2 侍女が騎士として歩んだら

 降り注ぐ氷の刃。

 私の剣はそれらを全て打ち砕く。

 キラキラと細かくなった氷はダイヤモンドの粒のように輝いた。


 煌めきの中から風のような速度で斬撃が繰り出された。

 こいつの剣は速くて重い。まともに受け止めたら腕の筋を痛める。

 私はギリギリのところで捌いて受け流し、相手が僅かに体制を崩した所に容赦なく回し蹴りを入れてやった。

 



「あーあ、惜しかった」


 氷嚢で首の後ろを冷やしながらソレイユは恨めしい目でこちらを見た。


「優勝杯はそう簡単には渡せないよ」


 にっこり笑って答えるとソレイユは悔しそうに額を押さえた。


「ジルーーーー‼︎ 優勝おめでとう。圧巻の3連覇達成だね。もうめっちゃくちゃ格好良かったよ。さすが騎士科最強!」


 控室の扉を開けて入ってきたルーナは私に飛び付いた。


「ルーナ、コイツは規格外過ぎるんだ。学園一というか、当代最強クラスだと思うよ。言っておくけど俺だって現役の将軍たちと渡り合える位には強いんだからな」


 ソレイユはほんの少し唇を尖らせた。


「分かってるわよソレイユ。貴方も凄かった。氷属性極めてきたわね。氷結点までの温度領域を一気に下げるには、気圧も下げないといけないから、水系統と風系統のバランスが難しいの。あれは見事ね」


「分かるか! そうなんだ、風魔法の凝縮が難しくてさ。変に圧力をかけると氷が溶けるからさ。生成の過程の強度が難しくて少し中途半端になってしまったんだ。何かアドバイスはあるか?」


 ルーナに褒められ、ソレイユの顔が輝いた。


「うーん。そうねぇ……少しだけ時間魔法を組み込むのはどう? ソレイユは器用だから3要素を組み込んでもできそうじゃない? 術式はこんな感じでどうかしら」


 ノートを取り出し、さらさらと魔法の設計図を描きはじめたルーナをソレイユは瞬きもせずに見惚れている。



 どういうわけか。これが二度目の現状だ。


 私は現在17歳。

 この大陸屈指の名門校アンヌース学園で学んでいる。

 一度目の人生では、私はルーナを守りたくて侍女という道を選んだが何もできなかった。

 だから今回は、王子になんか頼らず魔女だろうがドラゴンだろうが私自身が倒す。あらゆる災いから彼女を守り抜く力を手に入れる。

 もの心ついた時からその覚悟で学んできた。

 セシル家は代々ソードマスターを幾人も輩出している家系だ。才能もあったのだろう。

 私は十代半ばにして現役騎士団員と互角と言われる程に強くなり、世界屈指の名門校で学ぶ機会を得た。

 

 しかし少しばかり想定外が起こった。


 小さい頃、剣を極めようとする私の真似をしてルーナも剣に手を出した。しかしルーナの場合はまるで適性がなかった。

 すると彼女は今度は魔法を学び始めた。そしてこちらは……見事に才能を開花させたのだ。

 十代半ばにして、魔法構造学の論文をいくつも発表するようになり私と一緒にアンヌースの門を叩いた。


 現在私は騎士科の首席、ルーナは魔法科の首席なのだ。

 そして、ソレイユは騎士科の次席だ(きっと前回は首席だったのだろう)。

 ソレイユとは当初馴れ合うつもりは更々無かったのだが、何かと絡んでくるのを構っているうちにいつの間にか仲良くなってしまった。

 友人としてのソレイユは、どこか犬っぽくて結構可愛げがあるのだ。



「さてと、今夜は祝勝会って事で外に行く許可取ろうぜ」


「ソレイユは残念会じゃないの?」


「そういう事言うなよ。準優勝だろ。祝わせろよ」


 私達が軽口を叩き合っていると、ルーナがふふふと笑みを漏らした。


「実はね既に3人分の外出許可取っておきました。そして、なんとビストロ『ワンス・アポン・ア・ドリーム』に予約も入れておきました〜」


「ルーナ! 天才。あそこのパテ大好きなの!」


「さすが、俺の姫! 惚れなおしたっ」


「だって去年は、どこも空いてなくて屋台のクレープで終わったじゃない。今年はしっかり食べて飲んでお祝いしましょう」


 私達は、歓声をあげた。


 

 こんな感じなのだ。

 運命の輪はおそらく前回とは違う形で回っている。

 だからルーナの誕生日も上手くいくに違いない。

 今回の私たちならきっと。

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