何かなくても、、、

@mizugirai

第1話 真壁清治という人。

 最近眠りが浅いせいか早く起きてしまい、昨夜は午後23時に寝て今朝は4時半過ぎに起きてしまった。もう少し寝たかったと思いながらも寝れないので、俺は換気扇の下で煙草に火をつけた。乾燥し切った口で更に煙草の煙で乾燥させる。口の中に僅かに残った水分と煙でぐちゃぐちゃしているのが分かる。水をゆっくり飲み朝の情報番組もやっていないがテレビをつける。最近これが朝のルーティンである。

 小腹が空いたが冷蔵庫の中は空っぽ。仕方なく近くのコンビニでも行こうと思い、携帯とスマホを持ちジャケットを羽織って玄関のドアを閉めた。

 宇宙人の血を絞ったような紫青の空の午前5時半。立春でまだ朝は寒いが俺はこの時間が何となくワクワクするし特別な気がして好きだ。仕事に行くのか仕事帰りなのか若しくは私用かの車はちらほらいるが、歩いている人があまりいない。ボサボサの寝癖付きの髪型を見られる事もなければ、みんなの顔を見ることもない。何だか心地がいいので私はコンビニではなく、コンビニより少し行った先の牛丼屋に行くことにした。

 席に着き朝食を注文する。朝食は何と言っても値段が安く満腹感を得られる。バイト暮らしで金のない俺にとっては牛丼屋の朝食には頭が上がらない。感謝をしつつ朝食を堪能する。食事も終盤に差し掛かった頃にスムーズに出れるように何気なく財布の中を確認した。


「50、200、10、20、、、、、ん?え?」

 財布の中に札は入っていない事は知っていた。昨日晩御飯を買うために札で払って無くなっていたからだ。次の日にでもATMで下ろそうと思っていた。財布の中の小銭をいくら数えても300円しかなく、この朝食は350円だ。どうする、どうしたらいいんだと自問自答を数回繰り返す。俺のキャッシュカードはこの時間帯は対応してくれない。スマホにも今は数あるなんちゃらペイも入っていない。店員に素直に話すのも32歳の年齢とプライドが許さない。もしかしたら話せばどうにかなるのかも知れないが、大事になりせっかく家の近くにある牛丼屋にはこれなくなってしまうのは避けたい。そう考えてるうちに残り三口程度で完食する朝食は少し乾燥していた。



 どうしたらこの現状を打破出来るかと考えているうちに入店から1時間経っていたらしい。さすがにそろそろ店を出たい気持ちになってくるが出れない。あーでもないこーでもないと財布を見ながら項垂れていた。


 「どうかしましたか?」

二つ隣の席の若い男性が小声で話しかけて来た。

 「あ、いえ。大丈夫です。」

私は何事も無いように言ってしまった。何事も有ったのにも関わらず、今し方の事情を説明して見ず知らずの人にお金を借りるなど俺には出来るはずもなかった。いや、借りると言うより貰うが正しい気がする。50円を返せと言う人はあまりいないだろうし俺なら言わない。50円で見ず知らずの人間に電話番号を知られる方が嫌であろう。そんな事はどうでもいい早くここから出してくれと意味もなく何回も時計を見た。


 「あの、よかったらこれ使って下さい。」

そう言って俺の卓に1000円札が置かれた。先程声をかけてくれた若い男性だ。


 「あ、いや、ありがとう。すまないね。」

若い男性は軽く礼をし一瞥をくれ、そそくさと会計を済まして店を出て行った。何杯飲んだか分からない無料の水をもう一度飲み、落ち着いてから俺は貰った1000円で会計をして牛丼屋の監獄から見事に脱獄したのだ。俺の好きだった時間は終わっており車がブンブン通り、せっせこと活発に人が動いている。何だか仲間外れにされた気分になった。家の近くのコンビニに寄り、切れかかっていた煙草とコーヒーを余ったお釣りで買い公園のベンチに座る。朝から大変な目に遭ったと少し悲観的にぼーっと滑り台を眺める。大小あれど俺はいつもくだらない見栄のせい窮地に陥ってしまう。

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