健一のおでこ辺りに手をかざしてから、しばらくの間、堂島ゆうは何も言わずに健一を見下ろしていた。沙奈絵は、その表情から何かを読み取ろうとしたが、凛とした表情からは、何も読み取ることはできなかった。ただ、その沈黙の間が、健一の症状が簡単には回復できるものではないことを物語っていた。

 「強い執着。悲しみ。無念。そういった情念そのものが同化しかけている。強引に除霊すれば、脳に障害が生じかねない」

 ぼそぼそと語りかけるように、彼女が言った。沙奈絵は、縋るよう目でゆうを見つめた。

 「あなたへの執着よ。このエネルギーは、おそらく本体から分離されたもののようね。それだけに、なおさらたちが悪いわ。理性的な説得ができない存在だから」

 「助かるんですか、健一は?」

 沙奈絵は、擦れるような声で、彼女に尋ねた。

 呼吸が苦しい。健一の意識がこのまま戻らず、死んでしまうのではないか、そんな沙奈絵の想像は、沙奈絵の心臓を鷲掴みするかのようだった。心臓付近に置かれた健一の右手が、かさかさと衣服を擦るようにして動いた。

 はっとして、沙奈絵は、ゆうの方を見た。

 「すべては、あなたが、関係しているの。これは、あなたの問題でもある。覚悟はある? 過去と対面する覚悟は?」

 ゆうの脳に直接響くような声に、沙奈絵はごくりと唾を飲み込み、深く頷いた。健一が、助かるのなら。いまは、もう、自分は小学生ではないのだ。健一という息子を守らなければならない母親なのだ。過去に、どんなことがあったとしても。

 「もう、逃げません。健一が助かるなら、何でもします」

 ゆうの視線を真っすぐ受け止めて、沙奈絵は言った。

 「なら行きましょう、廃校に。すべての根はそこにあるようだから」

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