第3話プチ/黒田知乃

 あれ、クロ。

なんで、クロが道ばたに転がっているの。

なんでなの。

私はそう思いながらクロに近づいた。

そのままクロのほおを舐め、鳴いた。

私は独りになってしまった。

弱ってしまった私が。

もうクロに会えないのかな。

まだクロに面倒見てもらいたかった。

私はクロのそばに私が好きと言っていた小魚が転がっているのに気がついた。

それをいつもの河川敷の側に運んで食べる。

食べてもいつものようなおいしさがしない。

やっぱりクロと食べるご飯が一番おいしかったことを思い出す。

会うためには私も死んだ方がいいのかな。

でも、死んだとしても本当に会えるとは限らない。

私はそれから感覚で生きているといつの間にかクロが死んでいることが現実味がなく感じた。

それからいつの間にかクロを探していた。

クロが死んでしまったことは分かっている。

けど、探さないと気が済まない。

本当はクロのことをお姉ちゃんと思って、最初は二人で過ごしていた。

いつの間にかクロが私のことが好きだと言うことに気づいていた。

でも、違う。

私たちは姉妹なんだ。

もし、死んだら私は本当の姉妹として二人で生きたい。

そんなことを考えて、道路を歩いているとトラックが近づいてきて……。


あれ、私死んじゃったんだ。

そっか。こういう風にクロも死んだのかな。

クロも私のことを考えてくれてたんだ。

嬉しいな。

探しているときは、クロのことを考えているときは自分の身体のこととか考えてなかった。

弱っているとかそんなの関係ないって。

これで私もクロに会える。



あれ、ここ草が生えている。

どこだろうか。

そこから私はクロに会う。

そして、私は姉妹になりたかったと。

私のお姉ちゃんになってほしかったんだと。

私がクロの妹になってあげると言いたいと。

そこに後ろから足音がした。

「あれ、君ってクロの彼女かな」

「誰?」

私が思っていることが口に出た。

なんで人間の言葉が喋れるのだろうか。

「あぁ、この場所だとどんな生き物でも喋れるんだよ」

そうなのか。

「ごめんね、君の問いに関してまだだったね。ぼくはこの世界の管理者。いわゆる神様だね」

ふーん、神様なのか。

だったら、お願いしたい。

「あの、神様。私をクロの元に連れて行って」

私の声が届いてないのか神様は何も言ってくれない。

「そうなんだ。君も人間になりたいの?」

少しの間が開いて、声が私に届く。

君もって、ということはクロは人間になったんだ。

だったら、私もなりたい。

「うん。なりたい」

「そっか。じゃあ、今度はしっかり生きよう」

えっ?

「ぼくはね好きで神様をやっているわけじゃない。決まったこととして神様をやっているんだ。本当なら全員に第二の生を全うしてほしい。でも、全員にさせることはルールとしてできないんだ」

わたしはトロンとした顔で神様を見る。

神様って泣くんだ。

神様の頬を綺麗になぞる涙が私の目の前にこぼれ落ちる。

「ごめんね。恥ずかしいところ見せちゃった」

「じゃあ、君を彼女の妹として生き返らせよう」




 あれ?

私人間になれたのかな。

そうすると、頭の中に何かが通る。

この記憶は私がこの人間として生まれて今までの記憶だ。

お姉ちゃんが音子っていうんだ。

私はなんて言うんだろう。

「知乃」

記憶でお姉ちゃんが言ってた言葉。

それは私の名前なんだ。

でも、親は小さい頃になくしているがそこは大丈夫なんだと言うことが分かる。



 そうすると、勢いよく家の扉が開いた。

あっ、お姉ちゃんが帰ってきた。

久しぶりのクロ、いや音子姉ちゃんに会える。

「お姉ちゃん、おかえり」と私は元気に言う。

そうするとお姉ちゃんは私の部屋に入ってきて、私のことをぎゅっと抱きしめる。

なぜか、涙が溢れてくる。

お姉ちゃんの温かさが私に溶け込む。

会いたかった。

「おかえり、プチ」

そうお姉ちゃんが言った。

その言葉で涙がまた溢れてくる。

泣きすぎて、嗚咽がこぼれてしまう。

お姉ちゃんが優しい手で私の背中をさする。

いいなぁ、姉妹って。

やっぱりこっちの方が私たちらしい。

「気づいてたよ」とお姉ちゃんはぼそっと漏らす。

「えっ?」

「あんたが私の妹になりたがっていることは」

そうだったんだ。

突然の告白に驚いた。

「そうだったんだね。お姉ちゃん」

「うん。でも、これで知乃の願いが叶ったね」

そうだ。

これで正真正銘姉妹になれたんだ。

私はお姉ちゃんの胸の中に顔を埋める。

そして、お姉ちゃんの右脇を生前のようにぐりぐりする。

そうするとおねえちゃんはびくっとさせて、私の耳をフーッとする。

「久しぶりだね」

そうこれは私たちが生前やってたじゃれ合いの一種。

楽しいなぁ。

私は耳に息をフーッとされた仕返しに耳を甘噛みするのだった。

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