interlude
「――時は来たッ!!」
そこは異様な空間だった。
打ちっぱなしのコンクリートの壁が四方にそびえる、体育館二つ分ほどのだだっ広い空間。
元々は工場だったのか天井を渡す金属製の梁にはワイヤーやクレーンがぶら下がり、壁際には壊れた機械が山と捨てられている。
電力はとうの昔に絶たれ、本来なら薄暗闇の中で朽ち果ててゆくはずの施設。
なのだが。
「君たちも知っていることだろう! 天より一直線に飛来した彗星が如き煌めきを! 首都に突如現れた戦争を!! 混乱の災禍となって渦を巻く民衆を!!」
それは鳥居だった。
二重に円を描いて、空間を満たす五十を超える鳥居。
本来神の居る社への門として厳かに構えているはずのそれは今、どういう原理かゲーミングPCよろしく赤系統のどぎつい蛍光色にギラギラと輝き部屋を光で満たしている。
「そうッ! この国は、我らの麗しきJAPANは今――空前の危機的状況に陥っている!」
だが何よりの異常は、そこに集った百に達しようという人々だろう。
同心円を描き中心を向いて立つ彼らは、皆一様に『NIKKO AKEMI ARMY』と背中に赤字で書かれた白いフード付きコートを着用しており、手には提灯が提げられている。
広い空間内で巨大な多重円を描く、大量のゲーミング鳥居と提灯片手の白コート集団。薬でもキメてない限り拝めなさそうな光景の中心、祭りの櫓のような台上に、彼女は立っていた。
「アケミは今こそ改めて君たちに問おう!! この国に今、足りないものは何ぞやと!」
それ即ち自明の理、と彼女は拳を振り上げる。
「――『
部屋を満たす赤色の中でなお燃える紅の髪。
絶対的な自信と五芒星が輝く琥珀色の瞳。
オーバーサイズの半纏に背負った『COOL JAPAN』の文字。
明らかな狂気に満ちた空間内において、絶対的な存在感をもって全員の目線の先で演説する女。それこそが彼女――悪名高き『日光アケミ軍団』総帥、日光アケミだった。彼女は大げさな身振り手振りで自分を取り囲む者達に語り掛ける。
「悲しいかな、アケミたちの活動は政府によって妨げられてきた。もっともCOOLを人々に提供しなければならないこの非COOL JAPANにおいて、JAPAN自身がJAPANをCOOLにすることを邪魔してきた……!」
だが、
「今日の朝、天啓が降った! この国の未来の心臓とも言える超能力育成機関、第一高校に光が落ち、都心には武装集団が現れた!! これは神の啓示に他ならず! 政府が弱る今こそ好機!! アケミたちにこの国をCOOLで埋め尽くせという運命の符号!!」
日光アケミは右腕を振るう。
「アケミは君たちに問う!! この国に必要なものは何ぞやと!!」
白コートたちが拳を突き上げ、応える。
『『『COOL! COOL! COOL!』』』
日光アケミは左手を胸に当てる。
「アケミは君たちに問う!! 掲げるものは何ぞやと!!」
『『『COOL! COOL! COOL!』』』
最後に日光アケミは仁王立ちに足を踏み鳴らす。
「アケミは君たちに問う!! 為すべきことは何ぞやと!!」
『『『COOL! COOL! COOL!』』』
ごごん、という振動と共に、紅色の空間に一筋の光が差す。
工場の搬出用の巨大な両開き扉が開いてゆく。
それを合図に白コートたちは一瞬で円形から正方形に整列した。
「ならば行くぞ君たち!! 今こそこの国の未来をCOOLに染め上げる時だッッ!!!」
アケミが吼える。鳥居が輝き、提灯が揺れる。
COOLを教典とし、COOLを胸に抱き、COOLを手にJAPANをCOOLにせしめんとする、自称アーティスト集団。
果たして混乱渦巻く首都東京に今、全く関係のない狂気の軍団が解き放たれたのだった。
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