五
「見たか? いまの人間じゃないよな?」
満が興奮した面持ちで、言った。良治は、口をあんぐり開けて、得体の知れない異形者が走り去っていった方角を、ぽかんと見送っていた。
異形者を負って、青年がものすごいスピードで後を追っていった。一体、何が起こっているのか、状況を把握するのが追い付かない。信二は、茫然として、前方に伸びていく光の帯を見つめていた。
「なあ、俺たち、夢でも見てるのか?」
良治が、そう言うのももっともだった。信二にも、いまの状況が現実だとはとても思えなかった。自分自身の知覚に、異常が生じていることが信じられず、見えているもの聞こえているもの、何が現実なのか分からなくなりつつあった。けれど、夢でないことは確かなのだ。いままでにないような、研ぎ澄まされた自分の感覚を信じるべきだろうか。
「追わないと」
信二が言うと、満と良治が同時に信二の方へ顔を向けた。
「追うって、いまの奴をか? あの化け物みたいなのも、それ追ってったあの人も、もう見えないぜ」
良治が、冗談はやめろよ、とった風な表情で言った。
「大丈夫。僕には分かるから」
信二には、確かに分かるのだった。化け物の足跡ルートが、色となって道路に浮かび上がっている。まるで、うっすらと地を這うレーザービームのように。
満も良治も、歩き始めた信二を、ぽかんと見つめるばかりだった。しかし、やがて、慌てたように信二の後を追い始めた。
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