第7話 焼うどんと宝くじ

俺の目の前には宝くじがあった。

その裏側には妹よりと書いてある。あいつ何やっているんだ。

こんな宝くじ一枚入れるために来たのか?よくわからない妹だ。

幼少の時からお兄様、お兄様としつこかった。

懐いててくれるのは嬉しいが、いい感じになる女の子との間に入ってきて結局は破局するという落ちまで作ってくる。そんな本当に厄介な妹のことを思い出していた。


明日が宝くじの当選日らしい。

「はっ、知らねー。」とポイと放り投げた。

もう一つ手紙が入っている。

差出人 岡 真理愛 と書かれてある。俺はその手紙を丸めてポイした。

「なんで丸めるのよ!」と言う声が聞こえてきたような気がする。

俺はそのままぐったりと二度寝を決め込んだ。

スマホの振動音で起きた。

「あっ勇樹君。」それは店長からの電話だった。

「はい、なんでしょう。」と寝起きな声で腹をかきながら返答した。

「勇樹君ごめんなんだけど、仕事辞めてもらえないかな。」と言われた。

俺はなんとも言えないような顔になる。

むしろよくここまで持ったと言うことだろうか?

「わかりました。」と俺は返事を返しておいた。

「そうだよね。ダメだよね・・・あれいいの?」と店長が聞いてきた。

「はい、店長さんには良くしてもらいました。ありがとうございます。」と言って俺はスマホの電源を切ってふて寝した。


それは夢の中の出来事だった。

「おおう、川山よ死んでしまうとは何と言うことだ。」と俺は裁判官になっていた。

被告人席には川山がいる。

「被告人は黙秘の権利はなく、弁護の必要もなく、ただ罪の償いを述べよ。」と俺は言って木のガベルで叩く。

「私の罪は複数の女性と交際したことでしょう。そのことを彼女、響野 吉乃に黙認させ女たちとの交際を楽しみました。もちろん悔いはありません。」と言って傍聴席の男達が騒がしい。

「死刑だ!」

「死刑を求刑しろ!」と嫉妬の声達が聞こえてくる。モテない男どもの僻みの声だ。

俺はガベルで叩いて静かにさせようとしたが、弁護席にいる響野が擁護する。

「私は彼を愛していました。今でも愛しています。歪かもしれませんが、その愛を許してください。」とお願いしてくる。男どもは美人に言われ黙るしかなかった。

「他に罪はないかね?」俺は思わず聞いてしまう。

「男達に彼女たちを見せつける事が私の罪です。私の彼女は美しいと、男どもの僻みの視線がとっても・・・とっても喜ばしいことだった!」と力説する。

「あーあ言っちゃったよこいつ!」と俺は頭を抱えた。

傍聴席は川山への罵詈雑言の嵐だった。

一部の者達が川山へ殺到する中に刃物を持って来ている者がいる。

「誰かいないのかそれを止めろ!」と俺は言ったが警備の誰も反応しない。

「まさか!買収された。」俺は川山が刺される所を見ているしかなかった。

「川山!」と俺は駆け寄る。

「き北長、このく、にのみ、らいをた、のむ。」と言う。

「しっかりしろ!お前に死なれたら俺は・・・」

「た、のむ愛しているこのく、にのみ、らいを・・・」と言ってぐったりした。

「川山!川山!やっぱりお前の死因は彼氏がいる女に手を出したことなんだな!」と俺は叫び続けた。

そんな俺が顔を上げれば、響野がいた。

「貴方のせいで死んだのよ!彼を返して!お願いよ!」と涙ながらに言っている。

「あーーーーー。」と狂ったように俺は叫んだ。


目を覚ます。荒い息をした。寝汗を掻いていたようで、びっしょりしていた。

「川山の奴死んでから祟るなよな!」と俺は届かない文句を言った。

寝汗をシャワーで流した。まだ冷たい。これヤバい。それをやせ我慢する。

タオルで拭き、ドライヤーは止めた。電気代がかかる。

新しい服を来て、この部屋から出る。

たまには飯を食おうと外に出た。

俺はその席に着き、飯が来るのを待っていた。俺の前に焼うどんが現れた。

ずずずずと食べる。焼きそばの太いのだ。美味しいに決まっている。

このもちもちがやめられない。

たまに食べたくなるんだよな。

そう言えば前に一度川山と一緒に食べたなー。隣の席にいない男の事を思い出していた。

ずるずる。むしゃむしゃ。

「まったく死ぬなよな。」と文句を言うと涙がこぼれてくる。

「塩味がする。この国のこと、俺に押し付けていきやがって!やる気がないってーの!おばちゃん、おにぎり追加ね!」

「あいよー。」と言っていた。俺はそのおにぎりが好きだった。

それを食べ終わり席を立とうとして、お金が足りないことに気付く!

財布を探してもあと十円足りなかった。

終わったと思って机に突っ伏した。

「おごりましょうか?」と隣から声が聞こえてくる。

俺は突っ伏したままそちらに顔を向けた。そこにいたのはスーツ姿、眼鏡の妹だった。

「全額おごりますよ。」と笑顔で言ってくる。この笑顔が恐いのだ。

「十円でいい。」俺は右手を出さずに床に十円が落ちていないか探し出した。

「あっ十円を落とした。」と妹がやってくる。

「わーい十円が落ちてた。」

「何この茶番は?」

「妹に借りを作ると大変だからな!」と肩を震わせている。

そんな俺を見ていた。

「まぁいいわ。それと宝くじ、しっかり確認してね!」と言ってきた。

「はっ!当たらないものに頼るほど俺は落ちぶれていないさ。」兄の背中はただ強がっているだけのように見えた。

「落ち武者のように見えるけどね。」と妹は兄と同じものを頼み、食べ出した。

「あー美味しい。」と焼うどんの虜になった。


帰って寝るとあいつが俺の前にいる。

「またかー。」と俺は呆れた。本当に祟られてないか?

俺をじーっと見つめてくる川山に・・・

「何か用かよ!」と聞いた。

「この国のことを頼む。この国を愛しているんだ。」

「あーあ。」と俺は耳に手を当てながら言う。

何度も、何度も言ってきやがる。ストーカーか!

いや祟られているから、霊みたいなものか、恐いな!と思いながら、今日と言う日が過ぎていく。

俺は次の日、何と言うか変な時間に起きて手に紙を持って珍しくテレビをつけていた。快適な引きこもりライフを送りたいと願っていた。まぁ当たるわけないが・・・

番号が発表された。俺は確認した。俺は目を擦る。もう一度確認した。

「あっ、当たったー!」と俺は驚いて立ち上がった。

薄い壁の向こうでものすごく叩いてくるおとがする。

「当たったー。嘘だろ、嘘だろうー当たったー。」と叫び続け、踊り続けるのだった。

そして後でクレームが来たことは言うまでもなかった。

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