第16話 辺境伯シーズ・フォン・ラーズ(後編)
ドアが乱暴に開く。次に入ってきたのは・・・
「よお親父。元気だったか?」くくくっと笑っている。
「お前が早くダスト兄上に辺境伯を譲らなかったからこんなことになったんだ。」
近くにあった見舞い用の椅子にドカッと座る。
〝ゴースか?こいつもう少し小心者じゃなかったか?
〟
「親父、いやもうお前が辺境伯を譲らないから、わざわざダスト兄上をそそのかして、睡魔の毒を使用しないといけなくなった。ふふふ。」
〝なに!!こいつが黒幕だったのか!!ふざけやがって!!〟
暴れようとするが、動かない。
「さてと、では・・・遺言書を書いてもらいましょうかね!!」醜く歪んだ顔で言う。
〝な、何を言っているんだこいつは!!正気か!私は眠っているんだぞ!〟
「私にはこいつがあるのですよ。魔道具 傀儡。こいつは寝ている相手を己の意のままに操る事ができる。まぁ一時的にですが・・・この時のために準備していたのです親父。」
〝な、なに!!〟
「魔道具発動!!傀儡。」そう言うと辺境伯の身体が起き上がる。
〝一体何が起っとるんじゃ!〟戸惑う辺境伯、
一応目が開かれるがその目はぼやけている。
口は開かない。身体も動かせなかった。
「くくく!普段なら護衛がいるから使えないが、今は兄上によって追い出されている。さぁ私が言ったとおりに書くのですよ!!」
そう言って紙と羽ペンと下敷きを用意して書かせようとしてくる。
「さぁ私が言ったとおりに書くのです。私シード・フォン・ラーズは・・・辺境伯をゴース・フォン・ラーズに譲ると。ね。」私の右手が勝手に動き出す。
私は書きたくなかったのに・・・その紙を取ってゴースは笑う。
「やはり私は天才だ!これで邪魔者のリースを排除し、ダスト兄さまも頃合いを見計らって毒殺してしまえば、私が辺境伯だ。天は私を選んだんだ!!」とか有頂天になっている。
魔道具は壊れ粉々いや、砂になっていた。辺境伯はそのままベットに倒れ込む。
「親父、いやダメな親父だった。もう会うこともあるまい、サラダバー!!」と言って去って行くゴース。私は魚が好きなのだーとか言っている声が聞こえた。
〝お前もダストと同じなのか!!〟
今更後悔しても遅いが、子育てを間違ってしまったようだと深く深く後悔した。
この長い時間は懺悔をしろと言うことなのか・・・
それからある程度の時間がたって、喧噪が聞こえる。
誰かが言い争いをしているようだ。
それから部屋のドアがゆっくり開けられた。
「お父様。」そう言ってベットに近づくのは娘のミーナだった。
〝おお、ミーナお見舞いに来てくれたのか!〟私の声は届かない。
ベットに寝ている私を揺すって起こそうとするが、起きる気配がない。
「本当に睡魔の毒なのですね・・・」と天井を見上げる。
「本当はもっと早くお見舞いに来たかったのでが、お兄様たちに目をつけられてしまうとユリに止められてしまって・・・遅くなりました。」と言ってくるミーナ。
〝そうか、あの二人には目をつけられぬようにした方がよい。〟と声には出ないがそう返したつもりだ。
「・・・お兄様が辺境伯領を帝国に売ろうとしてます。そして私の嫁ぎ先の公爵もその毒牙にかけようとしています。リース兄さまも・・・明日処刑されるそうです。私には力がなくってどうすることも出来ません。お父様戻って来てくださいお願いします。また一緒にお食事をして、お話しをして・・・」娘の涙が止まらない。
〝すまぬミーナ、私には何もできない。おのれダスト!!お前だけは許さぬ!〟
「だから戻ってきてください。お父様。お父様。」手を握ってしばらく娘は泣いていた。
〝ダストめ!!ミーナをここまで泣かせるとは!!〟
辺境伯シードは娘を溺愛していたのだ。
〝許さぬ!許さぬぞダスト!!〟そうして己の手に力を込める。
〝くそっ、動かぬ。どうしてどうして動かぬのだ!!〟
護衛長が言っていたことをこの時は噛み締めていた。
〝早く起きなければ大切なものが失われてしまう。神よ助けてくれなければ恨みますよ!!〟と心の中で叫んでいた。
「ごめんなさいお父様もう行かないと、護衛長のクーガーがお兄様に怒られてしまいます。絶対に戻って来てください。」最後に私の手を頬に当てて言った。
〝なんと優しい子に育ってくれたんだ。やはり私の子育て(ミーナ)は間違ってなかった。今なら私は娘に辺境伯を譲ってもいい!!〟
娘愛が行き過ぎている辺境伯だった。
しかし現実的には無理か・・・娘は公爵の嫡男と婚約している。
いずれ公爵領に行ってしまうのだ。
やはりクーガーが言っていた通り、リースを次の辺境伯にするしかない。
私はそれを見届けたのちに公爵領で厄介になろう。
うん、それがいい。そうしよう。
ミーナと一緒に居られるからな。
そう考えているとドアが締まる音がした。
ミーナが部屋から出ていったのだ。
クーガーはいい働きをしているお前を護衛隊長にしてよかった。
ミーナに合わせてくれるんだ。お前はいい奴だ!!
ミーナが出て行って、少しの入れ違いで誰かが入ってくる。
〝なんだ誰が入って来たんだ?〟
「いい娘を持ったな。悪い息子を持っているが、辺境伯はどっちなんだろうか?」
そんな声が聞こえる。
〝なんだこの男、まるでこの屋敷の者でないような言い方。まさか暗殺者か!?
どこのものだ!!〟と戸惑う様にする体は動かないが・・・
「ふむ睡魔の毒か?万能薬とエリクサーがないからな。どうするかな?」
〝なに!この声の者は私を助けようとしてくれているのか?しかしそれはさすがに無理だ万能薬も、エリクサーも高価すぎる。私だって持ってても見ず知らずの人間に使わないだろう。ということは王家の暗部か?辺境の内乱を危惧してこっちに派遣されていた?〟
ちょっと時間が経つなにか考えていたのだろう。
「あーもうなんとかなーる。なんとかなーる。」なにやり独り言をつぶやき出した。
〝大丈夫なんだろうか?〟と不安になってくる。
ふぅーと大きなため息を付いているのがわかる。何か決意したのか?
男がベットの上に上がってきた。
〝まさかこいつそう言う趣味か?私にその趣味はない女がいい、女が・・・〟
暴れようとするがまったく身体が動かない。布団を取られてしまう。
〝助けてくれ誰か、犯される。誰か!!ヤバいヤバいヤバいよ!コイツ!〟と叫ぼうとするが声が出ない。
「本当は服とか脱がした方がいいんだけど。俺にそういう趣味はない。」仏頂面。
〝なんとそうじゃったのか!しかし状況から考えて何をする気だ!!
まさか服を脱がさずやる気なのか!〟警戒を強める。
しかし身体は動かない。なんとか逃げなければ!と思っているのに・・・
なんとなく段々近づいてきているような気がしてならない!
〝そんなことをするくらいなら私は死ぬ!〟と心の中で叫んだ!
たぶんこの瞬間が一番長く感じられたのだろうくらいに、緊張した!
次の瞬間得体のしれない物に包まれた。なんだこれはいやまさかこれは魔力?
身体全体にかけられている魔力に包まれ、万遍なく流れてくる。
「失敗しても恨むなよ。おじさん!パーフェクトキュアーーーー。」
そう言ったのが聞こえて身体が光に包まれていく。魔力が全身にある毒を消していく。
〝なんて事だ身体に力が戻ってくる。〟
目を開ければ私を助けた青年が・・・
「あれ、あ、魔力切れだ。」と言って倒れる。
そうしてその者の身体が光って縮んでいった。
「一体何が・・・起こって、喋れるのか!!」しかし身体がまだ動かない。
隣を見れば赤ん坊が気を失っている。
「赤ん坊?一体何が・・・起こっているんだ。」戸惑い続ける辺境伯。
「こうしてはおれぬ。」
しかしまだ身体が馴染んでいないようでまだ完全に動けない。
手が少し上がるかどうかか・・・
「無理だ。身体が回復するまでもう少し掛かるか・・・礼くらい後で言わせろよ坊主。」
なんとか坊主の頭の所まで手を乗せる事はできた。少しなでてやる。
「そう言えば護衛長が夜に何かが起こると言っていたな。それまでは休むか。」
そう言って身体をしばらく休めるのだった。
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