第2話 昇天
サトリは夢を見ていた。自分が大切に思う人々が次々と現れては笑顔で手を振った。サトリもそれに返すように手を振った。しかし、最後に現れた、白いワンピースを着て麦わら帽子を被った女性は手を振らずに走って行った。
「待ってくれ!」
サトリはその女性を必死に追いかけた。サトリの足は老人から若々しくなっていった。気づくと、一面の花畑の中に着いていた。
「どこだ?」
サトリが見回すと、女性は一つ向こうの道に立っていた。サトリは女性の元に着くと言った。
「はあはあ…どうして逃げるの?」
女性は一つの花を指さした。
「これは…ヒナギクだ。もしかして、これを見せるために?」
女性は頷いた。その時、風が吹き、麦わら帽子が飛んでいった。女性の顔が露わになった。
「君は…」
風はどんどん強くなって、サトリが宙に押し上げられた。
「待って!君の名前は…ヒナギクなのか?」
女性は微笑んだ。サトリの周りにはヒナギクの花びらが舞っていた。
「うわああ!!」
サトリが夢から醒め、大声を上げた。チアキがサトリに言う。
「びっくりした!サトリ、起きたのね」
「あれ…?ここは…?」
「ここは宣託病院だよ。ほら、見て。みんな集まってくれたよ」
サトリは集まった人々の顔をゆっくりと眺める。その中にいた赤ん坊を見て、サトリははっとする。
「その子が気になるみたい。近くで見せてあげてくれる?」
コクヤの妻アサヒは抱きかかえる赤ん坊をサトリに見せる。サトリは赤ん坊の頬に触れる。
赤ん坊を見てウリが言う。
「赤ちゃん、笑ってる」
「本当ね。サトリ、知ってる?この子の名前、ヒナギクちゃんよ。サトリの妹と同じ名前の」
サトリはまじまじとヒナギクを見つめる。
「マフユとクロオの子の名前は黒い夜と書いてコクヤ。コクヤとアサヒさんの子の名前は春に咲く花ヒナギク。夜が明けたら日が昇るように、冬が明けたら春が来る。明るい兆しを持つ子という意味。サトリの妹もサトリにとってそうだったように」
サトリはもう一度集まった人々を眺めた。
「みんな、ありがとう」
集まった人々が泣いた。チアキが言う。
「泣いちゃ駄目。最後は笑顔でお別れよ」
集まった人々が笑うのを見て、サトリも笑った。死の間際、サトリは赤ん坊の奥に白いワンピースの女性が見えていた。サトリは天にも昇る気もちで昇天した。
走馬灯 ソードメニー @sordmany
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