第13話 天才の圧倒的知謀

 斎賀(さいが)高校vs志木城(しきじょう)高校、第1クォーターは斎賀高校が無得点に対して志木城高校は73得点も奪った。


 これは異常な数値だ。


「バスケットボールをしていたが、こんな点差を付けられる人間は『毛利 薫(もうり かおる)』ぐらいしかいないだろう。」


 一人の男が影からその試合を眺めている。


 彼の名は石田 一見(いしだ かずみ)、どの業界にも表があれば裏がある。


 かつて、バスケット協会で彼は働いていた。


 そんな彼がバスケット協会から消された理由、それは『権力』と『金』だ。


「なぜですか!? なぜ、相手を無得点に抑え込んで200得点以上も奪えるレジェンズが『最弱』なんですか!?」


 問題は毛利が試合に出ていないということだ。


「だって、彼はバスケをしないで囲碁を打ってるじゃないか?」


 毛利という一族から英雄が生まれ、国民を救った。


 しかし、無能が上に立ち、政権を牛耳ると英雄は追放される。


 国を救ったら無能が『己はもっとすごい英雄なのだ』と思うもの、世の中は9割が無能でできている。


 無能の指示は類を呼び、友となる。


 本当は『賄賂金』に目がくらんだだけ、それだけの理由で毛利 薫は最弱のレジェンズとされた。


 その言葉に石田は激怒した。


「将来の日本経済成長よりも目の前の『賄賂金』を取るんですか!!?」


 バスケット協会や公務員、政治家は無能故に賄賂に弱い。


 有能なら自分だけの得よりも国の得を選んだろう。


 有能が上に立てば皆が裕福になる可能性は高い。


「そんなことでは『老害』が『年金制度』に賛成するくらい愚かですぞ!!」


 老人が多いのに年金制度を始める。


 それが無能というものだ。


 結局破綻して税金を食べているだけのゴミができる。


 そのゴミどもが汗水働いて、税を奪わず、己の稼ぎで養ってやればいい。


 無能故にわからないのだ。


 無能たちを説得したが、石田 一見はバスケット協会から消された。


「す、すごいバスケだ!!」


 他の種目のクリスタル杯はどうか知らないが、バスケのクリスタル杯は異常であろう。


「あの『斎賀高校』が無得点で抑えられて73点も奪われた!! こ、これは夢か………!!?」


 バスケに置いて『軍師』というものが存在するなら、監督やコーチなどがそれにあたるだろう。


 しかし、それは間違いだ。


 監督やコーチとは、ただの指揮官に過ぎない。


 そう、口だけの人間だ。


「『無得点』で抑えられない『監督』とはなんですか?」


 毛利が初めてバスケをした時、『監督』に言った言葉だ。


 この言葉に監督はバスケット協会に嘘偽りを報告する。


 監督も思わなかっただろう。


 監督自身が無能であることと、その監督の自尊心がまさか6歳の子供に好き放題言われてしまうという現実を………


「毛利 薫と申します。クリスタル杯第二試合でお会いしましょう。」


 氷川が神崎の病室から出てくるところを待っていた。


 薫の髪はとても長く美しかった。


 しかし、神崎のように女性の様な美しさはない。


 毛利が持つ扇子には一文字三星紋(いちもじみつびしもん)の家紋が印刷されていた。


「その家紋は、日本で唯一の軍師と言われた毛利 元就(もうり もとなり)のもの、毛利 薫とは毛利の子孫なのだろうか?」


 氷川の質問に対して毛利はセンスを閉じ仏頂面で言う。


「それはご想像にお任せいたします。斎賀高校が志木城高校から10点奪えたら私が試合に出ますね。」


 バカにされてるのか、冗談を言っているのかもわからない。


 だが、実際に試合をしてみて痛感する。


 斎賀高校はようやく2点を返したばかりだ。


「早く『10点』決めなければ!!」


 氷川がそう思って焦っても遅い。


 斎賀高校は既に、毛利の『策略』に嵌っているからだ。


 話は試合が始まる前まで戻る。


「我が智謀、お見せしましょう………」


 毛利が上杉たちに意味深なことを言うが、上杉は相手の言葉を理解することもできない。


 それどころかこんなことを言う。


「智謀? バスケに智謀なんてある訳ないだろ? この縦28m、横15mのバスケットコートには何もない。あるのは選手5名、正々堂々とルールに則って戦う。それがバスケだ!!」


 相手の言葉を切って捨てればコートの上に上がる。


 しかし、上杉はコートの上に上がったまま動かなくなる。


 氷川と桜井が不思議そうに上杉の方を見て言う。


「どうした? なぜ動かなくなった!?」


「なに? コートがどうかしたの?」


 桜井がコートに入ろうとすると上杉がそれを止める。


「待て!! モップお願いします!!」


 審判が指示すればモップ係がコート全体をモップ掛けする。


 再びコートの上に入るとなぜか上杉が動かない。


「『何』をした!! 毛利 薫!!」


 毛利がセンスを広げて顔を半分隠して言う。


「『何』とは?」


 氷川もコートに上がれば同じく動けなくなる。


「そうか、これで神崎も無得点に抑えられたのか!!」


 毛利は澄ました顔で何も言わず、センスを閉じればフッと笑って言う。


「さっさと試合を始めてくれませんか?」


 上杉と氷川は相手の卑劣な行為に歯を喰いしばる中、桜井だけは既に疲れ切っているためか、動く気にもなれなかった。


 それどころか欠伸さえ晒してしまう。


「ほぉ、我が計略の前に欠伸をするとは、余裕ですね。」


 桜井が慌てて表情を切り替えるもすぐに緩んで眠たそうにする。


「だが、例えハンデを抱えていても『レジェンズ』が出ないで勝てると思うなよ!!」


 上杉が怒りを露わにして言う。


「くッ!! こんなバスケをする奴は初めてだ!!」


 怒りに任せてあんなことを言った上杉だが、何もできず好き放題されてしまう。


 それだけでも耐え難い屈辱だと言うのに毛利達はベンチで扇子を扇ぎながら談笑をしている。


「応援団、声出してやれよ」


 ベンチが観客席の志木城高校応援団に指示を出す。


 応援団もその指示を待っていたのだろう。


「志木城高校つ・よ・す・ぎ!! 志木城高校強すぎ!! 志木城高校強すぎ!! がんばれがんばれさ・い・が!! がんばれがんばれ斎賀!! がんばれがんばれ斎賀!!」


 なんと敵である志木城高校が斎賀高校を応援してくるではないか!?


 これには上杉も氷川も歯をぎりぎりと喰いしばる。


 その様子に毛利は拍手を送る。


「はっはっは、頑張れ頑張れ斎賀!!」


 会場は大ブーイング、斎賀高校を会場が応援する。


 しかし、なぜ斎賀高校の選手だけがコート上で動けないのか、読者の皆も考えてみてはどうだろう。


 バスケのルールに縛られている選手やファールにしか頼れない無能な選手ももう少し頭を使ったほうがいいい。


「答えは簡単ですよ。私が用意したマットが原因ですから………」


 そう、『靴底クリーナー』が原因だ。


 試合前のウォーミングアップでは置いていなかったが、アシスタントに偽装させた志木城高校の者が両チームに靴底クリーナーを用意させたのだ。


「だめだ!! 床が滑って動けそうにないよ!!」


 桜井が走ろうとすれば滑って派手に転倒してしまう。


 転倒するだけならいいが、足首を捻って一人でもベンチに下がった瞬間、斎賀高校の敗北が決定してしまう。


「桜井!! 怪我だけはするなよ!! 怪我したら俺達はそこで『終わり』だ!!」


 試合に出れる最低人数は3人は必要だ。


 1人でも欠けた瞬間、斎賀高校は敗退となる。


 だからと言って動かなければ相手が好き放題攻めて来る。


 どうすることもできない。


「ピィーーー!! 白、志木城ボール!!」


 何かと打開策を用いるも、全て裏目に出てしまう。


 それは志木城高校のボールになるだけ、寿命を縮めているに過ぎない。


「くッ、どうやら、他にも何かされているみたいだぞ………何かがおかしい。」


 上杉が何かしらの違和感を覚えればバッシュ以外にも何かされていることに勘付く、しかし、それが何なのかがわからない。


「策は二重三重と用いるものです。まぁ、一つは教えて差し上げましたが、どうせ他の2つは気付けないでしょうからね。それよりも私もたまにはバスケがしたいですね。―――はっはっはっはっは!!」


ベンチにいる毛利が自分の策を自慢してくる。


 策略に嵌っている相手選手をベンチで眺めるというのがそんなにいいものなのだろうか、やられている方からすれば堪ったものではない。


 気が付けば50得点も取られている。


 斎賀高校は初めての50点差に正気ではなくなる。


 第1クォーターが終わったころには73点も取られていた。


 それに比べて斎賀高校の得点は何と0点、上杉はベンチに戻らず一人でどこかへと行く。


 そして、氷川は毛利にこんなことを言う。


「俺達のチームが『三人』だけだと思うなよ?」


 そう言ってベンチに戻ろうとする氷川の背に毛利がこんなことを言う。


「『神崎選手』とかいう『雑魚』もベンチにいらっしゃいますからね。」


 その言葉に氷川が足を止める。


 毛利は更に重ねて言う。


「『レジェンズごとき』が、本気になったところで、この『毛利』に勝とうなどと………お笑いですよ。」


 クリーナーを使う者もいれば、当然使わない者もいる。


 詰まり、そのクリーナーを使わない選手はどうすればいいのか?


 毛利の言葉はハッタリなどではない。


 必ず他にも『何』かがある。


 毛利はそう言いたいのだろう。


 しかし、無能はそう考えない。


 これ以上なにかあるとか、そういう考えにはならない。


 毛利はそう甘くはない。


「『レジェンズごとき』だと………」


 冷静な氷川が相手の挑発に理性を失う。


「そうか、ならばその『ごとき』の力を次のクォーターで見せてやるよ………」


 あの温厚な氷川が意外な一面を見せる。


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