第18話⁂美しく変貌したリンゴ婆さん⁂


 悲劇に見舞われたあの日〈ジャイアント プラント王国〉に矢の如く降り注いだ隕石の影響で、多くの生物たちは息絶えた。


 だが、リンゴ婆さんは、あいにく生き延びることが出来た。


 実は…その時にリンゴ婆さんは、とんでもない事を仕出かしていた。この大蛇の楽園の女王様の大切な扇子を盗んでいたばかりか、更にとんでもない酷い事を⁈ 


 実は…この扇子ヘレン妃が御輿入れする時に、嫁入り道具の一つとして持参した魔法の扇子。

 御所車や古典四季花柄の艶やかな桜や牡丹、菊などの和花柄を贅沢にあしらった金色の扇子である。御所車は雅な王朝文化の象徴として、振袖や工芸品などに描かれる事も多い高貴な、何とも美しい絵柄だ。


 そんな貴重な品を盗むとは不届き千万。

 



 実は…リンゴ婆さんは〈ジャイアント プラント王国〉の中でも下層階級の頭が二つ胴体からニョッキリと出た類まれな醜い大蛇であった。


 だから…いつも土の下に潜ったり、自分の柄に似通った木に擬態したり、川の浅瀬に隠れ、他の蛇から隠れて世捨て蛇の様に、自分を産んだ親を呪い、自分自身を卑下して生きていた。


だが、何が幸いするか分からないものだ。リンゴ婆さんは、二つの頭部があるので脳みそや目や耳、鼻も常人の二倍あるので普通の大蛇の二倍の知能、視覚、聴覚、嗅覚が備わっている。だから…危険を察知する能力も二倍だ。


 その能力を生かして一番安全な場所、王様達の住む宮殿に忍び込んだ。その時、あの絶世の美女ヘレン妃に遭遇した。

 

 だが、この宮殿も決して安全では無かった。妃もご多分に漏れず、あれだけ美しかった妃は落下物の影響で醜い姿になっていた。


 その時ヘレン妃は、何とも雅で美しい扇子を広げて「えい!」と一振りした。

 すると…醜くただれた表皮や目が一瞬にして元の美しい女王様に戻った。


 その時…リンゴ婆さんは、(千載一遇のチャンス!)そう思った。


 今は皆自分の事で精一杯で、例え女王様と言えど、助ける暇などない。

 誰もかれも、そんな悠長な事は言っていられない。


(そうだ!今女王様が弱っている所を一気に殺して、この変身出来る魔法の扇子を奪えば、今まで皆から醜いと馬鹿にされ虐げられてきた、あの辛かった過去を消すことが出来る。そして絶世の美女に変身して、今まで散々バカにした皆の鼻を明かしてやりたい!)


 こうして…一国一城の、それも女王様の顔を、そばに落ちていた岩の破片で、粉々に顔が分からない様に、クシャンクシャンに潰してしまった。


 何とも恐ろしい女!延々頭を岩で殴り付けたので頭蓋骨陥没。

 そして…息の根を止めた。



 証拠隠滅を図る為に、あの最も激しい渓流である、ナイアガラの滝を彷彿とさせるラレンアガ-の滝に妃の異体を捨てた。


 壮大かつ迫力満点の鬼気迫るそのラレンアガ-の滝に飲まれて、妃は一瞬にして消えた。


 ◆▽◆

 月日が流れた。

 あれだけ無残に粉々に打ち砕かれた〈ジャイアント プラント王国〉だったのだが、すっかり再建され、あの無残だった頃が噓のように美しく復活を遂げた〈ジャイアント プラント王国〉

 それでも…何より良かった事は、この国の王ベニー王が健在だった事だ。

 何とか命辛々逃げ切り生き延びていた。


 だが、残念な事に……今もってヘレン王女の行方はようとして掴めていない。ベニー王の落胆ぶりは相当なもので、今尚立ち直れていないご様子。


 それでも…国民の為にも、いつまでも過去に縛られてはいられない。

 こうしてすっかり日常を取り戻しつつある〈ジャイアント プラント王国〉


 だが、一つ疑問に思う事が有る。この〈ジャイアント プラント王国〉の動植物は何故?揃いに揃って巨大化してしまったのだろうか?


 それが……神様銀次が莉子に言っていた言葉「ファイブドアーズ星の、守り人となって隠されている秘密を解き明かしてくれ!例えそれがどんな恐ろしい結果であっても……その後には静寂が訪れるであろう」


 その神様銀次が言っていた『隠されている秘密』はこの〈ジャイアント プラント王国〉の動植物の巨大化に有るのだ。


 この〈ジャイアント プラント王国〉の生き物達は最初は、普通の動物や植物だった。

 だが、ある日とんでもない生物によって巨大化されてしまった。


 一体その生物とは何者だったのか?それから『秘密』とはどんなものなのか?

 益々分らなくなって来た。


 ◆▽◆

 この〈ジャイアント プラント王国〉の修復工事も完全に終わりを迎え、復活祭が盛大に執り行われている。


 まず最初は世にも美しい巨大化した蛇達による踊りや芸が披露された。


〈オオアオムチヘビ〉と言って、通常時は緑一色であるが、危険が迫った時に白黒の図形が並んだような幾何模様が美しい平らなヘビだ。普段はほとんど動かないらしいが今日は復活祭。

 いつも木の葉に擬態しているらしく、早速、舞台の脇の大きな木に登り、青々とした珍しい葉っぱに擬態してお客様の心をわし摑み。そして舞台に戻り、煌びやかな舞台の上で、黄緑色の体をくねくねくねらせながら、体でハ-トの形を作ったり花の形を作ったりして、お客様を喜ばせている。



〈ミドリニシキヘビ〉の成体は緑色でつやつや輝いている。一方〈ミドリニシキヘビ〉の幼体は明るい黄や赤、暗褐色の鮮やかな魅力的な蛇だが、昼間は樹上でとぐろを巻いて過ごし、ほとんど樹木から降りることはない蛇らしい。


 それでも今日は復活祭なので、緑色でつやつや輝いた体で舞台脇の木々の上からぶら下がったり、樹木の上を傍若無人にくねくねくねらせながら動き回り、上ったり下りたりして、その光沢のある美しい身体をお客様に披露している。



〈ヘアリー・ブッシュ・バイパー〉は黄緑色のようでも有るが、鮮烈な青に黄緑、黄色の色が、角度によって異なる美しい蛇である。


 うろこが逆立って、トゲのようになっているヘビだが、このささくれだったウロコのおかげで、どこにでもホイホイ這い上がりやすいので、その特徴を生かした演出になっている。

 舞台のあちらこちらに張り巡らされた縄を、綱渡りをしてホイホイ渡っている。鮮烈な青に黄緑、黄色の色が、角度によって異なる美しい蛇なのでそれはそれは美しい眺めだ。だが、見た目の美しさとは異なり強い毒があるらしい。



〈タカチホヘビ〉虹色の光沢を放つ美しい蛇が、にょろにょろ体を揺らして踊っている。ライトが当たるとそれは眩しいくらいに光り輝き、美しい赤や黄色に青の七色の虹のような輝きを放っている。



〈レッドヘッドクレイト〉 頭としっぽが真っ赤で、胴体は黒っぽい、劇的なコントラストを持つこのヘビは、舞台の上では体を立てて踊っている。そして…その美しい真っ赤な顔を、お客様に存分に見せてくれている。この蛇は個性的な赤が一際輝いている。だが、きわめて強い毒を持つとされる。


 どの大蛇たちもそれはそれは美しい蛇ダンスや芸を披露して、復活祭に色を添えている。



 そして今度は、右側に目を向けると、プーンギーという笛を吹いてコブラを操る蛇使いが表れ、箱からにょろにょろ顔を出すコブラたち。そして…頭をゆらゆら揺らしながらうごめいている。その姿はまるで催眠術にでも、かかったように見える。


 だが、あくまでここは地球ではなく「ファイブドア―ズ星」なので、プーンギーという笛らしきものを吹いてコブラに極似した蛇を操る蛇使い。


 そのコブラ風の蛇に見入っていると今度は、中国風の踊り。数人または十数人が大蛇を頭上にささげて、ねり歩く。長崎市の「おくんち」龍踊(じゃおどり)のようだ。

異国風の踊りで唐人服を着た十数人の使い手が、長さ十一mほどの大蛇をささえ、練り歩く姿は圧巻だ。

 

 だが、あくまで……ここはファイブドア―ズ星の〈ジャイアント プラント王国〉なので、大蛇も極似しているが、地球の大蛇とは全く別の大蛇である。

 だから…唐人服を着ているのも人間では無い。大蛇が人間に極似した生物に化けて練り歩いている。


 そして…先頭の玉使いの持つ玉を追いながら、くねくね練り歩くその後ろから、銅鑼(どら)、チャルメラ(ラッパのような楽器)、鉦(かね)などの囃子(はやし)を、叩いたり、吹いたりして舞う姿は、何とも異国情緒溢れる光景である。


 だが、このお囃子に使われる「ドラや、チャルメラや、カネ」なども極似しているが、少しずつ異なる。



「宴もたけなわ」 

 何とも華やかな復活祭が繰り広げられている。


 そして…世にも美しい大蛇に変身を遂げたリンゴ婆さんは、見事な蛇踊りを大トリで披露した。それはそれは美しい七色の宝石が天空を舞うようにキラキラ輝く姿だった。


 その時、すっかり自信満々になったリンゴ婆さんが、何とも大胆にベニー王の前にしゃしゃり出て、王様にその美しい肢体を巻きつけた。

 何と大胆な事を……。


 この様な無礼なふるまい⁈

 一体どうなる事やら




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