第15話 辺境伯シーズ・フォン・ラーズ(前編)

〝うーむ、ここはどこだ?私はどうなったのだ。〟


確かあれは朝ご飯の最中だった。

いつものようにご飯を食べていたのだ。

その時、水を飲んで急に眠気が襲ってきた。

そうだ何らかの毒物でも飲んでしまったのか?

しばらく意識がなかったがダストの声が聞こえてくる。

しかし起き上がることも何もできない。


「父上、ああ、なんということだ。誰かが毒を持ったに違いない。」と言ってくるっと回るダスト。そこには沢山のメイド、執事などがいる。


「俺は許さない。その人物を!そして昨日弟のリースがこの街にやってきていた。これは奴が犯人に違いない。」と言ってにヘラと笑うダスト。


「ダスト様お待ちください。」そこにいたのは執事長のセバスだ。


「この街に来たと言って必ずしも犯人とは限りません。犯人と断定するには時期尚早です。」と訴える。

そこにドアから誰かが入ってくる。

「兄上!執事が吐きました。犯人は奴です。」

そう言って部屋のドアからゴースが入ってきて言う。


「そんなリース様が・・・まさか。」ゴースを睨みつけるセバス。

「う・・・。」ゴースが後ずさる。


「セバス!我が弟が嘘を言っているとでもいうのか!」と、ダストがセバスを叱りつける。

「いえ、な、なんでもありません。」リース様、なんて魔の悪い。

いや謀られたのか?


「犯人は弟リースだ!ゴースよ!兵士長と一緒にリースを捕まえてこい。」と腕を上げて指図するように命令する。

「はい!」ゴースは嬉々として部屋を出ていった。


「この次期辺境伯のダスト様が命令する。お前たち仕事に戻れ!」

そう言って部屋の中にはダストと、シード辺境伯のみになる。

セバスが少し立ち止まって辺境伯を見ていたが、ダストがしっしと手で出るように促す。


誰も居なくなるとダストがつぶやく。

「・・・父上が悪いのですよ!私が成人しているのに、一向に辺境伯を譲ってくれない父上がね!」


そこには不気味な笑みのダストがいた。

ダストは何を言っているのだ。私にはわからない。


「父上にはまだ生きてもらわなければならない。この辺境を足がかりに父上の遺体を帝国に引き渡し、私がこの国の王になるために・・・そのために遺体が腐らないように永遠に眠り続けるという睡魔の毒を飲ませたのですから、これでいいタイミングで父上には亡くなってもらえる。」ジェスチャーを交えながら話しているダスト。

そしてまた不気味な笑い声を出す。


〝なんということだ。くっ!私は子供の育て方を間違ったのか?〟


「そうだ!父上には離れの方に移ってもらうか、誰にも会わせなければ、まだ生きていることにできる。私はなんて天才なんだ!やはり天は私を愛している。」とか言って両手を上に掲げるポーズをする。


〝なんとわけわからないことを!!おい、早く起こせ!!!〟

思っても口から出ることはない。

耳から声が聞こえてくるだけだ。


これが睡魔の毒。


昔、王族たちにこれを使って自分が王位継承権を得ようとした愚か者がいたらしいが・・・

王家には万能薬があった。

非常時のため使用し事なきを得たが、自分に使ってくれるだろうか?と思って恐らくは使ってくれまい。


「父上、いやダメな父親だった。もう会うこともあるまい、サラダバー!!」と言ってダストが部屋を後にする。

私は肉派なのだ!とか言う声が聞こえた気がした。



それから少し経って、護衛長のクーガーと何人かの兵が入ってくる。

「ダスト坊ちゃんに言われたんで、すみませんが領主様。離れの方に移すことになりました。」沈痛な趣でそんなことを言ってくる。

何人かが私を担ぎ上げ運んでいく。

こうやって担がれて運ばれたのは初めてのことだ。


「いいか、丁重に運べよ。間違っても落とすんじゃない。落としたらぶった切るからな。」と、クーガーの声が聞こえる。

「「は、はい。」」何人かの兵士の返事が聞こえた。


私は彼らに担がれ離れ・・・

一族を幽閉、軟禁する場所に来て奥の部屋で寝かされた。


「お前たちは、普段通りに・・・いや夜までしっかり休んでおけ、俺はここの警備にあたる。」と言い出すクーガー、領主のそばで膝立ちになる。


「いいんですかい大将。」

護衛長に比べたら小柄だが、がたいがいい護衛隊副隊長のヤンだ。


「いい、恐らく何かが動き出すのは夜だ。それまでは休んでおけ、俺の直感が言っている。」

「わかりました。大将の直感が言っているなら間違いありませんね!で、どっちに味方に付くんで?」二人が真剣に目を合わす。


「それはまだわからんが、リース様は恐らく嵌められたのだろう。次の辺境伯に担ぐにはあの人しかおらん。だが、俺は動けん。ここで領主様を守らないといけない。その代わりお前達がやれ!これは俺からの試験だ。リース様が辺境伯になるなら、ヤンお前が護衛長だからな!」と辺境伯様のそばに座り込んでいたが立ち上がるクーガー。


「・・・そ、それは!」と困惑するヤン。

「俺は辺境伯様を守れなかった。誰かが責任を取らないといけない。俺がとる。ヤン、好きにやれ!お前が次の護衛長だ!」と言って剣を差し出す。煌びやかで豪華だ。


「この剣は・・・護衛長の証。ゴクリ。」息をのむ。

緊張しているのがわかる。

俺にできるのかとそれでもと震える手でつかむ。

それとヤンが持っていた剣を護衛長、いや元護衛長に渡した。


「拝命します!お前たち夜まで休みだしっかり寝とけ、ダスト配下の兵に気付かれるなよ!」テキパキと指示を出すヤンはこの部屋から出ていった。


「ヤン言葉遣いは頑張れよ。お前の率いる力は俺が思っている以上だ。お前ならできる。それを証明しろ。これで五部五部くらいか・・・仕方ない。あとはあいつらで何とかやるだろう。」とホッとした顔でまた辺境伯の傍で膝立ちになる。

そして少しの間、辺境伯を見て言う。


「一応領主様に伝えとく、聞いてないだろうけどよ。状況はまぁ最悪だ。ダスト坊ちゃんがこの辺境伯の領主代理になると宣言した。これによって税率を上げると言い出して反対した文官どもを追い出し、そいつらの財産を没収するみたいだ。」はーと溜息付く。


「それからリース様だが、捕まって拷問中だ。明日にはもう処刑になるらしい。まったく気が早いな。あとはまぁヤンにリース様の救出を命令した。俺の独断だ。後で責任を取る。良くてどっかに左遷かな?悪くて腹切りしないといけない。」と言って天井を見上げる。


「領主様、早く起きてくださいよ。でないと大切なもんが皆の手から亡くなっていきますよ。」そう言って、この部屋から出ていく。


〝護衛長、臭いこと言いやがってこっちも起きたいのに起きれないんだよ!〟と言って身体を動かそうとするが、まったく力が入らない。


何もできないのか!と嘆きたくなる。

誰もいなくなると段々と意識がなくなってくる。

このまま死んでしまうんじゃないかと思ってしまうくらいに・・・時間の感覚が狂っているのかもしれない。

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