「見たか? いまの人間じゃないよな?」

 満が興奮した面持ちで、言った。良治は、口をあんぐり開けて、得体の知れない異形者が走り去っていった方角を、ぽかんと見送っていた。

 異形者を負って、青年がものすごいスピードで後を追っていった。一体、何が起こっているのか、状況を把握するのが追い付かない。信二は、茫然として、前方に伸びていく光の帯を見つめていた。

 「なあ、俺たち、夢でも見てるのか?」

 良治が、そう言うのももっともだった。信二にも、いまの状況が現実だとはとても思えなかった。自分自身の知覚に、異常が生じていることが信じられず、見えているもの聞こえているもの、何が現実なのか分からなくなりつつあった。けれど、夢でないことは確かなのだ。いままでにないような、研ぎ澄まされた自分の感覚を信じるべきだろうか。

 「追わないと」

 信二が言うと、満と良治が同時に信二の方へ顔を向けた。

 「追うって、いまの奴をか? あの化け物みたいなのも、それ追ってったあの人も、もう見えないぜ」

 良治が、冗談はやめろよ、とった風な表情で言った。

 「大丈夫。僕には分かるから」

 信二には、確かに分かるのだった。化け物の足跡ルートが、色となって道路に浮かび上がっている。まるで、うっすらと地を這うレーザービームのように。

 満も良治も、歩き始めた信二を、ぽかんと見つめるばかりだった。しかし、やがて、慌てたように信二の後を追い始めた。

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