第19話 夢のような一日
ボレスの参入でスライムの素は三割増しで手に入ることとなった。
「おいおいおい。美人なエルフに囲まれての仕事ってのはどう言う事だ?」
随分と浮かれているボレスがレイモンドと盛り上がっていた。
「わかりますよ! もう何日も一緒に仕事をしているのに、一向に慣れませんもん」
「だよな! いやぁ、本当にいい仕事にありつけたぜ。これもノーラのおかげだぜ」
「ノーラさんとは付き合いが長いんですか?」
「そりゃあなぁ……」
……僕はそっと壁の裏から二人の会話を見ていた。
参加するべきだろうか?
それとも逃げるべきか。
考えてみれば、僕には仕事以外で男同士で話をしたことがない。
常に仕事の話だ。
「どうされたんですか? アルヴィンさん」
「ひぃ!」
急に声を掛けられたせいで変な声が出てしまった。
「ノ、ノーラさん。驚かさないでくださいよ」
「すみません。一体、何を……ああ、あの二人ですか。まったく……同朋からいつもいやらしい視線を感じると苦情が出ているんですよ。困ったものですよね」
えっと……。
「なんか、すみません」
自然と謝罪の言葉が出てしまった。
一応、弁解しておくといやらしい視線を送っているつもりはないんだ。
でも、エルフって物凄く美人だし、スタイルがいいからどんな時でも絵になるっていうか……。
今のノーラさんだって、すごくいい匂いが。
「どうして、アルヴィンさんが謝るんですか?」
「いや、僕も同じような視線を送っているんじゃないかなって……」
「それって……アルヴィンさんがエルフに興味があるって事ですか!?」
興味も何も、美女がいれば、誰だって……。
それでも、この恥ずかしい状況でこれ以上の会話は難しい。
頷くだけで、精一杯だ。
「嬉しいです‼ アルヴィンさんには返しても返しきれない恩があります。どうしようかと悩んでいたんですが……解決できそうです‼ では!」
行ってしまった。
最後の話は一体何のことなんだ?
まぁ、でも……女性と仕事以外で少し会話が出来たから良しとするか。
再び、男二人の会話を盗み聞きする。
「今でこそ、いいですけど……ちょっと前までは皆、スケスケの服だったんですよ」
「ぶほっ‼ マジか!? じゃあ、お前はあの体の隅々まで見ていたってことか?」
「えへへへ」
「ぶっ殺す‼ その目ん玉、えぐって俺にも拝ませろ!」
随分と仲が良さそうだなぁ……。
今から参加しても、場を白けさせないだろうか?
「お兄ちゃん、何しているの?」
「ひいい」
今度はシーラちゃんか。
「あの二人……とってもエッチぃの。今度、ダンジョンに行ったら、皆でお仕置きしようって決めてあるんだ‼ って……あれ? この話、言っても良かったんだっけ?」
……あの二人も大変そうだな。
でも、不思議だ……なんか、ちょっとうらやましい。
「なぁ、僕もエッチだったら、同じことをされるのかな?」
「ええーっ! お兄ちゃんがエッチだったら……違うことされると思うよ。だって、あの二人と違うもん。ってお姉ちゃんが怖い顔で呼んでるぅ。行ってくるねぇ」
違うことってなんだよ。
でも、エッチになることによって、何かされるのか……。
これからはもうちょっとイヤらしい目の使い方を身に着けたほうがいいだろうか?
いや、まて。
これを口実にあの二人に話しかけるのはどうだろうか?
それがいい‼
行くんだ、僕‼
「何? いやらしい目付きを伝授してくれ? バカ言うんじゃねぇよ!」
一蹴されてしまった。
いや、ここで諦めるわけにはいかない。
「アルヴィンさん、本気なんですかぁ?」
「もちろんだ‼ ぜひとも、身につけたい」
「おいおいおい。いいか? 俺達の目つきはな……手が届かない妄想を穴埋めするようなもんなんだ。エルフとエロいことをしてぇ……それを妄想して、見ることで解消しているんだ。分かるか?」
……分かるような、わからないような。
「そうですよ‼ 私達はエルフに見向きもされないんですから。あのエロい体を抱けたらと思うと……」
「これが俺達の現実なんだ。イヤらしい目っていうのはな、夢を追い求める男だけが得られる目付きなんだよ」
だったら、僕だって得られるはずだ。
エルフは僕にとっても一生を共にする伴侶の候補なんだ。
「その顔は分かってねぇな」
「分かっていませんね。残念ですが、アルヴィンさんには手に入りませんよ」
どうして……。
「僕だって……」
「ムリムリ!」
だんだん、腹が立ってきた。
僕は商人だ。
手に入らないものなんて、ない‼
それは傲慢でも何でもない。
事実だ。
絶対にイヤらしい目付きを手に入れてみせる‼
「もう二人には頼みませんよ‼」
時間の無駄だったようだ。
こんなことなら、壁の裏からこっそりと話を聞いているだけにするべきだった。
「まぁ、ちょっと待て。そこまでの覚悟があるなら、究極の方法を教えてやる」
「ま、まさか。あれをやるつもりですか?」
「ああ。アルヴィンなら耐えられるだろうよ」
一体、何の話なんだ?
「いいか? この儀式でアルヴィンが神聖な目を得られるかどうかが、分かる。それを受けてみるか?」
ボレスは一体、何を考えている?
レイモンドは恐怖を目に映しながら、こちらを力なさげに見ているだけだった。
だが、僕の決意は硬い。
「もちろんだ。目付きを手に入れるためだったら、何だってする‼ それが商人だ‼」
「いい答えだ。だったら、決行は……今晩だ」
「ひいいい。私達も参加するんですか?」
「当たり前よ。アルヴィンに見せつけてやろうじゃねぇか!」
二人は一体、何の話をしているんだ?
儀式とは、一体……。
その晩……。
目隠しをされた状態で、どこかに案内された。
「おお、凄い眺めだな」
「最高ですね。でも、本当にやるんですか? アルヴィンさん、最悪……」
「大丈夫だろうよ。俺の見立てでは、十中八九は生き残る」
「それ以外は?」
「まぁ、その時は成仏してもらおう」
……。
「お前たち、本当にこれで目付きが手に入るんだろうな?」
「それは……アルヴィン次第だ!」
ポンと突き放され、落下する恐怖が襲い掛かってきた。
それも一瞬だった。
池に落とされたのだ。
あいつら、一体何のつもりだ。
……しかし、随分と温かいな……。
「きゃーーーっ!」
何事だ!?
水の中で必死にもがき、なんとか目隠しを外すことに成功した……んだけど、外さなければ良かった。
目の映るのはエルフの裸……裸……裸……。
僕はエルフ達の入浴にお邪魔をしていた。
に、逃げないと……。
こんなことは商会の主がやるべき行動ではない。
従業員の裸を見るなんて……。
「逃しませんよ。アルヴィンさん」
「ひいいいっ」
ノーラさん!?
いや、違う……目付きがイヤらしい‼
「皆! アルヴィンさんを捕まえたわ!」
「……やっちゃう?」
「やっちゃいますか?」
「とりあえず、服は剥いじゃいましょう‼」
ひぃぃぃ!
怖い怖い怖い‼
「お兄ちゃん、逃げて!」
シーラちゃん……って、裸、隠して‼
「くっ‼ シーラ! 邪魔は許さないわよ‼ これは千載一遇の機会‼」
「ダメッ‼ 早く逃げて!」
助かる……。
僕は裸のエルフに進路妨害をされながらも、なんとか逃げ出すことに成功した。
「はぁはぁはぁ……なんとか、逃げられたぞ」
「言っただろ? 生き残れるって」
「すごい事になっていましたけどねぇ」
こいつら……。
「分かっただろ? 今のお前の目は恐怖に染まっている。俺達の目を見てみろ」
ああ、確かに僕には手に入らないな……。
二人の目はこれ以上ないほど、イヤらしい目付きになっていた……。
結局、次の日……。
まるで何もなかったかのように、一日が始まった。
ノーラさんに話しかけても、昨晩の話題は一切出なかった。
ボレスとレイモンドもいつも通りにダンジョンに向かった。
昨日は夢でも見ていたんだろうか?
だけど、これだけは思った。
イヤらしい目つきは、選ばれし者が手にすることが出来るのだと……。
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