4話 相を知る、ゆえに我知らず

「ふぐっ!」

 立ち上がった瞬間、ピシリと鋭い痛みが脇腹から肩へと駆け上った。

 動きが止まったのは一瞬、されど漏れ出た声は澄まし顔を作ってもなかったことにはならない。

「静月君? どうしたの?」

 隣にいた生徒が目を丸くし呼び掛けてくる。

 背が低く、ころんとした垂れ目が印象的な少女……と呼びたくなる先輩、椿桜さんだ。

 必然的に上目遣いになる大きな瞳を前に、今しがたの声はあまりに恥ずかしい。

「いえ、筋肉痛が少し……」

 逃げるように呟くが、そうなんだね、と社交辞令的に相槌を打つ器用さを彼女は持たない。

「筋肉痛? 昨日は休みだったよね?」

「あー、なので、バッセンに行ってまして」

 まさか誰と行ったかなど聞かれはすまい。

 分かっていても戦々恐々の思いで待つと、桜さんは顎に指をやり首を傾げる、他の女子高生がやったら噴飯ものの仕草で疑問符を口にした。

「バッセン……? バ、バ……えと、パッセンジャーとか? 飛行機?」

「バッティングセンターです」

「ほへぇ。バッティングセンター……って、あれだよね? バッティングする」

「そうですね」

「へぇ! そこ行ってたんだ」

「そうですね。それじゃ、再開しましょうか」

「へ? あ、うん、そうだね」

 椿桜。

 彼女が天然なのか養殖なのか議論は絶えない。

 見るからに天然モノの天然に思えるが、これでテストの点数では学年上位、純真無垢の在り方は教師受けもいいために推薦を早々に獲得している。

 加えて中学時代から陸上部でマネージャーを担った経験を持ち、その手際は下級生の見本そのもの。

 果たして彼女は、本当に天然なのか。

 疑問ではあるものの、俺には関係のないことだ。

 やるべきは学園七不思議の解明ではなく彼女の補佐であり、競技者のサポート。

 名門校でもなければ軽視されがちな部活だが、高校ともなると気を配らなければいけないことは多い。

 用具の支度は地味な重労働だし、各自持参のドリンクでさえ置き場が変われば取り違えが起きて問題になる。全てがマネージャーの仕事ではないにせよ、自分にできることを見て見ぬふりするわけにもいかない。

「ね、ね、静月君ってもしかして野球少年?」

 手はテキパキ動かしながら、ずずいと上半身を乗り出しながら興味津々の表情で聞いてくる桜さん。この無邪気な距離の詰め方がどれだけの不幸を生み出してきたか、想像はしないでおこう。

「いえ、小中はサッカーやってました」

「なのに辞めちゃったんだ?」

「えぇ」

「そっかそっかー。……陸上部、楽しい?」

「まぁ、それなりに」

「ふふっ、それはあたしも嬉しいかも」

 どれだけの不幸、生み出してきたんだろう。

 未だピリピリと痛む筋肉痛から意識を引き剥がし、ぐぐっと上体を反らす。普段と違う角度で見上げる放課後の空は、まだまだ青い。

 耳を澄ますと、近付いてくる掛け声も聞こえた。

 引退予定の主将から次期主将……修へと掛け声が引き継がれていく。交互の声を聞いて抱きそうになる感慨は幻影か、それだけ俺も陸上部員だったということか。

「よし、急いでやっちゃおっか」

 言いながらも手を動かす桜さんは、こんな人だが俺の数割増しで仕事をこなす。俺も手際が悪い方ではないんだけど、こればかりは張り合う壁が高すぎた。

 少し遅れ、夏休み前に入部してきた一年のマネージャーには、彼女と自分を比較して気を落とさないでもらいたい。

 まぁその一年、隣のスペースで練習中の野球部に夢中で手が止まってるけど。

「お」

「え?」

「あぁいえ、なんでもないです」

「そう?」

 話しているうちにも野球部の、あれは二年だ。

 俺も見覚えのある顔がこちらを、というか一年マネを見て何かジェスチャーしていった。これだから野球部は……。地区大会一勝で喜ぶくらいなら、もっと真剣に練習しろ。

 と、怨嗟の念に気付いたか。

「逢香?」

 俺を呼ぶ声がするも、よくよく聞けば声は少し高音だった。聞き慣れた声は、それだけで表情まで読み取れる。

「なに後輩の尻眺めてんの?」

「えっ、まさか静月君……!?」

「おいやめろ七瀬、桜さんに冗談が通じるわけないだろ!」

「静月君っ!?」

 心底呆れ、いっそ軽蔑さえも勿体ないと言いたげな眼差しを向けてきていた七瀬に怒声で返し、別に気にすることじゃないですよ、と桜さんにフォローの視線を送る。

「いや逢香、今のお前の失言だから」

「……? 桜さんに冗談が通じるわけないだろ……?」

「どうして二回も言った」

 だ、大事なことだから?

 思わず言いそうになったが、言えば蹴るぞと七瀬の眼差しは訴えている。

 大急ぎで代わりの言葉を探しながら辺りを見回し、少し離れたところでクールダウン中の陸上部員たちを見つけた。学校の外周を回ってきた帰りだ。

 と、話題はこれか。

「それで、七瀬は何か用だった?」

 今は部活中。

 部の垣根を越えて交流している一年マネと野球部二年ならともかく、部員がマネージャーに話しかけるのは珍しくもない。それでも七瀬が俺に、というのは意外となかった。男女の違いもあるのだろう。

「……今じゃなきゃ逃がすつもりはなかったけど」

「真面目だな。それで?」

 繰り返し訊ねると、七瀬も諦めた様子で肩を竦める。

「逢香に用事って感じの人が校門前にいたから。道具出し終わってるなら、少しは手が空くでしょ?」

 今は確かに手隙のタイミングではある。

 外周ランニング後の練習メニューは部員ごとに分かれるが、マネージャーの手が足りなくなるほどではない。むしろ追い込みの時期でもない限り、一人抜けて回らなくなることは有り得なかった。

 しかし、だ。

「俺に用事ってどういうこと?」

「知らない」

「いや知らないって……」

 最も俺に用事のありそうな陸上部員は欠席者を除いて全員ここにいるし、そうでなくとも学内の知り合いなら校門で待つ理由がない。

 そもそも用事なら一言メッセージでも入れてくれれば……あ、そうだ、今はスマホを持っていなかった。部活中は貴重品を鍵付きロッカーに仕舞うのが決まりだ。

「あー、桜さん」

「いいよいいよ、行ってきて」

 桜さんはほんわか微笑み返し、ちょうどこちらに視線を戻したところだった一年マネに手を振る。

「ユキちゃん! 静月君がちょっと出てくるから、こっち手伝って!」

「あ、はーい!」

 見咎められたか、と気にする表情が一瞬覗き、七瀬の視線が冷え込むのが分かる。

 とはいえ、あまり萎縮されても良くない。向こうも先輩だからと誰彼構わず敬えるわけじゃないし、こっちも年長者だからと常に正しくあれるわけじゃないのだ。

「すまん、助かる」

 ちょこちょこ半ば怯えながら近付いてきた一年マネ……枯野ユキに一言投げる。

「いえいえ、ウチもマネですから!」

「じゃ、よろしく頼んだ。……七瀬もクールダウン終わってるなら練習、練習!」

 じろりと冷たい眼光が突き刺さるも、気付かない振りをした。

 これでも一年半の付き合いである。ほう、と何か感心している枯野には悪いが、特別な取り扱い方があるわけじゃない。

 ともあれ今は校門に急ごう。

 正体の分からない奇妙な来客は、それだけで居心地が悪かった。

 スマホに繋がらず、それで学校に来ようと考える人物には心当たりがある。親だ。ただ母さんも父さんも今は仕事中のはず。そもそも何かあって俺を呼び出すなら、スマホの次は職員室だ。いつ出てくるか分からない校門で待つ理由はない。

「ん? でも七瀬か……」

 校庭から校舎裏へと続く階段を上りながら考える。

 スマホは不通。それで学校まで来て、職員室に向かう途中で七瀬を見つけたとか?

 でも小学生や中学生でもあるまいし、親に友達の紹介なんてしない。出場もしない大会に親を呼ぶわけもなく、偶然に顔を合わせる機会すらなかっただろう。

「分からんな」

 呟き、思考を断ち切る。

 どうあれ心構えはしておくべきか。わざわざ学校まで出向くのだから、誰にせよ何かしら重要かつ火急の用事だろう。

 本校舎の影を抜け、昇降口の脇に出た。

 校門前は何年か前まで駐車場だったらしいが、事故の危険性を指摘されたとかで今はだだっ広いばかりの広場になっている。

 枯れ木も山の賑わいとは言っても、まだ若い上に状態も悪いのか、痩せ細った観葉樹が申し訳程度に葉を付ける光景は見ていて心地良いものではなかった。お陰で、我が校の校門前に賑わいはない。

 だから向こうも、近付いてくる俺の姿を一目で見て取れたのだろう。

「あっ!」

 嬉しそうに、と感じてしまうのは希望的観測だろうか?

 しかし彼は――昨日ぶりに見る平夏希は、嬉しそうに声を上げて軽く手まで振ってきた。その声でようやく気付き、俺も声になるかならないかの驚きが吐息に混ざる。

 夏希さんは校門を挟んだ向こう側、ただし昨日とは違って車道のこちら側に立っていた。

 自然、駆け足になる。

「どうしたんですか」

 何より驚いたが、同じくらいの不安も自覚する。

 それが声に滲み出てしまったのか、あははと曖昧な笑いが返された。

「いやぁ、なんていうかね。特に用事ってわけじゃないんだけど」

「用事じゃなくて、なんです?」

「……えっと、それは『用事がなくちゃ』みたいなアレを待ってる?」

「いえ、普通に場所を考えてください」

 用事もなく会いに来てくれるといえば、それは確かに嬉しい。

 いやもう普通に認めよう。

「嬉しいですけどね、それは勿論。ですけど――」

 そう。ですけど、と付け加えざるを得ないほどの状況が今ここにある。

 今はいつ? 高校の放課後だ。

 ここはどこ? 高校の校門前だ。

 言うまでもなく高校生……十代後半の少年少女が行き交う場所に、昨日と変わらずスーツにワイシャツ姿の男が立っている。それはただ目立つだけが問題ではない。

「よく通報されませんでしたね」

「え、そこ?」

「あなたは今のご時世をもう少し理解した方がいい」

 男女格差をなくそうと中学や高校で男女別の制服を撤廃する動きが増える一方、その子供を守るためにある種過剰な、それでいて必要経費的な防犯意識の高まりが年々加熱している。

 あれは小学校六年の時だ。

 低学年でもないのに友達との下校を強制させられ、恥ずかしいやら窮屈やらで子供ながらに理不尽を感じたのを覚えている。是非はともかく、そういう時代なのだ。

「……一旦、場所を変えましょう」

 幸か不幸か男同士の俺たちだ。二人でいても見咎められはしないだろうが、念には念を入れた方がいい。

「えっと、どこ行く?」

「すぐそこ、ていうか校門の陰です。広場は職員室から視線が通るんで、死角に入りましょう」

 言いながら腕を掴むと、夏希さんが変な顔をした。なんだ。

「あ、なんでもないよ、なんでもない」

 心を読んだかのように答えられ、首を傾げつつも校門の陰まで引っ張る。

 校舎側から見えなくなった代わりに車道側からは丸見えだが、人目を憚る何かをするわけじゃない。

「っと、すみません」

 咄嗟に掴んでしまったワイシャツがシワになっている。

 掴んだ時と同じように咄嗟に離すと、直後、やはり慌てた感じで指先を掴まれた。しかし離される。

「……?」

「な、なんでもないです」

 ……これは、あれか、喜ぶべきあれか。

 混乱した脳が答えを探し、昨日の記憶をフラッシュバックさせる。

 昨日――。

 思い出すだけで恥ずかしい、けれど後悔はない告白の後。

 友人とは言い難く、当然だが恋人でもなく、どう好意的に解釈しても知人同士でしかない俺と夏希さんの間には、あまりにも筆舌に尽くし難い空気が漂った。

 まぁ、想像してみてほしい。

 告白し、保留で返され、元々の関係性を保とうにも関係などないに等しかった俺たちだ。

 何を言っても気恥ずかしく、かといって沈黙に耐えられるほどには互いを知らず、そこには逃げる以外の選択肢などなかった。一夜明け、今なお他にどうすればよかったのか分からない。

 そんな別れからの、今この瞬間である。

 それでも何か言わなければ、と口を開いた。

「せめて……」

 言いかけた言葉は、すぐさま萎む。

「……そういえば、連絡先も交換してませんでしたね」

「そう! そうなんだよっ!」

 昨日は本当に、ただただ逃げるように別れてしまった。

 告白を保留された側が連絡先を聞くのもな、と理性的に紡いだ言い訳に縋り、振り絞るべき勇気を振り絞らなかった俺と。

 実際のところは聞いてみないと分からないけど、保留した側が連絡先を聞くのもな、と言い訳に縋ったであろう夏希さん。

 二人が会おうとすれば、なるほど彼が校門前で待つしかないのかもしれない。

「じゃあ交換しましょうか。ほんと、通報されたら困るん……」

「……え、なに、どうしたの?」

「すみません、今スマホ持ってませんでした」

 学校指定のジャージにはポケットがない。

 持ち運べるはずのないそれは今、財布たちと一緒にロッカーの中だ。

 そして俺のジャージ姿は、もう一つの真実を明らかにしていた。

「もしかしなくてもなんだけど、お取り込み中だった?」

「部活中です」

 夏希さんが目を丸くする。

 そんなに驚くことかとも思うが、昨日はもう少し遅い時間だったとはいえ下校するタイミングで鉢合わせていた。それで帰宅部だと思い込んだのか。

「昨日は休養日だったんで早かったですけど、火曜から金曜は部活です」

「週末は?」

「週によってですね。大抵は土曜の午前ですけど」

「じゃあ、デートは日曜日がよさそうだね!」

 息が止まった。

 全力疾走した直後みたいに跳ね上がった心拍数はすぐに落ち着くも、落ち着くほどに顔が熱くなっていく気がする。この人は。この人は、本当に……。

「あの、夏希さん」

「何かな?」

「昨日から思ってたんですけど、分かっててやってます?」

 桜さんで慣れていたつもりなのに、それは勘違いだったらしい。

 夏希さんは男だ。

 どこからどう見ても、男。同性。裸だろうと何一つ感じないはずの相手。

 顔やスタイルが特別女性的というわけでもない。どちらが可愛いかといえば、迷う余地なく桜さんだろう。

 しかし、そのきょとんと首を傾げた姿を見て。

 桜さんほど大袈裟でもない、じっと見ていなければ気付けないほど些細な仕草に、だけど見惚れてしまいそうになる。心を奪われ、時間の感覚さえも失いそうになる。

「……夏希さん」

 言いかけ、辺りを見回す。

 幸い、誰もいなかった。校門の反対側は分からないが、声は届かないだろう。

 俺の動きに、それを察したのか。夏希さんは喉仏を上下させた。

「えっと、はい」

「好きです」

「ッ……はい」

「ただ、これは一方通行なんですよね?」

 昨日も告げた言葉。

 それに対し、返されたのは保留。待ってほしい、と。

 だから今の俺たちは、少し変わってはいるかもしれないけれど、特別な何かではない知人同士に過ぎない。

「逢香君、もしかして怒ってる?」

「なんでですか?」

「え、そりゃあ……ほら、声が冷たい感じだから」

 そうだったか?

 あーあー、と声を出した。少し高くし、次いで低くし、喉を馴染ませる。

「すみません。ぬか喜びはすまいと気を張ってたのかもしれません」

「ぬか喜びって」

 大袈裟な、と声なく笑う夏希さんだが、これくらいは許してほしい。

 桜さんに騙された……わけではないにせよ、勘違いしてしまった男たちを見ている。告白には至らずとも、無自覚に鼻の下を伸ばして得意気になっている男の姿。あれほど見るに堪えないものもない。

 だからこそ、我が身を振り返る。

 望みは持てど、希望的観測は捨て去るべきだ。

「けど、デートとか言われたら期待もしちゃいますからね」

 黙せば残る、心の奥底に。

 ゆえに吐き出した本心に、夏希さんはあっと短い声を上げる。

「ごめん、それは無意識だった」

 無意識でデートとか言われるのも、それはそれであれなんだけど。

「そうだよね。まだデートじゃないよね」

「夏希さん……」

「えっ? なに? どうしたのっ?」

 どうもこうもねえだろ、と叫べたらどんなに気が楽だったか。

 呑み込み、ふぅと息を吸って、はぁと吐いて、また吸って、止める。

「部活、戻りますね」

「怒ってる?」

「いえ」

「我慢は良くないよ? ほら、僕の方が年上なんだしさ、何かあるなら全然受け止めるよ? それに、その……嫌なところとかあったら直すしっ」

 ぐっと拳を握り、恐らくは先輩風を吹かせているつもりらしい真剣な眼差しで。

 だから――、と微笑んでくる人に、一体どこまで許してもらえるのだろう?

 気付けば、手を伸ばしていた。

 同じくらいの背丈。服の上からでは肉付きまでは分からないけど、昨日見た限りでは体重も大差ないはず。

 なのに俺より顔も手も小さく思えるのはどうしてだろう。本当に小さいのか、そう錯覚しているだけなのか。

 まぁ、どっちでもいい。

 少し撫でづらい頭を、それでもくしくしと前後に撫でる。

「えっ、ちょっ――」

「部活、戻りますね」

 顔を真っ赤に、目をまん丸に、それでいて抵抗はせず。

 期待するな、と理性が無茶を言う。本能は、本心は、理性以外の俺の全てが突き進めと笑い飛ばした。

「着替えとか入れたら終わるの七時前なんですけど、大丈夫ですか?」

 一瞬だけ何を言われているのか分からない顔だった夏希さんだけど、すぐに得心を浮かべ、コクコクと餌を頬張るリスみたいに頷いてから声を返してくる。

「だ、大丈夫っ! 待ってる……のはダメかな。えっと、また来るね」

「はい。それじゃあ、……そうですね、七時に駅の西口でいいですか?」

「西口? こっちからだと東口の方が――」

「だから、ですね。部活終わりの高校生が殺到しますよ」

 これが男と女なら、気にすることもなかったのだろうけれど。

 悔しさとも寂しさとも似て非なる、十七年の人生で初めて知る感情を胸に抱く。

 ほんの一瞬だけ。

 同じ感情を夏希さんの瞳に見つけたら、そんなのどうでもよくなった。もう一度、頭を撫でる。今度は優しく、耳の傍を通り過ぎるように。手を引く瞬間、無自覚を装って頬に触れた。

「……あ、逢香君っ」

 ただそれだけの言葉に、どう答えるのが正解なのか。

 探そうとして、苦笑する。

 知っていたそれを、やはり理性が思い留まらせようとしただけだった。

「それじゃ、また後で」

 夏希――と、添えたはずの声は、鼓動に紛れて聞こえなかった。

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