三上沙奈絵をヒアリングした結果、どうやら、問題は彼の息子だけにあるのではないらしい、ということに照須は、勘付いた。彼女は、小学生高学年のある一定期間の記憶を、何らかのトラウマ的な感情により、抑圧しているらしかった。その強固な記憶の封印が、ここ最近、彼女の言葉を借りれば、剥がれ落ちてきている、のだと言う。

 その漏れ出た過去の記憶の中心にあるのが、何十年も前に廃校になった小学校、星川第二小学校であり、そして、その廃校が、彼女の息子である三上健一の変容のきっかけとなっている。

 星川第二小学校は、どうして廃校になったのか? 沙奈絵が卒業してから間もなく廃校になったようだが、その理由を、彼女は知らなかった。つまりは、その廃校になった理由こそ、彼女の封印されていた記憶への足掛かりになると思われた。

 ならば、そこを中心に、まずは調べる必要があった。

 照須がミカエルと呼んでいる改造PCをカチカチやりながら、照須はちらっと背後を振り返った。三上沙奈絵が、前方に睨むように視線を据えて、椅子に座っている。緊張で固くなっているのか、心の焦りがそのような表情を生んでいるのか、いまにも立ち上がって、早く堂島ゆうを連れて来いと、まくし立てそうな雰囲気があった。

 もちろん、そんなことをするはずはないだろうが、照須にも、ゆうがいつ帰ってくるのか、分からない。ゆうは、通信手段としての機器を持って出歩かないのだった。そういったものは、霊術の邪魔になるからだという。

 緊急の用があるときは、念を送ってねと、ゆうは、たまに冗談めかしていうが、照須ほど霊感音痴の人間はいない。全く霊感のようなものが働かないからこそ、あんな低級な霊どもに簡単に取りつかれてしまったのだろうが、ゆうと生活を共にするようになってからも、一向にそういった能力が開花するきざしはなかった。全くだ。

 照須は、ひとつ小さなため息をつくと、沙奈絵に詫びを入れた。もしかしたら、彼女は、依頼を断られる可能性も考えているのかもしれない。その点は、大丈夫だと、照須は力説した。ゆうは、本当に困っている人間を見放すことはない、いや、むしろ困っている人間を自分の能力で助けることが、彼女の望みなのだと。

 照須は、PC画面に向き直ると、早速、ネットで星川第二小学校に関する情報を漁り始めた。まずは、国内最大級の新聞記事が保存されたデータベースの検索。それから、その頃の星川第二小学校関連の掲示板等の検索。

 それらを、丁寧に調べ、こまめにメモを取っていく。情報は、嘘をつかない、と呟きながらも、情報ほどあやふやなものは、ないのだと戒めながら。

 嘘と真実を選り分ける能力は、照須の得意分野だ。

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