第一章 辺境伯家、継承争い
第4話 情報共有
翌日、俺は髪の色を変えるべく魔法の練習をしていた。
「あうあー。」髪色変われーとか言いながら。
スライムたちは朝にはもういなかった。また見たいものだ。
スライムがぷよぷよ跳ねてたらグミを食べたくなる。なぜかな?
リースは俺に今日も元気だなーとか言っていた。
リッテは朝ごはんを作っているようだ。
「あうあうあーー。」先は遠そうだ。中々、色が変わらない。
今日は辺境伯領都ラーズに入る日だ。
ここでこれからの食材などを買いそろえなければならない。
門はあっさり夫婦ですと言ってリッテの冒険者証を見せたら通してもらえた。
「領都ラーズか、あまり人通りが多いとは言えないが。宿に泊まって、あまり出歩かない方がよさそうだ。」とリース。
「しかし買い物もしないといけません、明日以降の食事も・・・」と困ったかのリッテ。
「そうなんだよなーどうしよっかな。とりあえず明日の朝市にでも行って、買いだししてそのまま出発した方がいいのだけど。」早く出発したさそうな顔で言う。
「現実的ではありませんね。2泊3日くらいはとりあえず考えておくべきかと。」提案する。
「そうなんだよな。何も起きなければいいが・・・とりあえずいい宿を探さないと。」
「はい確かここにあったはず。」
宿屋ニースと書いてある看板。ドアを開けると女将さんっぽい人が受付にいた。
「あらいらっしゃい。確かどこかで見たことがあるような。ああ、リッテちゃんじゃないか。お久しぶりだね。」
「スズさんもお久しぶりですね。」と再会を喜び合っている。
「隣の男はこれかい。」と言って右手の小指だけを上に向ける。
「はいそうなんです。新婚さんなんですよ私たち。」とリッテがより近づいてくる。
「あらそうなの?じゃあとりあえず。2階の奥の部屋を使いな。支払いは後で持ってきたらいいから。」
「はい、ありがとうございます。スズさん。」
なんか変な会話だな?まぁ気にしないでもいいか?
知り合いみたいだし。俺たちは奥の階段を上り2階の奥の部屋に向かう。
「今の人は知り合いなのか?」リースが聞く。
「まぁ、ちょうど冒険者をしてた時にお世話になりまして・・・冒険に失敗した時とかによく励ましてくれた人です。」
「へぇー優しい人なんだね。」と感心する。
「はい、私の師匠と言ってもいいかもしれません。今は引退して宿屋をやっているんですよ?」そう言って部屋のドアを開けた。
荷物をおろしながらこれからの事について話していく。
「後でこの部屋に食事を運んでもらいますね。私は少し女将さんと話す事があるので、その時にでも言っておきます。」
「ああ、すまない。改めてになるがリッテに旅の同行をしてもらってよかったよ。」
「そんな。こちらこそリース様と一緒に旅が出来て楽しかったですよ!」二人が見つめあう。あれこれっていい雰囲気なんじゃない。
二人がもうちょっとで唇が振れそうな距離まで近づいていく。
「あうあうあーーー。」俺は平常運転で髪の色を変えられないか声を出したのだ。
空気読まなくてごめんねー。
二人は慌ててお互いに距離をとって赤くなっていた。
「あうあうあー」取り合えず送り届けた後にでもイチャイチャし合ってほしい。
一緒に旅をすると情が湧くのだ。
二人には幸せになってもらいたいものだ。
そこは薄暗く。そこに人がいるのかさえもわからぬ暗さ。
「リッテかい、それとも今代って呼んだほうがいいかい?ここに来たってことは暗部の仕事かい?」
「うーん、どうでしょう?ただ私たちはここに泊まっていない。いや普通に新婚旅行に来た二人組ということでお願いします。」
「なるほどね・・・まぁ?それが仕事なのかい。今ここで消しちまったほうが早い気がするんだけどね?」
「冗談はよしていただきますか?先代。一応、王命なのです。」
「まぁ、あんたが消す覚悟があるならそれでいい、ただ試しただけさ。あまちゃんになっていないかどうかね?」
「どうでしょうね?ただ彼の事は認めていただきたいのですけどね。」視線が合う。
「さすがにあんたの素性を喋るわけにはいくまいよ。私も引退したばかりなのに、今代も辞めるとなったら、王国の暗部が終わっちまう。あんたにも刺客を差し向けないといけなくなっちまう。娘みたいな奴にそんな真似したくないからね。あの坊ちゃんの事は認めてやるさね。ただし喋る時期はこっちに任せてもらう。旅から戻ったら監視も一応付けるからね。まぁあんたのことだからうまくやるだろうさ。」ふんと言う女。
「あらあら、それでこの辺の情報は?」
「あんたも部下をやってるだろうに似たようなもんさね。帝国がきな臭い。辺境伯領も後継者争い。魔の森も最近スタンピードを起こしてないから、ヤバいを通り越しって超ヤバいね。まぁこんな機会でもないとあんたもここには来れないから布石の一つや二つくらい打っていくんだろうけどね。もしもただ本当に新婚旅行に来たってんなら、あたしの目は節穴だったってことかね?」
「ふふ、どうでしょうね。布石を打つにしても何年後に実を結ぶかわかりませんし。」
「はっ結婚って形なら明日とかでも行けんじゃないか?あの坊やを辺境伯に押すとかね。」
「さすがですね。王はそのつもりなんですが・・・本人が乗り気じゃないんですよね?」
「あんたがその気にさせるってことかね?」
「それしか道がありません。」
「女をあてがうなら他にもやりようがあるだろうに、別にあんたじゃなくてもいいんじゃないかね?」
「確かにそうかもしれませんが、多分ここが今一番危険な場所ですよ?他に任せられる人がいますか?先代がその年齢ならお願いしましたけど。」
「・・・そうだね。よく考えたらお前しかいないか、これも運命か・・・」女は目をつむった。
「大変な任務を押し付けっちまったようだね。」
「いえ、先代もここが大事と踏んで宿を構えているみたいですしね。」
「ふん、私の代でだいぶ帝国に持っていかれっちまったからね。まだ駒は育ち切ってないからどうしたもんかね。」女は腕を組んで考える。
「それは今置いておきましょう。預けに行く男の情報はありますか?」
女は紙を取り出して。
「名前はクロード、辺境の男爵領で警備隊に所属。ラード辺境伯の5男か6男くらいか?認知はされてなかったみたいだが、屋敷では暮らしてたみたいだ。父親は辺境伯で母親が屋敷で働くメイドだった。今は辞めてクロードと一緒に男爵領に移って暮らしているらしいぞ。でクロードの剣の腕がよかったから男爵領で警備隊に志願、まぁおそらく領都に来ていた男爵が声かけたんじゃないかって話だ。屋敷ではクロードの場所はなかったみたいだからな出ていくのにちょうどよかったんだろう。で、その男爵領なんだがな。先日男爵が亡くなった。男爵婦人もな。」真剣な顔だ。
「えっ!」リッテは驚き声をあげる。
「野盗に襲われたらしい。」
「らしいとは?」疑問に思う。
「あまり憶測で物事を言いたくないんだが、男爵領に向かう子爵領そこの領主が共謀したのではないかとの話だ。前々から仲が悪かったらしい。ついでに男爵の娘を娶って、男爵領を乗っ取って自分が辺境伯になるとか周りに言ってるそうだ。」
「ああ、横暴貴族ですか?」
「そうだ。そもそも辺境伯を監視する名目で王国から派遣されている貴族だ。人選間違えてるな賄賂でも送ったか?税金もバカ高く取っているらしいぞ。まぁさすがに貴族の領地権があるから何にも言えない。反乱が起きなければいいがな。」
「なるほど。」うんうんと頷く。
「なにか考えがあるのか?」
「・・・多分この領は取り潰されるでしょう。」
「後釜に坊ちゃんを入れるのかい?」
「そうなると思います。多分王命で。」
「へぇーなる程ね。宰相あたりがわざと派遣したのか?連座させられる貴族はご愁傷様。そうなると辺境伯は・・・まぁどっちに転んでもいいように動くかね。」うんうんと頷いている。
「私もそのつもりで動きましょう。」
「そうだね。・・・それと肝心な件はどうだい?」
「どうとは?」すっとボケるリッテ。
「とぼけなさんな。あの件さ。普通なのか、変わっているのか。特徴はどんな感じかなと。場合によっては私がやらないといけないからね。」あまり気が進まないようだ。
「そうですね・・・なんと言えばいいでしょうか?・・・異常ですかね?」
「異常?」空気が変わる。刺すようにリッテを見ている。
「それ以上はさすがに言えませんよ。」
「そうかい、なんなら明日私に預けて行っちゃくれないかい?」
「どこに売り飛ばす気ですか?」リッテは割と真面目に聞いた。
「失敬な人身売買なんてやっちゃいないよ!」否定する。
「この前貴族を売りに出してたんじゃなかった?」事実を突きつける。
「あれは違うだろうよ。くそ貴族はいいんだよ!」焦ってる。
「ほら前科があるじゃないですか。先代に預けたら、煮て焼いて食われそうで可愛そうですよ。」と赤ちゃんのことを思う。
「わかったよ。売りにも殺ったりもしないさ。この宿を賭けたっていい。私の隠居する場所なんだからね。」と、やれやれ顔。
「わかりました。それで折れましょう。」にっこりするリッテ。
「で、肝心な件はそれでいいとして坊ちゃんは明日のデートで落とせるのかい?」
「はい。必ず。」リッテの声が弾んでいた。
「やれやれまだ子供だったかね?まぁ頑張んな!」リッテを後継に指名しちまったこと早まったっかね。とちょっと考えた女将だった。
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