第四章 Little__Dream
第四章 Little__Dream -1
「……もっとマシなケースは無かったのかよ、オイ」
「これしかなかったんだよ……」
相も変わらず弾痕だらけの治安維持隊の自動走行車の中。
助手席のカオリは手渡された小型のスーツケースを見て半目になった。
運転席に座ったルークは答えつつも、確かに酷い見た目だな、と思った。
元は普通のアルミ製スーツケースだが、全体がやたらメタリックな原色の赤色で塗装され、両面中央には金色の鳥居がドでかくデザインされている。
ぎらつく赤と金。
どこかで見たような配色だが、きっと気のせいだろう。
「――で? この悪趣味なケースを俺に渡したのは? 在庫処分の押し売りか?」
ルークは違う、と答えつつ、緊急操作のハンドルになんとなく手を置いた。
「そのケースには『本』と、『切り札』が入っている」
「……は?」
訝し気に眉を顰める異端の傭兵に、ルークは続ける。
「詳しくは言えない。でも、絶対の
「…………」
「君に守護して欲しい。力を正しく扱える君にこそ預かって欲しいんだ」
カオリはやや不機嫌そうな表情でスーツケースを睨み、そして諦めたように溜息を吐いた。
不満げな表情で指を鳴らすと、彼女の左手の中の空間が飴を混ぜたように渦を巻き、どぎつい色のケースはたちまち消え去った。
「空間を圧縮した。こいつは俺の制服に入れておく。俺が死ねば能力は解除されるから、奪い返したかったら俺を殺すんだな」
「……そんなことは、しないさ」
「…………」
カオリの言葉に苦笑を返すルーク。
その態度を横目で見やり、少女は脚を組んで窓枠に肘をつく。
沈黙だった。
くぐもった走行音と、空調の音だけが車内に流れていた。
ひび割れたガラスの向こうを流れる都市風景を眺め、カオリは静かに尋ねる。
「……どうして俺をそこまで信頼する。俺は今まさに東京を混乱と恐怖に陥れている魔術師に雇われた傭兵だ。しつこいようだが、アンタを騙していたんだぜ? おまけに、厳密に言えば超能力者でもねえ」
「そうだな……」
ルークは視線の先に続く道路を見つめ、考える。
どう答えようかと少年は少し不安になり、
「――私がそうしたいからだ」
そう、己の中にある最も素直な気持ちをそのまま答えにすることにした。
カオリの呆れた表情を思い浮かべながら、ルークは先を向いたまま続ける。
「私たちは敵対関係で。本来はこうして肩を並べるのではなく、相対すべきなのかもしれない」
でも、
「それでも君という人間を、私は信頼したい。信頼したくなってしまう」
言葉にして、ルークはああそうだ、と己の感情を再確認する。
信じたい。
信頼したい。
たとえ自分を騙していたのだとしても、あの時、彗星のように飛来してきたこの少女を、その華麗な強さを、誇り高き後ろ姿を――ただ自分は信用したいだけなのだと。
こんなものはただの願望に過ぎない。
理論も道理も合理もなく、それどころか自分と多く人間を危機にさらすかもしれない。
それでも、ルークはそんな不合理を否定したくなかった。
……たとえそれが、一方的なエゴであり。とんでもない欺瞞なのだとしても。
『ルーク・エイカー』は、そのようにしか生きられなかった。
「……不用心なヤツだ」
隣で呟いた声に、ルークは苦笑する。
「そうでもない」
ノイズだらけのカーナビゲーションが、もうすぐ目的地に到着することを伝えてくる。
遠目に見えてきた治安維持隊本部の影を目にし、ルークは笑みを引っ込めた。
「これは賭けだ。少なくとも、私にとってはね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます