第16話 裏切りは想定できないものです

「き、金貨4000枚!? それでエルフと建物を買ったんですかぁ!?」


レイモンドとノーラさんを集めて、今後のことを話し合うことにしたんだが……。


「アルヴィンさん、どんだけ、お金持っているんですか!? というか、そんなお金があった一生暮らすことだって……」


まぁ、そうだよな。


だが、話の軸はそこにはないんだぞ?


「レイモンド、落ち着いてくれ。今は公爵からの依頼を早くこなさなければならない」

「そう……ですね。しかし、一週間で一万本の材料か……出来るかな?」


それでいい。


今はこのノルマに対して、全員で挑まなければならない。


「シーラちゃんも協力してくれるかな? もちろん、報酬は払うよ」

「いいよぉ‼ でも、スライムばっかり倒すんでしょ? つまらなそうだね」


まぁ、今は下層で暴れまわっていると聞くからな。


確かにつまらないかも知れない。


僕にとっては強敵なんだけど……。


「ノーラさんもお願いしますね」

「……」


最近、ノーラさんの様子が可怪しい。


どうしたんだろう?


「ノーラさん?」

「報酬の増額を要求します」


何を言っているんだ?


「もちろん、そのつもりです。しかし、この件を解決してからの話ですよ」

「そんなの分からないじゃないですか‼」


どうしたんだ?


「そんなにお金を使って、もし、失敗したらどうするんですか? 私、たくさん作ったんですよ! お金がもらえなかったら……」


そんな心配か……。


「安心して下さい。ちゃんとお支払もしますし、増額だって……」

「それが分からないじゃないですか‼ もう、お店だって……」


お店?


「どういうことです? お店って何のことです?」

「あのね、お兄ちゃん」


……シーラちゃん。


「お姉ちゃん、前から夢だったの。お店を持つことが。それでね、お兄ちゃんから貰ったお金とこれからのお金を全部使っちゃったの」


それって……。


「まさか、借金をしたんですか?」

「ええ。小さいけど、いいお店だったの。金貨1000枚で譲ってくれるって言うから……」


1000枚って……。


確か、ノーラさんに渡している金貨は100枚程度だ。


ということは、900枚も借金したのか?


奴隷商にいたエルフとは額が段違いだな。


しかし、分からない。


こう言っては何だが、エルフにそんな大金を貸す人がいるのか?


「誰から借りたんですか?」

「……」


「ノーラさん‼」

「……ラングワース商会です」


嫌な予感がする。


ラングワース商会はポーション製薬ではもっと大きな商会だ。


王国に流通している半分以上は、この商会によるものだ。


その商会がエルフに金貨900枚も貸したのだ。


その意味するところは……。


「ノーラさん、正直に言って下さい……売りましたね?」

「……」


なんてことだ。


あれほど、口止めをしていたのに……。


どうして、こうなる。


ラングワース商会は動きが早い。


すぐに商品を流し始めるはず。


そうなれば、後に出した新参者の僕達への心象は最悪だろう。


例え、公爵のお墨付きの商品だとしても、だ。


それを回避するためにはラングワース商会よりも先に新ポーションを流す必要がある。


ダメだ……それだけでは。


公爵のお墨付きも同時に欲しいところだ。


そうなると、一万本というノルマを達成しつつ、ダンジョン探索者に流す新ポーションも作らなければならない。


不幸中の幸いというべきか、エルフを大量に買えたのは良かった。


「レイモンド! それとシーラちゃんは一緒に商会本部に向かってくれ‼」

「あ、あの……」


……ノーラさん。


もはや、言い訳はいらない。


その段階はすでに過ぎ去ったんだ。


お金のために情報を売っただけだ。


この商会にダメージを与えるためではないはず……。


だったら……。


「ノーラさんにも協力してもらいますよ。とにかく、新ポーションをできるだけ作って下さい! これの成否でノーラさんへの報酬も変わると認識して下さい」

「……はい」


時間との勝負。


僕は商会本部と言った場所に向かった。


「アルヴィンさん、ここを買ったのですかぁ?」

「ああ、格安な理由が分かるだろ?」


ライムートの街のスラム街に来ていた。


僕が買ったのは、この土地全てだ。


それと……。


「ここが僕達のこれからの本拠地だ」

「ボロいですねぇ」


「ぼろっちいぃぃ」


口々に悪態を付くのは止めなさい。


「……それはこれからキレイにしていけばいい話だ。中に入るぞ」


……僕は閉口していた。


さすがは奴隷商が譲ってくれた建物だな。


牢屋がたくさんある。


「あの野郎……」


エルフたちを牢屋に入れていきやがった。


どういうつもりだ?


「レイモンド、すぐに出してやってくれ」

「ほええええ」


「何を呆けている‼」

「は、はいいいい」


まったく……。


「シーラちゃんはエルフたちの体を綺麗に出来るように水を汲んできてくれ」

「はぁい」


あとは……。


「ノーラさん……一つ、聞いてもいいですか?」

「……はい」


僕は彼女を初めてみたとき……『出会い』スキルは彼女を『相棒』と言っていた。


だからこそ、僕は彼女をすぐに信じた。


だが、彼女は裏切った。


それもこれ以上ないほど……。


それでも今は彼女の力が必要だ。


ましてや、ラングワース商会に奪われるなんて言語道断だ。


「僕はノーラさんが独立することに反対はしません」

「……アルヴィンさん?」


彼女の人生を決めるのは彼女自身だ。


僕が縛り付けていい理由はない。


「でも、今だけはどうしてもノーラさんの力が必要なんです。どうか、力を貸していただけないでしょうか?」


裏切り者であっても、彼女は今でも『相棒』だ。


それは、この商売をする以上はどうしても切り離せない人だということだろう。


「……分かりました。なんでも、言って下さい」


必ず、ここ局面を打開してみせる。


そうしたら……僕は彼女を送り出してやろうと思う。


「ノーラさん。ここにいるエルフの中から、製薬に通じている人を20人以上確保して下さい」

「分かりました……一つ、いいですか?」


僕は在庫の確認のため、踵を返したところで呼び止められた。


「なんですか?」

「エルフを……いえ、同胞を助けていただいて、本当にありがとうございます」


深々と頭を下げるノーラさんの姿を見て……。


やっぱり、僕はこの人を憎むことは出来ないと思った。


「まずは、ここを乗り越えましょう」

「はい!」


今はこれでいい……。

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