interlude
――そして。
「ぎゃは、」
狂乱の渦は留まることを知らず。数多の世界を、幾多の存在を巻き込み加速する。
「ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――――――――――――――――!!!!!」
喉の引き裂くような哄笑が、室内に反響する。
暗闇に満ちる小さな部屋。
シャンデリアの蝋燭に灯る小さな火が、辛うじて視界を確保していた。
棚には腕と脚を挿げ替えられた人形が並び、壁には引き裂かれた絵画の額縁がタイルのように隙間なく敷き詰められ、現代アートじみたデザインの家具や謎インテリアが小さい床面積を更に狭めていた。
「見つけた! 見つけた見つけた見つけた!! とうとう見つけた!! ついに現れてくれた、愛しく恋しいアタシの同類!!」
上気した顔を長い爪の両手で覆い、女は隠しきれないほどにつり上がった笑みを浮かべる。
ぼう、と消え入りそうだったシャンデリアの火が燃え上がり、その姿が浮かび上がった。
艶のない、乱雑に切った黒の短髪を持つ女だった。
銀縁の丸眼鏡の奥に煮えたぎる赤目を持つ女だった。
ずたずたのワンピースに身を包む女だった。
何より、
容姿や恰好の話ではない。ただその姿を見た者は、その存在を目にしたものは、脳が生物としての判断を自動的に下すのだ。
これは、このヒトガタは、紛れもなく化け物であると。
「アタシの同志、アタシの100年。運命と時の仔。理外の宇宙の彷徨い人」
うっとりとした様子で女は己の身を掻き抱いた。それは遠く離れた恋人に再開したようであり、生涯の怨敵を目にしたようでもあった。
「愛しい貴女、恋しい貴女……今、迎えに行くからね――――」
ざわざわ、と。
ゆらゆら、と。
幼子の悪夢のような部屋に、歪みが生じ始める。
影が起こる。
埒外の異形がその正体を現していく。
背から生える蝙蝠の羽に、ハートが付いた尾。頭に生えた冠のような大きな角。劣情を掻き立てる妖しい赤光を宿した瞳。そして何より、三日月に歪んだ口元から覗く、人のソレではあり得ない牙。
それはかつて米国においてUMAと同等なるものとして扱われ、最重要警戒対象にさえ認定されていた、
それこそが、ヴィクトリア・ヴァンピレス・サキュバー。
本来交わらぬ逢瀬によって産み落とされた、夜の申し子。
即ち、
◇
そして一方。
露藤ハルと謎の少女は、公園の砂場で膝を抱えていた。
「ここ、どこ……」
ハルがぽつりと漏らすが、返事はなかった。
ひゅう、と寂しい風が二人の髪を揺らす。
……迷子だった。
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