第三章 PinBall_Game

第三章 PinBall_Game -1


 治安維持隊。


 それは極東が有する最高戦力機関である。

 表向きは主に超能力者による国内の犯罪を阻止・対処するために設立された警察機構であるとされているが、実際のところは世界中で研究が進む神秘――即ち、魔術や仙術、超科学に対抗するための軍隊であった。


 その実態は治安維持隊が設立にあたり自衛隊を接収していることからも明らかだったが、各国の軍隊で急速に進む『神秘を材料とした次世代兵器の構築』が脅威となっていたことで国民の間で防国の意識が高まったこともあり、多少強引な論調でも成立したのである。


 無論、そのことに対する内外からの批判もあったが、超能力などという未知の分野をすぐさま軍隊に繋げて批判するのは難しく、また各国が同じような事を画策していたため、互いに目を瞑る形となっていたのだった。


 日本政府の異例の対応の速さには、近代以降、かねてより軍隊を持つことを政府が切望していた故であるとも言われているが――果たして研究は進み、十年も経たない内に極東は世界でも有数の超能力大国となった。


 未だ大規模な交戦記録はないが、強力な超能力者であれば一人で一個大隊に匹敵する戦力と成り得る、と国民の間では密かに囁かれていた。


 それゆえに多くのエリート超能力者を擁する治安維持隊本部は国民にとって治安維持の盤石の要として燦然と輝く象徴であり、東京の中心に建つ本部ビルはその憧れの対象でもあった。


 ゆえに。


「「…………」」


 本部に到着した二人を待っていたのは、目を疑わせる光景だった。


「なんだ、これ……」


 自動操縦車を下りたルークは目の前に聳える変わり果てた姿の本部ビルを見上げ、言葉を失った。

 何もかもがおかしい。

 まずもって正門から狂っていた。


 ルークは順番に状況を確認するように、通って来た場所を振り返る。

 本来、本部ビルはぐるりと敷地を囲むコンクリートの壁と、二重三重のセキュリティと共に鎮座する大きな鉄門によって厳重に閉ざされている。


 だが、今視界にあるのは戦国時代の古城のそれのような石垣の塀と、家紋の代わりに『COOL JAPAN』とやたらとデザインチックな文字で描かれた木製の関門だ。


「……なあ、生徒会長。治安維持隊ってのはこんな悪趣味なモンを導入してんのか?」

「そんなワケはない、……はずだけど」


 そして本部ビル。

 ルークは正面を向き、同じく困惑しているカオリの言葉に自信なく答える。


 鳥居だった。

 ギラギラと赤の蛍光色に光る巨大な鳥居が、入り口にぶっ建てられていた。


 メニーなマネーが有り余っていた昭和のバブリーなカオス的サムシングでもこんな代物はお目にかかれまい。更に屋上の四方の隅には金の鯱が無駄に輝いている。


 思考を放棄しそうになるところを耐え、ルークは懸命に頭を動かす。


 ファンシーな外見の狂気に誤魔化されそうだが、目の前のこの状況は間違いなく治安維持隊本部に何か危機的なことが起きているという証左に他ならない。

 正門が開け放たれ、普段入り口に立っているはずの警備の者も確認できない。


「――私はこれから中の状況を確認してくる。御影はここの門番を頼む。通信が出来ないから、敵が来たり何か異変が起きたら能力を使って合図を送って欲しい」

「……了解した。どう見てもヤバそうだが、アンタなら単独でも大丈夫だろう」

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