十
信二を先導に、三人は、ふたたび廃校へとやってきていた。あの日曜日に三人が侵入した門から、そっと中の様子を窺った三人は、異様な光景に息を呑んだ。
二メートル近くまで巨体化した野獣とあの青年が、睨み合って対峙していた。古びたアパートから飛び出していった化物は、いまや夜の魔王のごとく赤い目を爛々と光らせ、そうして、信二たちが見ている間にも、化物の身体は細かく細かく変化していた。指先が鉤爪化し、それに伴い、腕の筋肉もさらに膨張していく。肩甲骨の辺りには、針鼠のように無数の棘が突き出て、威嚇するように棘がざわざわと揺れ出した。
「おい、やばいぞ、逃げないと」
良治が蒼白な顔で言った。体が、異様に震えている。信二も、そしてたぶん満も同じ気持ちだろうが、三人はその場に固まり、動くことができなかった。動いた瞬間、変態化した化物に気づかれて襲われてしまうんじゃないかという予感に、身体が凍ったように、動くことを拒絶しているのだった。空気が凝っている気がした。廃校を中心にして、付近一帯が現実とは異なる別空間に転送されたかのようだった。
棘のさわめきがぴたりと止んだ瞬間だった。巨体が怒り狂った闘牛のように、青年へと突進していた。
早い! その巨体からは想像もできないほどのスピードで、化物は、青年との距離を詰めた。だが、その動きに呼応するように、青年はバックステップで、化物との間合いを一定に保ちつつ、戦闘態勢を整える。化け物と青年が、直線上で睨み合って、ぐるぐると円周を描き始めた。見えない火花が、バチバチと飛び交っているようだ。
いつ、どの瞬間で肉弾戦が始まるのか、三人は、息を呑んで成り行きを見守るしかなかった。
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