわかりやすい所で突っ立ってくれててありがたかった」
話しを聞いてみるとクラゲの水槽の前にいたとのことだ。
あぁ、私がまだ成長できてないんだ。
「ごめんね。知乃」
私がそう言うと、知乃が抱きしめる手に今よりも一層力を込める。
「私がみんなのことを見てなかったからだよ。でも、そんな時にクラゲを見つけたんだ」
そうやって、知乃がクラゲについて話す。
みんながずっと私たちを待ってくれている。
「じゃあ、クラゲの所に行こうか」
そう紅葉が言う。
「そだね」
「行くよー。音子」
そうやって、里美は私の手を引っ張る。
そして、そのまま知乃と手を繋ぎクラゲのコーナーに行くのだった。
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