17話『銀と金』中編



 アドニスの言葉に側近たちは何も言わなかった。

 無言のまま、視線を此方に向ける。

 その視線を前にアドニスは続けた。


 「可笑しいとは思っていました。暗殺を依頼して置いて、まるで隠す気は無い。むしろ公表している。『参加者』にと言う存在を公表している様にしか見えない」


 アドニスの中で、自身の答えは正しいと言う確信があった。

 でなければ、あの記事はおかしい。

 『ゲーム』開始前に、『参加者』を秘密裏に唯減らしておきたいのなら、ジョセフの死はどんな手を使っても隠すだろう。良くて行方不明。


 それどころか、更には見越して『ゲーム』には影武者を送り込む可能性すらある。

 ゲーム開始前に一人が死んで一人が行方不明は、流石に「イレギュラー暗殺者」という存在がバレる可能性があるから。

 それに『世界』が送り込んだ影武者ならはアドニスの手駒としても使える筈だ。

 

 でも、それはしなかった。


 『世界』は当たり前のようにジョセフの死を明らかにした。

 それは正に知らしめるように。

 「お前達には共通の敵がいる」そう、参加者達に宣告するかのように。


 昨日のジョセフの一件と。

 今日の新聞をみて、皇帝の真意を悟った。


 『ゲーム』開始前に、秘密裏に『参加者10の王』を殺す。

 『参加者10の王』に玉座など渡す気ないため、アドニスと言うイレギュラーを送り込んだと思っていたが――コレは間違いだ。


 「皇帝は王冠を端から捨てる気が無い」

 ではなく。


 「王冠は端から捨てる気は無いが、せっかくのゲームだから、全員にチャンスはくれてやる」

 正しいのは此方。


 つまりだ。皇帝は『ゲーム参加者』に宣戦布告したのだ。



 そんなに王冠が欲しいならくれてやる。だが、殺し合え。

 だが簡単に、ただ殺し合うだけで玉座が手に入るとは思うな。

 此方からは最上級の狩人怪物を放つ。

 王の座を欲しいと言うのなら、その狩人を見つけ、殺せ。


 それでこそ、『王』と言う存在に相応しい――……と。


 アドニスが導き出した答えは正しいはずだ。

 でなければ、可笑しい点が出てくる。

 でも、導き出した答えが正しければ。辻褄は合う。


 ジョセフの件を公表したことも。

 アドニスに「影武者」と言う肝心な情報を提示しなかった件も。

 「遊べ」と言った皇帝の言葉も。


 アレは自分だけに向けられた言葉じゃない。

 昨晩の、ゲーム開始もまたしかり。


 本当に皇帝の言葉通りなのだ。隠す気なんて無い。

 「大いに遊べ」そして「余を楽しませろ」

 これ等は、に送る言葉だったのだ。

 

 だからジョセフと言う人物の死は、宣告。

 これはアドニスと言うイレギュラーも含めた。『ゲーム参加者全員』へ。

 「で自分を楽しませろ」という意味も込めた。


 皇帝からの、である。


 少しの間、銀髪が口を開いた。

 「貴方の1つ目前者の考えは分かりました。」


 金髪が口を開く。

 「――……では、2つ目後者は?」


 アドニスは静かに口を閉ざした。

 僅かに眉を顰めて、ゆっくりと口を開く。


 「――……『王』を選んだモノ達へ。自ら王と選んだものが無様に負けたのであれば、同時にお前たちの負けである。そのようなは自分の国には要らない」


 一度だけ、息を付く。アドニスは最後の言葉を続ける。


 「古き王か、新たな王か。選べ。負けたら全員殺す。これは『10の王』達の、その陣営への警告です――」

 

 これが、2つめの質問に対してアドニスが浮かべた答え。

 「ジョセフ皇子の側近を殺した」答えである。


 彼の答えに側近2人は何も口にしない。

 お互いに耳打ちすることも、嘲り笑う事も、呆れる事も。

 長い間が落ちる。

 その長い間に、アドニスは僅かに顔をゆがめた。

 


 アドニスは自身の考えを正しいと思っている。

 ――ただ、それは前者の答えのみだ。


 長い沈黙の末、最初に口を開いたのは、銀髪であった。


 「――……それが貴方の答えならば、前者に対しては何も補足する事はございません」


 それは、肯定と受け取っていいだろう。最初の考えは正解。

 だが同時に思う。やはり後者は間違いであったかと。


 言ってみたモノの「『王』に属したモノは全員殺す」

 コレは腑に落ちない答え。納得できない。


 『10の王』については、国民にも知らせは通っている。『ゲーム』も公表済み。

 『王』を支持する国民は沢山いた。其々各自、自身の『王』を選んで来た。


 ――……名までは公表していないのに、多くのモノが自ら『王』を探し当て、自分の『未来』を選んだのだ。

 皇帝はソレを黙認。何かをすることも無く、


 今じゃ皇帝が統治する、この『城下』以外では、各地違う『王』の名を掲げるモノ達が数多くいると言う。

 これに対しても皇帝は何もしない。

 それは見せかけか?自分を批判する者達を、焙り出したと言うだけなのか。


 違う。皇帝は暴君だ。しかし愚王ではない。

 彼は自身の傲慢さが、何故実現できているか理解している。


 高い税を掲げ、反逆者を殺し、貧民は見捨てて来た。

 しかしだ、同時に理解している。

 皇帝自分をたらしめているのも、国民であると。


 もっとはっきり言ってしまえば。

 王の為にと税を出しているは国民なのだ。

 暴君であるための金を、装飾品を、食事を、全て用意するのは国民だと言う事。


 あの王は其処はしっかりと理解している。

 暴君が、皇帝であり続け、贅沢する為には何が必要か。


 だから国民は殺さない。を殺すことはしない。

 働きアリを殲滅するような真似はしない。飼い殺しにする。

 ――例え、それが裏切り者だとしても、だ。


 だから、そんな民を切り捨てるような、アドニスの後者の答えは間違っている。

 ただジョセフの一件に関してだけを考えると。

 『王と道連れ』……としか思えないのだ。

 その答えを、彼らは出す。

 

 「そして、後者に関しては補足をさせていただきます――」

 金髪が静かに口を開き。


 「全員ではありません。『』となりますのは、時代遅れの『貴族』だけとなります」


 否定をすることは無く。ただ冷徹に、言い放った。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る