第15話 商会には人手が必要です

奴隷商に導かれるようにエルフが柵の中から出てきた。


呼ばれなかった者は阿鼻叫喚と言った様子だったが……。


誰もそれに反応するエルフはいなかった。


どちらが幸せなのか?


外に出て奴隷として……物として扱われることと……


ここで生きていられるが、悲惨な環境と……。


出るものと残るものはとても複雑な気持ちだろうな。


「お買い上げありがとうございます。合計しました所……金貨5113枚となります」


さすがに大きな金額だな。


ちなみに大きな金額の取引を現金で受け渡しをする必要はない。


現金は、王国が運営する預かり所で保管してもらえる。


そして、額と僕のサインが記載された所定の紙を渡すだけで決済は完了となる。


実に優れた方法だ。


大金を持ち歩き、盗まれる……という被害をなくすことが出来るのだから。


「ちょっと待っていてくれ……今、用意する」

「あいや、少々お待ちを。これだけ買っていただけのです……割引をさせてもらいます」


それは有り難いな。


「えっと……金貨1000枚で売らせていただきます」


……は?


聞き間違いか?


半値の騒ぎではない。


「それは減額分のお金か?」

「いえ、エルフはほぼ売れない在庫でございます。仕方なく、取り扱っておりますが……銅貨一枚でも有り難いほどなのです」


……エルフの扱いとはこれ程なのか……。


別に同情するつもりはない。


ここに来る時点で、自分に何かしらの落ち度があったのだろう。


それはエルフかどうかは関係のないこと……。


だが、僕にとっては最高の結果かも知れない。


「だったら、全部買おう。金貨2000枚。どうだ?」

「お客様は神のようなお方だ。お買い上げ、ありがとうございます‼ もちろん、奴隷紋はサービスとさせていただきます」


……。


「すまないが、奴隷紋とは何だ?」


聞いたこともない言葉だ。


奴隷は買われれば、それで終わりではないのか?


「ご存知ありませんか? 奴隷紋は……」


奴隷商は喜々として語っていたが、胸糞悪い話だった。


奴隷は物……。


だが、どう言っても人であることには変わりはない。


食事を取り、眠らなければならない。


それを怠れば、当然、人としての機能がなくなってしまう。


奴隷紋はそれを解消する画期的な技術だ。


食事も睡眠も必要がなくなる。


もちろん、衰弱はする。


ただ、その苦痛から解放されるのが奴隷紋のようだ。


だから、一日中の拷問でも耐えることが出来る。


あらゆる苦痛に対しても、すぐに死ねない体となってしまうのだ。


それが……奴隷紋だ。


「僕にはそれは不要だ。この者たちを物として取り扱う気はないからな」

「はぁ? お客様……それはなにかのご冗談ですか? こんな使えないモノなど……それ位しか楽しみがないでしょう?」


……余計なことを言ってしまったな。


だが、僕の一言でエルフたちがざわめき始めた。


「黙れ‼ ゴミが‼」


こいつの態度は気に食わないな。


「これはもう、僕の者なんだろ? ゴミ呼ばわりは止めてくれないか?」

「はっ……それは失礼しました。では、これが購入証書です……それと、これはお節介というものかも知れませんが、この大人数のエルフを街中に出すのはお勧めしませんよ」


考えてみれば、その通りだ。


なんて、バカなんだ。


労働力の計算ばかりしていて、そんなことに頭が働かないとは……。


「いかがでしょう? 別途、料金は発生しますが、荷馬車で送らせていただきますが……」


それはいい考えだが……。


失念していたことが、次々と出てくる。


この者たちの居住場所の問題だ。


今の高級宿屋には、シーラちゃんとノーラさんでさえ、騒ぎになったのだ。


こんな大人数は連れて行くのは難しいだろう。


「ちなみに……拠点はどちらに?」

「今はライムートの街だが……」


なにやら、考え事をしている奴隷商。


「提案があるのですが……」


僕はその提案を乗っかることにした。


そして、新たに金貨2000枚を支払うことになるのだが……


この買い物は僕達の飛躍には必要不可欠なものとなった。


「それでは……参りましょうか」


さすがに99人のエルフを一度に運べる荷馬車は存在しない。


何度も往復をする形で、ライムートの街に運ばれていった。


僕は一足先に高級宿屋に向かうことにした。


それは色々な報告をするために……。


「今、戻りました……って、レイモンドもいたのか」

「アルヴィンさん‼ どうでした?」


シーラちゃんは、相変わらずもぐもぐと何かを食べている。


ノーラさんは取り付かれたようにポーション作りに精を出していた。


「ああ、まさか一度目の交渉で話がすすむとは思わなかった」

「ということは……成功したんですか?」


僕はゆっくりと頷いた。


「やったぁ‼ これでアルヴィン商会が大きな飛躍をするときですね」

「なんだ? そのアルヴィン商会って……」


「ほら、これ見て下さい!」


レイモンドが差し出してきたのは一枚の紙だった。


手紙か?


「勝手に読むなと言っているだろ! 全く……」


そこには信じられないようなことが書かれていた。


僕が公爵家から出て、ここまでにどれくらいの時間があっただろうか?


まさか、こんな書類が届いているなんて……。


それは……『商会設立許可状』だった。


「すごいですね‼ 商会を作ってしまうなんて‼」


この許可状を取るために、あちこちに根回しをしなければならないと頭を抱えていたんだけど……。


こんなにあっさりと手に入ってしまうとは……。


それもこの人の名前があってのことだろうな。


商会は当然、商売に失敗すれば大きな借金を背負うことになる。


それは全て、設立した人が負うものだ。


だが、それは莫大であり、とても返せるものではない。


だからこそ、設立には後見人を立てなければならない。


要は借金を肩代わりする保証人だ。


その確保が一番の課題となるのだが……。


後見人の欄には『公爵家 レオン=ルネリーゼ』というサインが書かれていた。


そして……商会名は……。


『アルヴィン商会』と書かれていた。


僕は再び、商会に戻った。


そして、商会の長として……皆を導く存在となってしまった。


「ああ、この恩をあの人にどうやって返せばいいんだ?」


そのことでしばらく頭を悩ませることになった。

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