第19話⁂リンゴ婆さん改め「静蘭」⁂


 

【地球に生息する動物や世にも美しい蛇たちの数々を紹介して来ましたが、あくまでここは「ファイブドアーズ星」ですので、極似しておりますが全く別の動物や大蛇です】



「宴もたけなわ」 

 何とも華やかな復活祭が繰り広げられている。


 そして…世にも美しい大蛇に変身を遂げたリンゴ婆さんは、見事な蛇踊りを大トリで披露した。それはそれは美しい七色の宝石が天空を舞うように、キラキラ輝く姿だった。


 その美しさときたら言葉にならない程の美しさ。ブルーグリーンの奥深さと鮮やかなターコイズブルーの色を併せ持つ光輝くトルコ石色の横縞と、深いサンゴ色、赤い珊瑚が砕けてオレンジ、ピンク、明るい赤色が混合した実に色鮮やかな色なのだが、『コーラルピンク』をより鮮烈にした色 と、黒色の縦縞が並んでおり、それはそれは美しい蛇、世界一美しいと称される〈サンフランシスコ・ガータースネーク〉に瓜二つの、それはそれは美しい大蛇に変身したリンゴ婆さん。


 場内は余りの美しさに、割れんばかりの拍手が巻き起こった。


 その時、すっかり自信満々になったリンゴ婆さんが、何とも大胆にベニー王の前にしゃしゃり出て、王様にその美しい肢体を巻きつけた。

 何と大胆な事を……。


 どうしてそんな、はしたない真似をしたのかと言うと、実は…ベニー王、余りにもリンゴ婆さんが妃にそっくりだったので、踊り終えたリンゴ婆さんに、手招きをしていたのだった。


 この大蛇王国では、体を巻き付けるのは挨拶の一つであった。日本でいうハグのようなもの。


 そして…復活祭も滞りなく終了した。ベニー王はその時、リンゴ婆さんを伴ってこの美しい宮殿の庭園を散歩した。


「名前は何という?」


「わたくしの名前は静蘭と申します」

 リンゴ婆さんは、長ったらしい名前を言いたくなかったので、咄嗟に自分のお気に入りの名前を口走った。


「オオ オオ何とも美しい名じゃのう!これからは、そちをセイランと呼ぶでのう」


「それでも…わたくしはこの宮殿より、かなり西の方角に住んでおりますので、王様にお会いできるチャンスは中々御座いません」


「何を言っておる。そなたさえ良ければ宮殿で働いて欲しい」

 こうして宮殿で秘書の仕事に就いたリンゴ婆さん。



 ◆▽◆

 実は王様、リンゴ婆さん改め「静蘭」を見た時から”ビビビッ⚡ビビビッ⚡ビビビッ⚡”と、雷に打たれたような激しい稲妻が身体中駆け巡っていた。


 確かに妃を心から愛してはいたが、静蘭が来てからと言うもの、妃に対する気持ちが一気に冷めてしまった。


 それはどういう事かと言うと、妃よりも随分と若い分、美しさ一つとって見ても静蘭の方が格段に美しい。又そればかりではない才知に満ち溢れていて、何をやらせても右に出る者がいない才媛ぶり。到底ヘレン妃では歯が立たない。


(最近ではヘレン妃がこのまま帰って来なかったら、どんなに良いか!)とまで思うようになっている。


 ◆▽◆

 ベニー王と静蘭は、いつの間にか強く惹かれ合い気が付くと、いつも傍に寄り添っている二人だった。

 時間が空くと薔薇の咲き誇る美しい宮殿を、二人連れだって時間を共に過ごしている。だが、それなのに???未だかって一夜を共にする程の長居は一度たりとも無い。

 普通愛し合っていたら片時も離れられないのが道理なのだが……⁈


 

 ある日の二人を追って見よう。


「もうヘレン妃も戻っては来ないだろう?いつも告白しているが、静蘭よ!是非ともワシの妃になってくれ!そして…今宵こそ美しい静蘭と一夜を共に過ごしたい!」


「わたくしも王様と今宵こそ一緒に甘い一夜を共にしとうございます。けれども…わたくしには、帰らなければいけない場所が有ります」


「それは一体?……それは…一体…どこじゃ?この城に移って来たと言うのに静蘭は、夜に…どこに出掛けているのじゃ?」


「ああああ……それは?…それは?お話しできません」


「嗚呼アア……嗚呼アア……もうワシは我慢が出来ぬ!今宵はどんな事が有っても静蘭を離さない!」


 こうして強引に静蘭をベッドに押込み、愛し合っていると……するとその時、静蘭の首筋から醜いもう片方の静蘭の顔がニョッキリ角が生える様に、這い出して来たではないか?静蘭はビックリしてしまった。


(折角美しく生まれ変わったと思ったのに、これは一体どういう事?)

 そう言っている間もなく、あの美しかったサンゴやトルコ石の様な煌びやかな肢体は色褪せ醜い正体を表して来た。


 静蘭は(折角、王様に愛の告白を受けて『静蘭よ!是非ともワシの妃になってくれ!』とまで言われているのに、今この場に留まれば全て水の泡!)そう思い、醜く変わり果てる前に逃げようと、一気に寝室から逃げて姿をくらました。


 だが、王様の方は全くもって納得がいかない。

(あんなに愛していると言ってくれたのに何故だ?)


 そして…静蘭はあの夜以来、姿をくらまし宮殿に現れなくなってしまった。

 重要な任務も放ったらかしてどこに消えたのか?


 逃げれば逃げるほど追い掛けたくなるのが、本性。


「静蘭」の事が片時も忘れられなくなってしまった王様は、国中にお触れを出した。

この〈ジャイアント プラント王国〉の至る所に静蘭の顔写真を張り、そして家臣たちに、「隈なく王国中一軒一軒探し出せ!〉と、お触れを出した。


 それだけ静蘭の事を心から愛してしまったのだ。


 まぁ…それはそうだろう。いくらヘレン妃が美しいと言っても、寄る年波には勝てない。女王様おん年五〇歳。一方の静蘭この時まだ二十五歳。比べるまでもない。


 確かに女王様はこの王国の貴族のご出身で、お家柄は申し分ないのだが、只の床の間に飾っておく華。


 一方の静蘭は、本来の姿は醜女ではあるが、頭脳明晰にしてあの日復活祭で披露したように踊りの名士で、全てにおいて火の打ちどころのない美女だ。血眼になって捜す王様の気持ちも分からんでは無いが……⁈


 実は静蘭「リンゴ婆さん」には、最も恐ろしい隠された秘密が有った。






 




 



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