第9話 服飾職人の娘

「うん。かわいいじゃない。これなら町へも行けそうね」

「う~ん。ちょっと地味じゃない? オレンジ色も可愛いんだけどさ」

「そう? 顔が可愛いんだから、服はちょっと大人しめな方がいいのよ」

「ママみたいに?」

「ふふっ、その通り!」


 ママはみんなの服をつくる職人。

 私の新しい服をつくって着せてくれたの。

 淡いオレンジ色のワンピース。

 まぁ、悪くはないんだけど、ちょっと地味な気もするの。

「さぁ、みんなに見せびらかせてきなさいな」

「はぁ~い」


「お出かけですかミシェル」

 家を出たところでピエトロに声をかけられた。

「あら、神父さま」

「可愛い服ですね。ジュリアがつくってくれたのですか?」

 貰ったばかりの服に気付くなんて、やるわねピエトロ。

 もう10年もしたら、少しくらい付き合ってあげてもいいかもね。

「そうなの。ママがくれたんだけど、ちょっと地味じゃない?」

「いえいえ、とても似合ってますよ。ミシェルをひき立てる素敵な色です」

「あら、そう? ふふっ、ありがと神父さま」

 あらやだ。ちょっと私、ちょろすぎるかしら。

 まぁいいか。

 褒めらると嬉しいし。

「せっかくの綺麗な服です。転ばないように気をつけなさい」

「はぁい。行ってきまぁす」


「ゲン爺~かわいいでしょ~」

「エン爺おはよ~。えへへ~かわいいでしょ~」

「イーガンどぉ? 可愛いからって、襲っちゃだめよ~」

「はぁいモルガン、新しい服なの。かわいい?」

 村をひと回りして、可愛い姿を皆にお披露目していく。

 でっかい丸太を担いだきこりのモルガンと別れたところで、ライバルに出会った。


「あら、可愛いわね~。ミシェル、似合ってるわよ~」

「そぉ? まぁ私くらい可愛いとね。何着ても似合うのよね~」

 彼女はエヴァ。

 村の大工アーネストの手伝いをしている。

 私の狙ってるおじさま、アーネストを奪い合う恋のライバルってやつね。

 彼女は26のおばさんだけど、私はピチピチの12才。

 まぁアーネストも、若い私の方に気があるみたいだけどね。

 息子のジョシュはどうしようもないけど、アーネストは渋いおじさまなのよ。

 やっぱり私くらいになると、30前のお子様じゃ釣り合わないのよ。


「そんな素敵な服を、誰に見せに行くのかな?」

 やっぱり気になるみたいね~。

 私にアーネストをとられそうで、内心慌てているんでしょう。

「ふふっ、みんなに見せびらかせているんだけど、あの人も惚れ直しちゃうかもね」

「とっても可愛いもの。きっとリアムも褒めてくれるよ」

 ん? なんでリアムが出て来るのよ。

「なんでリアムなのよ」

「あれ? ルークだった?」

「どっちもよ! あんなちんちくりんなんて」

「そうなの? リアムって、虐められるのが好きそうだからてっきり……ね?」

 確かに虐めるのは好きだけど、私は苦しんだり痛がる姿が好きなのよ。

 あいつは喜ぶ変態じゃないの。

「あんな変態、気持ち悪い。ルークなんて本ばっかり読んでる変態じゃない」

 私は落ち着いた年上の人が好きなんだから。

「そーなんだー。リアムはミシェルが好きそうなんだけどなぁ」

 なるほど……アーネストを奪うために、私を他の男にくっつけたいのね。

「そうはいかないんだから! あの人は私のものよ!」

「? そーだねー?」

 曖昧な返事をするエヴァを残して、見せびらかせを再開する。


「そうだ。アーネストにも見せてあげなきゃ」

 愛しのアーネストの家に急ぐが、めんどうなガキどもに絡まれる。

「あーみしぇるー!」

「ど、どこ行くの?」

 エヴァの罠なんじゃないかと思える程、絶妙なタイミングで見つかった。

 奴らはジョシュとリアム。

 なんでアーネストの子が、こんな残念な子なのだろうか。

 リアムの父、鞣し屋のデニスだって寡黙で渋いおじさまなのに。

「ええい、まとわりつくなっ」

 蹴り倒したリアムを踏みつける。

「ああっ! ありがとうございます!」

「きもちわるいっ!」

 なんなの? 踏んだら、お礼の言葉を叫ぶリアム。

 なんて気持ち悪い生き物なのかしら。


「ははっ、今日も元気良いなミシェル」

「せっかくの新しい服が汚れちまうぞ」

 笑いながらマシューとジャレッドが歩いて来た。

「うっさい。こいつ気持ち悪いのよ」

 こいつらにまで見つかったら、今日は無理かしら。

 アーネストには、明日見せに行こうか。

 今日は、こいつらを遊んでやらないといけないだろうから。

「今日はフォードも来るから、湖に連れてってやるぞ」

「あとはルークを探さないとな」

 村の裏、教会のある丘の下に池がある。

 湖と呼んではいるが、たいしたことない池だ。

 それでも子供だけでは近寄っちゃいけない場所だった。

「もうレディだから池で歳でもないけど、仕方ないなぁ」

 たまにしか行けないから、仕方なく付き合ってやる事にした。

 また隠れて本でも読んでるだろうルークを見つけなきゃ。


 池に行くなら、あのも連れていきたいとこだけど。

 あいつがまだ帰ってないから行かないかな。

 まぁ今回はいいか。

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