可愛い女の子はうんこをしない

第7話 鈴木、狂う

　不意に勃起してしまった鈴木であるが、まず小便をするためにはその粗末な逸物を萎えさせる必要があった。そのまましてしまってもいいが、おそらく尿はその辺に散乱しトイレを穢してしまうことであろう。それはこれ以後のトイレ観察が不毛になることを意味していた。

（いったん綾子以外のことを考えよう。）

　鈴木は思ったがそう簡単には綾子は頭から離れない。政治、経済、ありとあらゆる真面目な話題を想起した鈴木であったが、すぐに頭の中から離れていき綾子のことだけが頭に残った。

　なぜならそこにトイレットペーパーがあったからである。鈴木は綾子が使用していると思われるトイレットペーパーを発見してしまったのであった。

（こ、これで綾子が、尻を拭くのか…。あり得ない！！）

　トイレットペーパーの先は丁寧に三角折りにされていた。これは来客用の可能性もあった。しかし、もう妄想が果てしなく鈴木の脳内を駆け巡り、収拾がつかなくなっていた。

（やはりダメか…。ならば！！）

　鈴木は大胆な行動に出た。勢いズボンを下げパンツも下げ、そのまま逸物を掴んだ。さらには全体を包むように弄り始めた。

「はうゅっ！」

　一瞬、鈴木の口から変な声が漏れた。綾子に聞かれはいないかを鈴木は心配した。鈴木は快楽に包まれていた。もっともっと快楽を！鈴木は半狂乱になっていた。行動は常軌を逸していた。便器を舐める、床も舐める、便器ブラシで逸物を擦る、やることは全てやり尽くした。そして、事を終えた。最後に、三角折りにしてあったトイレットペーパーが役に立った。

　ズボンをちゃんと履き、萎えた逸物を手に持って狙いを定め、尿を垂れ流す鈴木。鈴木はもう放心状態であった。用を足し、トイレから出た鈴木の前に現れたのは部屋着に着替えた綾子であった。

「遅かったわねえ。きっとさっき変な物食べたからだわ。」

　綾子は鼻くそ屋の料理のことを言っているようであった。鼻くそ屋の料理は綾子にとっては変な物としか映っていなかったらしい。

　それはそれとして部屋着の綾子という好きな女の子のちょっとだらしない姿を見て鈴木は気持ちがほぐれた。鈴木は今、賢者になっている。性的な欲求は一切なかった。

「今夜は泊まっていく？」

　鈴木は露骨な誘いに戸惑った。そして先の不用意な行為に後悔した。

「今日は帰るよ。明日朝から用事があるんだ。」

「そうなの。あぁ、ちょっと眠くなってきちゃったなぁ。」

　不意に綾子は欠伸をし、伸びをした。鈴木は思った。

（綾子でも欠伸や伸びをするんだ。）

　当たり前であるが、鈴木にとっては当たり前ではなかった。鈴木は可愛い女の子をロボットか何か、物だと思っている節があった。鈴木の考える可愛い女の子の定義とは、

一切の臭い匂いを発しない物体。

　物であった。物と言っても単なる石ころのような物とは違う。石には埃が付き、苔が生える。可愛い女の子には放置しておいても埃は付かないし、苔が生えるなど絶対にあり得ない。君が代はさざれ石が苔が生えるまでの悠久の時間を歌った歌のようであるが、これがさざれ石でなく可愛い女の子であれば、苔は永久に生えなかったことであろう。

　鈴木はもう我慢ができなくなってきていた。真実を知りたい。頭の中はそれでいっぱいであり、もう賢者タイムは終了していた。

「綾子！！」

「何？」

　鈴木はいきなり綾子を抱きしめた。綾子は抵抗しない。そのまま着衣を脱がせ、床に伏せた。鈴木の狙いは初めから尻であった。尻しか頭にない。

「ちょ、ちょっと、いきなりそんなところ…。」

　綾子の声はもう鈴木に届かなかった。鈴木がその柔らかな肉を親指で広げると、そこには綺麗な一輪の菊が咲いていた。すかさず、鈴木は指を突っ込んでほじり始めた。綾子は何もしない。全てを受け入れていた。

　鈴木が指を入れると、何やら硬い物に触れた。何かはわからないが、掻き出してみた。指先には茶色い塊が付着していた。

（これは、うん…。）

　と、ここまで思い、鈴木はそれを食べてしまった。

「異常なし。」

　その何かは鈴木に食べられることで地上から消えてしまった。これで証拠は無くなった。そう、綾子の尻からは何も出なかったのだ。そういうことになったのだ。

　綾子は明らかに怒っていた。物には順序というものがある。鈴木が童貞であることを考慮に入れても、それは受け入れ難い行為であった。

「帰って！！」

　鈴木は渋々帰ることになった。しかし、顔は満足気であった。この世の全ての快楽、贅沢を味わい尽くしたような気分であった。