第17話 製造ラインがようやく見えてきました

奴隷エルフを買ってから、一日が経った。


今日からが本番だ。


今からが大商会ラングワースとの競争が始まる。


相手は多くの薬師を抱え、大量生産も可能だろう。


だが、新ポーションは作ればいいという訳ではない。


しっかりと効果や副作用を調べた上で販売しなければならない。


その点では、こちらに分がある。


その部分を大幅にカットすることが出来るからだ。


だから、こちらの問題はどれだけ大量生産の体勢に持っていけるか……それが全てだ。


「レイモンド! 薬草エキス作成の人選は終わったか?」

「無茶、言わないでくださいよぉ。あんな美人たちを前に私に何が出来るんですかぁ?」


なんて、無力な男なんだ。


たとえ、美人であったとしても仕事と思えば、何も気にすることはないではないか。


「ノーラさん、どうですか?」

「ええ。ポーション製薬の20人は確保できました。幸い、私の里出身者が多かったですから」


それは良かった。


第一関門は突破したと見ていいだろう。


「シーラちゃん。腕利きのエルフは見つかったか?」

「もちろん! でも、スライムなんて誰でも倒せるでしょ?」


くっ……。


苦笑いを浮かべながら、話を促す。


「私ほどじゃないけど、30人、選んだよぉ」


そうなると……。


「レイモンド。49人の面倒はお前が見ろよぉ」

「無茶言わないで下さいよぉ‼ ……20人‼ 薬草エキス作りにそれだけいれば、充分ですよぉ‼」


そうなると29人が余るな……。


「分かった。それは僕がなんとかしよう。とにかく、材料を集めまくってくれ‼」

「はいっ‼」

「はぁい」


ラングワース商会も動き始めているといるとすれば……。


材料の争奪戦が起こるだろうな……。


頼むぞ……レイモンドとシーラちゃん。


「あのぉ……アルヴィンさん?」

「どうした? 早く、出発しろよ。シーラちゃんは先に行ったぞ」


「そのぉ……」


一刻も争うというのに……。


「早く、言ってくれ‼」

「エルフたちの服を……服代をもらえませんか? その……目のやり場に困るというか……スケスケじゃないですか?」


まぁ、奴隷服だからな……


「そんなものじゃないか?」

「いやいやいや……いいんですか? 仕事の効率が落ちますよ? 私、きっとエルフをじっと見つめちゃいますよ。いいんですか?」


なんだよ……随分とグイグイ来るな。


「分かった分かった。一人金貨5枚までだぞ。ちゃんした探索者の服を買ってやれ」

「そうこなくっちゃ!」


まったく、手痛い出費だ……。


さて……。


なんだ? この刺さるような視線は……。


「あの……アルヴィンさん? この子達にも……その……服を……いえ、その。奴隷には勿体無いとは思うんですけど……」


仕方がない。


これから一緒に働く仲間なのだ。


スケスケの服では締まらないか。


「分かった。だが、しっかりと役割にあった服にすること。いいな?」

「分かりました‼ すぐに調達に行ってきます‼」


しばらくしてから、シーラちゃんが息を切らせて、戻ってきた。


「レイモンドから聞いたの。お金、頂戴‼」


まったく……。


結局、99人分の服代を払うことになった。


金貨495枚の出費だ。


絶対に取り戻してやる‼


ノーラさんとエルフ20人はさっそく製薬に取り掛かってもらった。


シーラちゃんとレイモンドの50人はダンジョンへと向かった。


さて……。


残ったエルフたちには……。


「君たちには、この倉庫の片付けをしてもらうよ。牢屋は破壊してもらって、製薬のための部屋を早急に作ってもらいたい。次に材料の保管場所だ」


この2つがなければ、話にならない。


「それと……この中で一番、年長者は誰だ?」

「……私、だと思います」


手を上げたのは、ノーラさんと同じ美女だった。


まるで双子かと思うくらい似ている……。


他種族の識別はやっぱり難しいのだな。


あとで名札を配っておくか。


「君は……」

「はい。エーラと申します。まずはお礼を。我ら同胞を助けていただいたこと、誠に感謝しております」


僕は首を傾げてしまった。


「僕は君たちを奴隷として買った。正直、感謝をされることに疑問があるんだけど」


ノーラさんが言うのと、この人たちが言うのとでは意味が違う。


ノーラさんは奴隷ではない。


だからこそ、感謝に意味がある。


だが……。


「僕は君たちを奴隷から解放するつもりは……ない。一生奴隷かもしれないんだ」


奴隷の一生に自由はない。


命令され、こき使われ、自らをすり減らしていく。


ノーラさんのように店を構える夢すら見ることが許されない。


そんな人生に感謝なんて出来るだろうか?


「それでも……感謝します」

「そうか……ならば、君たちの感謝に応えられるように善処することにしよう。さて、エーラと言ったか。君にはここのリーダーをやってもらう。出来るか?」


周りを見ている限り、異議を感じている者はいなさそうだ。


まぁ、様子見をしていると言ったほうがいいかもしれないが。


「分かりました」

「よし‼ ならば、さっき言った仕事に取り掛かってくれ。そうしたら、君たちの寝床を作ってくれよ」


なにか、変なことを言ったかな?


皆から変な視線を送られる。


「変なことを聞くようですが……我らは牢屋に戻るのではないでしょうか?」


「逆に聞くが、牢屋で寝たいのか?」


実は長年、牢屋で寝ていたから、そっちのほうが安心して寝られる……何て、事があるんだろうか?


「いえっ! 奴隷には牢屋というのが普通……というか。我らの寝床を作っても良いのですか?」

「そう言っている。寝具も用意しなければならないな」


「いえいえいえいえ! そこまでは。我らはこの雨風が防げるだけでも……」


何も分かっていないな。


「それでは困る。しっかりと休養を取り、万全な体勢で仕事に挑んでもらわないと。そのために寝具が絶対に必要だ。それとも、エルフは床で直に寝るのが好きなのか?」


エルフと人間の生活様式は違う……かもしれない。


少なくとも、シーラちゃんとノーラさんでは感じなかったけど。


でも、二人はずっとこの街で暮らしていたから、かもしれない。


「いえ、そのような事は。ならば、甘えさせてもらいます」


……。


「一々、言いたくないから言っておく。これは僕の利益になるからやっていることだ。だから、感謝は不要だ。以上‼ 作業に戻ってくれ」

「……承知しました」


これでいいかな……。

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