第12話 世間から消された天才児

 試合が終わった後で神崎が送られた病院に城ケ崎高校のチームが押し寄せた。


 その後で氷川がお見舞いに来る。


 神崎は明日の試合には出られそうもない。


 神崎は城ケ崎高校でのみ戦うと誓っていた。


 しかし、城ケ崎高校のチームメイトが『俺達の分も頑張ってくれ』、『応援するからな』と言うために出場を決意する。


 問題は、明日の相手高校だ。


 神崎を相手に圧勝した毛利というレジェンズ、彼の強さはレジェンズの中でも最弱とされている。


「俺が試合に出られない代わりに、こいつを連れて行ってくれ………」


 そう言って神崎がバッシュケースを氷川に渡す。


 翌日、斎賀高校がクリスタル大会に集まると相手高校が聞いてきた。


「で、今日もまた斎賀高校は三人なのか?」


 5人で試合をするということと、三人で試合をする。


 その負担の差は比べ物にならない。


「か、体が重いよぉ………僕なんか彩音マネージャーにカラオケとファミレス、買い物まで付き合わされてくたくただよ………。」


 氷川と上杉はまだいいとして、桜井のコンディションは最悪だ。


「相手のレジェンズは二人、俺達は3人、桜井は絶不調か………」


 上杉が彩音の頭に手を置いて状況説明するも彩音はしおしおと縮こまる。


「だってぇ~、勝ったんだよ!? 打ち上げくらいしてもいいじゃん!!」


 むすっと頬を膨らまして言う彩音に対し、上杉は耳元でそっとこう言う。


「次は俺も誘えよ?」


 その言葉に彩音が顔を真っ赤にする。


 上杉の内心はこうであった。


(これからも3人で試合することになったら地獄だからな。桜井の体力回復は最重要だな………)


 氷川が皆に集合を呼び掛ける。


「みんな、油断するなよ。毛利というレジェンズは最弱評価をされているものの、『神崎』の戦績に唯一『黒星』を着けた男らしい。」


 氷川が神崎の病室でのことを話す。


 その話に、上杉と桜井が笑い飛ばす。


「無理無理、神崎を相手に300…ゲームとか嘘だわ!!」

「そうだよ。第一、300点ゲームって何? 僕たち高校生だよ?」


 全く信用してくれない2人に氷川も半信半疑だったのか、言い返すことができない。


「とりあえず、詳しく話さないと俺達も神崎と同じ運命を辿ることになる………」


 上杉が冷静になって氷川に何が遭ったかを聞く。


「それが………」


 神崎は全てを話すことはできなかった。


 何をされたのかもよくわかっていない。


「『強いて言うなら、急に体が重くなって、足も止められ、シュートも届かなくなった。まるで魔法でも使っているのかと思うくらいだ』。それが神崎の言葉だ。」


 この世に魔術が存在するはずがない。


 しかし、何かがあった。


 それでもあの神崎を無得点で押さえられるものなのだろうか。


「あれこれ悩んでいても仕方がない。とにかく、この先にあの『神崎』よりも『強い化け物』が待っているってことだろ? 行ってみようじゃねぇか!!」


 上杉は心のどこかでワクワクしていた。


 桜井も同じだ。


「確かに、あの神崎をそこまで抑え込んだんだ。そんなすごい選手と戦えるなんてね。とても名誉なことだよ。」


 だが、神崎とほぼ互角の斎賀高校などが相手になるはずもない。


「こ、これは一体どうしたことだろうか!!?」


 試合が始まり第1クォーター終了となれば斎賀高校は絶望的な状況であった。


「あの最強のレジェンズ、『神崎』ですら倒せなかった斎賀高校が志木城(しきじょう)高校の選手たちに圧倒されています!! し、しかも、驚くことに、志木城高校の『レジェンズ二人』は試合に出ていません!! 『ベンチで座っています』!!」


 この状況に解説の霧江は何も言わず黙ったままである。


 それもそのはず、志木城高校の最弱と評価される毛利 薫(もうり かおる)は社会的に冷遇されている。


 国とは、国民から税金を奪い。


 いざとなれば法律を悪用する。


 無能がなり上がれる制度で多くの無能な制度ができている。


 税金、年金、その他、と国は民から奪うほうが多く、仕事もしていない。


 災害があれば、税金で賄賂をして奴隷共に仕事を指せる。


 それだけでなく、毛利と言う有能を冷遇した。


 優秀過ぎてに無能なら嫉妬されてしまう。


 無能は己を無能と思わず、天才と自分で言う。


 それが無能の特徴だ。


 しかし、毛利は違う。


 ベンチで的確な指示を出し、最強のレジェンズに圧勝した異常な結果を残している。


 無論、斎賀高校も例外ではない。


「なんと、あの斎賀高校が未だ『無得点』です!! 志木城高校は73点も奪っているというのに!!?」


 会場の観客たちは志木城高校が余りにも圧倒的過ぎる故に斎賀高校を応援する声もあったが、絶望的な状況に応援の声も消えたのだ。


 そんな中、志木城高校の応援団が声を挙げる。


「勝つのはどっちだ~~~?」

『志木城高校!! 志木城高校!!』


「強いのはどっちだ~~~?」

『志木城高校!! 志木城高校!!』


 現実とは残酷なものだ。


 世間がどれだけ毛嫌いしても天才には敵わない。


 天才を活かすという発想がない政治家が悪いだけ、毛利 薫は何も悪くない。


「もうだめ………僕もう動けないよ………」


 桜井が真っ先に根を挙げる。


 一番コンディションが悪いなのだから無理もない。


 しかし、一体、5人の一般人選手で相手を無得点に抑えて、73点もどうやってとるのだろうか、この『謎』を解かない限り、『斎賀高校』に『勝ち目』はない。


 一方、その頃神崎は自身の容態を聞いていた。


「先生………もう大丈夫でしょうか?」


 医者は神崎の驚異的な回復能力に驚いていた。


 医者となれば多くの患者を診てきている。


 しかし、神崎のように鍛え抜かれた患者はそうはいない。


 反対に神崎も今まで多くの医者を見て来た。


 どの医者も自分が天才だと思い込んでいるマニュアル思考の残念な医者たちだ。


 無能な医者は的はずれな検査をして金だけを取っていく。


 有能な医者は検査などせず触診や気の流れでわかる。


「神崎くんと言ったかね………君みたいな患者は初めてだ。」


 その言葉に神崎は黙ったまま聞いている。


「何、私も一度医者でありながら患者に怒られたことがあってね。その時は自分の愚かさに恥ずかしくなってしまったものだ。」


 神崎が医者に言う。


「はい、僕も『初めて尊敬する医者』に出会いました………。」


 静かに瞳を閉じてフッと笑う。


 その神崎の姿が美少女のように見えた。


「あ、あぁ、後半から試合に出てもいいよ。」


 医師達は神崎の退院を悲しんだ。


「神崎くんまた来てね?」


 看護婦や看護師が不吉なことを言う中で神崎は困った顔をしてこう答えた。


「(やっぱ、病院の人間って、殆どがクズだな)………もう怪我したくないです。」


 その言葉に看護婦だけでなく看護師までもが肩を落とし、生きる希望を失ったという。


「しかし、無得点でいざ抑えられるとなると、神崎を倒したのは事実だったみたいだな………。だが、氷川主将なら勝てるって信じてるぜ。」


 上杉が相手のボールに飛びついて奪い取る。


 その動きは最早バスケではない。


 そして、氷川にパスを出す。


「あぁ、俺が志木城高校のレジェンズを引きずり出して一網打尽にしてやる!!」


 氷川の神速の攻めが決まる。


 勿論、そのスピードはレジェンズの目でもそう簡単には追える代物ではない。


 あっさりと点を取り返してしまう。


「な、なんて速さだ!!」

「あ、あんなの無理だよ!!」


 それもそのはず、速さではあの神崎ですら追い付けないスピード、驚かないはずがない。


「狼狽えるな。所詮は『氷川 翔』は『速いだけの選手』、『お前たち』は『神崎』を『無得点で抑え込んだ選手達』だぞ!!」


 ベンチにいる毛利が激を飛ばす。


「ただ………速いだけだと!!?」


 流石の氷川も自身のプライドを傷つけられる。


「いいか、作戦通りに動け、それでお前達は『速くなる』。そして、氷川は『遅くなる』。」


 氷川は毛利の言っていることが全く理解できなかった。


「おいおい、いくら何でも『選手が早くなって』『相手選手が遅くなる』なんて、そんなことできる訳がないだろ?」


 上杉が当然疑問を覚えて毛利に言う。


 だが、志木城高校の選手たちは毛利を信じ切っている。


 氷川のスピードはまだリミッター解除もしていない。


 遅くなるどころか速くなる一方だろう。


 しかし、試合が再開した瞬間、『氷川の足が止まる』のだ。


 そして、『志木城高校の選手達』が『スピードアップ』した。


「ば、馬鹿な!!」


 あの氷川が一般選手に次々と抜かれていってしまう。


「これがあの『神崎』ですら『無得点』に抑えた………『志木城高校のバスケ』………」


 そう、世間が決めた『最強』と神から与えられた『才能』、その差がこれなのだろう。


 おまけに毛利はベンチで囲碁を打っている。


 彼からすれば『斎賀高校』など、『存在もしていない』ということなのだろう。


 その様子に上杉が歯ぎしりして言う。


「いいだろう………俺の本気を見せてやるよ………」

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