第三章 PinBall_Game -5
ばがん!! と、錆びついた扉が内側から吹き飛ばされた。
「はぁ……」
マリを抱えた露藤ハルは蹴り破った勢いそのまま走り抜け、通り抜けた工場を振り返る。
出口となる扉は複数あったが、あえて二番目に近いものを選んだ。ある程度大きな規模の建物ではあるが、追手は八人。それだけいれば包囲できなくもない。
長居は無用だった。複数の工場が集まる工業地帯ならば複雑な建物構造に身を隠すことも出来ようが、ここではそれも難しいそうだ。
(戦意は挫いた……と信じたいけれど)
ハルは工場を囲む塀の裏門を目指しながら、迷彩服を着た追手のことを思う。
恰好と装備、使用している言語からして彼らはほぼ間違いなく米軍だ。
なぜ彼らがここにいるかは分からないが、もし本当にアメリカ軍が来ているならば、その規模はあの程度では断じてない。
小隊規模で都内に複数展開しているならば、戦艦規模で大挙している可能性もある。
(今はとにかく、何とかして治安維持隊本部に向かわないと――)
門に辿り着いたハルはマリを一度地面に立たせ、重い取っ手に手をかけた。
運搬用の車両も出入りしていたのだろう。裏門は車輪の付いた横に引くタイプのもので、開けるためには結構な力を入れなくてはならなかった。
「んっ、ぎぎぎ……」
放棄された工場だけあって、ゲートの車輪は経年劣化と錆びでなかなか回ろうとしてくれなかった。人ひとり通れる隙間さえ開ければ、とハルは手に力を籠める。
「くそっ……」
こんな所で時間をロスしている場合ではない。ハルは頬を伝う汗を拭った。
(能力で門を変化させるか)
相手はまだこちらが工場内にいるか、それとも脱出したかを把握していない。逃走したという痕跡を残したくはなかったが背に腹は代えられない。
露藤ハルは門に触れて意識を集中させ、
「ふぅ……」
「――――ッぎゃははははははははははははははははははははァァァァアアアアッッ!!!!」
「『転移てんせ――は!?」
頭上から突然降った殺意と狂声を見上げ、驚愕の声を上げた。
「ぎゃっははははは、ッはあッ!!!」
「ッッ!」
爪だった。広げられた五指の先から伸びるそれは、一つ一つが鉈のように長く、重い刃だった。そんな凶器が振り下ろされれば、人体がどうなってしまうかなど一目瞭然だった。
ギンッ!!! という鋭い金属音が響く。
「……ぎゃは」
重い金属の門がU字を描いて変形し、爪を防いでいた。
歪んだ鉄格子の隙間からハルは襲撃者を睨み、怪物はその様子を見てにやりと唇を歪めた。咄嗟の転移転生による金属変形。シールドを作るまでには及ばずとも一撃を防ぐならば十分。
だがしかし、錆びた鉄門では一度防ぐので精一杯だった。
有角の怪物は蝙蝠の翼を翻し、空へと舞う。
「あっはァ、なかなかやるじゃない! でもでもでも!! 逃がしはしないわ! やっと見つけた愛しい同類!! 今助けてあげるからね!!」
「同類? 一体何の……く……っ!!」
空中を旋回し、怪物は再び爪を振り上げ、標的に向けて急降下する。金属の屋根から慌てて抜け出す
「さぁ、その子を渡しなさい!! 今なら無傷で帰してあげ――――」
と。邪魔者が肩に担いでいるものが目に入り、怪物は思わず言葉を止めた。
「……ん?」
ロケットランチャーだった。
「――――おや」
鼻先に迫ったロケット弾頭を前に、怪物は目を瞬かせた。
爆発する。
怪物は吹き飛ばされ、工場の壁を破壊して中へと消えていった。
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