八
神社の入口の石段の上で、虚脱感満載で立ち尽くしているところへ、ゆうと沙奈絵がやってきた。沙奈絵が前を歩きその後ろに、ゆうがついてきていた。ゆうは、いつもの黒ずくめの衣装に、首に銀色に輝くアイアンクロスのネックレスをしている。透き通るように白い肌に、造形美豊かな鎖骨、そこに金色が映える。
ああ、ゆうは、部分部分のパーツまで、極めて美しいのだなと、照須はいつだって、感嘆する。
その存在感は、強烈なのに、ほんの数メートル先にくるまで照須は気づかなかった。それほどまでに、これまでに起きた出来事に対し、心理的に疲弊していた。心に受けた衝撃が強烈すぎて、現実感がなくなっている。ゆうが、天界から降臨してきた美しき魔女のようにさえ思えてくる。
「どうしたの、照須、ぼけっとして。何かあった?」
「あ、ゆうさん。えっと、あの・・・・・・」
照須は、とっさに背後を振り返った。また、あの生首のように生々しい亡霊が襲ってくるのではないかと思い、背筋が凍る思いだった。
「中に、何かいた?」
何かいたも何も、初めて幽霊というものを目撃し、それもその幽霊は体がなくて、首だけで、しかもその少女の首が絶叫して上から襲ってきて、それから、それから――。ああ、頭が混乱しすぎて、とても整理して説明する余裕がない。
照須が、口をぱくぱくと動かしている間に、ゆうはすたすたと神社の境内に入っていった。そのあとを、沙奈絵が恐る恐るついていく。
もう嫌だ、この中には入りたくないと、照須は思ったけれど、ゆうがいるから大丈夫だ、そう自分に言い聞かせ、しぶしぶ二人の後に続いて、境内へと入っていく。
照須が言わずとも、何かを感じたらしく、ゆうはねむの木の方へ直線的に近づいていった。そうして、霊木のすぐそばまで行くと、じっと視線を上方に向け、なにやら思案に耽っている。しばらくして、おもむろに右手を伸ばす。
と、そのとき、突然に沙奈絵の様子に異変が起きた。ぶるぶると体を震わせ、なにやら、独り言のようにぶつぶつと、呟き始めた。
「いや、いや、いや、結花ちゃんなの、あなた結花ちゃんなの?」
沙奈絵は、首をぶるぶる振るようにして、今度ははっきりと分かるような言葉を発した。
ゆうの右手は、何かを掴んでいるようだ。しかし、照須には、それを見ることができなかった。
「虐げられた霊魂。ずっと、この場所にくぎ付けにされていたのね。でも、これは残り滓のようだけど。照須、何があった?」
照須は、できるだけかいつまんで、自分の身に起きたことを説明した。ゆうという心強い味方の出現で、やっと多少なりとも冷静さを取り戻していた。今度は、口をぱくぱくさせるだけでなく、順序立て、できるだけ明確に、事の経緯を説明する。そうしてから、ゆうに尋ねた。
「で、ゆうさん。いま、右手に一体、何を?」
ゆうは、その問いに答える代わりに、右手を枝のように上方へ伸ばし、頭上で広げた。まるで、掌に握った大切なものを、空へ逃すかのように。
「首を斬られた少女の幻影。この樹木に磔にされた幼い少女の無念。あなたの友達だったのね? 沙奈絵さん」
ゆうのやさしく語りかけるような言葉に、沙奈絵はぼんやりと、虚空を眺めるような視線を、天上へと向けていた。はるか高みに昇っていく魂の欠片を見送るかのように。
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