第9話⁂ギャング王国⁂
碧と信長🅰秀吉🅰家康🅰が転生した、この陽の光の無い「極夜」の世界は、実は強盗団の世界で、この王国の名前は「ギャング王国」という名の国だった。
このラバー(強盗)城には、「王様ジノ」が存在するのだが、現在は病気療養中で居なかった。
ルフィ姫は、前世では福祉活動を積極的に行う実に心優しい少女だったので、異世界に転生する時に、神様から重要な任務を仰せ付かった。
それは……この一点の曇りも無い美しい心の持ち主で、莉子と言う少女の常日頃の行状を永遠世界から観察していた神様は、魔力を使わなくても人の心や行動を瞬時に読み取る特殊能力の備わった莉子を目にした時に、この子こそ扉の世界の番人、守り人として最もふさわしいと直感した。
こうして…小鳥ハッピーを授けて、扉の世界の番人、守り人として五つの幻想世界を守って欲しいと頼んだ。そして…五個の鍵を渡した。
それは…この莉子だったらどんな事も瞬時に読み取り、この恐ろしい五つの扉の世界を救ってくれると確信したからだ。
そして…この鍵を渡すという事は、危険と背中合わせだという事だ。
その為、小鳥ハッピーを莉子に授けたのだった。
◆▽◆
それでは何故莉子が、この凶悪な強盗団の世界のお姫様になってしまったのか?
それは…ある日の事だ。莉子は重要な任務を仰せつかり責任感で一杯だ。
莉子はこの、得も言われぬ美しい幻想世界の森の中で、いつもの様に赤や黄色の小鳥や色鮮やかな蝶々、更にはリスや鹿などと戯れ森の中を駆けずり回っていた。
そして…やがて…夜の帳が下りる頃、五つの扉の前にやって来て一つ一つの扉の中に潜入して不審な行為が行われていないか、確認している。
一つ目の扉⁑死者が集まる冥界。
その扉を開けると、真っ暗闇の雲の隙間から月が薄っすら顔を出して、毒々しいまでの真っ赤な彼岸花(曼珠沙華)を不気味に照らしているが、辺り一面に咲き乱れているので余計に、ゾ~ッとする程おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
そして…薄っすらと月灯りに照らされた川が有るのだが、何かしら……ゾクゾク~ッとする寒々しいこの冥界は、足を踏み入れたが最後恐怖と不気味さで発狂しそうになる。
火の玉が四方八方に淡い不気味な炎を灯しゆ~らゆ~ら飛んでいる。川にはどこからともなく無数の灯籠が、不気味な灯りを放ちゆっくりと流れ出して来た。
莉子はいつもの事ながら慣れてはいるが、それでもいつも足がすくむ思いだ。
そんな憂鬱な思いを胸に辺りの見回りをしていると…その時……どこから現れたのか分からないのだが、白装束を着た足の無い青白い顔の女が恨めしそうに血を滴らせて、灯籠が流れる川の上をゆらゆら揺れながら浮遊しているではないか?
目は伏し目がちの、さも恨めしそうな眼付きをした四十歳ぐらいの女性が莉子の前に現れて言った。
「私はまだ死にとうない。可愛い子供の為にもどうか元の世界に戻しておくれ!」
「アア……幽霊五二番、お前は夫の度重なる暴力と博打で借金をこしらえた夫に耐えかねて、刃物で夫を殺そうとした女だな~?そして…反対にその刃物で刺し殺されてしまった子持ち女だな?ウウウン……?それでも…一度人を殺したら……二度三度と殺人を繰り返す人間も居るからな~?」
「お願いです。あんな夫に子供を任せておけば大変な事態になります」
「ウウウ ウウウウッ ウウウン?じゃ~分かった一度だけ下界に戻してやろう」
そう言うと細いクモの糸が一本シュ~ッと下界に伸びた。
「この蜘蛛の糸を伝って地上に戻りなさい。だが……よ~く言って置くが、くれぐれも醜い邪心の心を持つでない。そんな邪心を持てば、たちまちクモの糸が切れてしまう。分かったな?」こうして…その女五十二番は、クモの糸を伝って下界に降りて行った。
だが…この女、実は…男が居た。
もう下界が見えて足がつかえそうな距離に到達したので、安心しきってあれだけ子供の為だと莉子に言って置きながら、ポロっと本音が出てしまった。
「嗚呼アア……愛しの太郎にやっと会える!」
この様な不届き千万の言葉を吐いた。
当然、夫も悪いが、この女も相当なものだ。子供を出しに使って、男と逢引きする為に下界に帰りたかっただとは許せない行為。
すると…細いクモの糸がプツリと切れた。それでも…もう足も地面に付いているので飛べば大丈夫。そう思われたその時一気に下界が消えて、一気に恐ろしい針や槍の山が現れ、ヤリや針の山に刺されて血みどろになって居る人間達が命乞いをしているが、やがて息絶えている。
またグツグツ煮えたぎった血の巨大釜の中にも罪人たちが這い上がろうとするが、到底上る事が出来ず顔や体が溶け出し、それこそ地獄絵図、この世の地獄が展開されている。余りの熱さに声も出ない。溶けて骨だけになって居る。
「ギャギャ——————ッ!どう どういう事?タッタスケテ————————ッ!」
「ザッブ—————ン!」
こうして…五十二番は無残な最期を遂げた。
「全く~?噓は噓はいけません!アーメン👼」
莉子もどんな些細な妥協も許さない完璧主義者。どんな些細なウソも見逃さない。
そして…莉子は、今度は江戸時代の遊郭を連想させる街並みにやって来て、縁側にズラリと並ぶ回転提灯に、ふっと目をやった。
盆でも無いのに、真っ暗闇にぼんやりした淡い灯りがゆらゆら揺れて、クルクル回る盆提灯の回転ちょうちんは、その絵柄の可愛さ以上に、その不気味さを如実に表している。
もうこの世に存在しない人々の、生への執着、更には業や恨み色んな冥者の心の叫びが、影絵となって淡い灯に投影されているように感じ、余計に物悲しく回りながら揺れ動いている提灯。
一見華やかで優美な街並みではあるが、どこか……どろどろした……虚飾うごめく……煌びやかで有れば有る程……一層不気味で物悲しいこの街並みに目を通している莉子は、知らず知らずに涙が溢れ出して来た。自分が冥者である事を感じ取っていたのだろうか?
暫く感傷に浸ってはいたが、悠長な事は言っていられない。
五つの扉の見回りの仕事が待っている。こうして、死者が集まる冥界を出た。
扉の外に出ると美しい森の中なのに、それとは到底似つかわしくない。爆音が鳴り響いた。それはどうも、五つ目の扉「ギャング王国」から聞こえているようだ。
一体五つ目の扉「ギャング王国」の中で何が起こっているのか?
今までも何度か見回りをしていたが、これと言った事件が起きた事が一度たりとも無かったので安心しきっている。
それと…この「ギャング王国」の王様は実は…前世の日本の家族、それも父親にそっくりだった。前世の記憶は無い莉子なのだが、何かしら「ギャング王国」の王様といると心が休まる唯一の幸せな時間だった。
だから…見回りに来ると言うより、王様ジノに会いに来ると言った方が正解だった。
そんな何とも懐かしい香りのするジノ王に会いに来る時は、莉子は無防備極まりない恰好で来ていた。
いつも見回りの時は、小鳥ハッピーを絶対肩に乗せて見回りをするのに、この懐かしい優しいおじさんの所に来る時は、いつの間にか小鳥ハッピーを肩に乗せずに
やって来るようになっていた。
それが悪かったのか、こんな優しそうなおじさんが、その時はまだ莉子だったので、莉子の紅茶に睡眠薬を入れて眠らせ、カギを複製してスペアキーを作ってしまった。
更にはラバー城の老婆、リンゴ婆さんは魔法使いだった。
こうして…莉子は恐ろしい魔法を掛けられてしまった。
アア……それでも…莉子だったのが、何故ルフィ姫になったのか?
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