第11話 攻める者と守るチーム

「神崎選手、勝利への執念を見せます!! これはもう城ヶ崎高校の勝利間違い無しでしょう!!」


 『敗北』その二文字が斎賀高校に与えられる。


 3分で8点差、しかも、ボールが相手に渡る。


 24秒ボールをずっとキープされるだけで負けは必至、絶対に勝つことはできない。


 誰がなんと言おうと、斎賀高校の敗北は揺るがない。


 『斎賀高校』の『クリスタル大会』はここで『終わった』ということである。


 上杉は心底こう思った。


(すげぇ奴だ………)


 それ以外の言葉が出てこない。


 最後のパスコースを読んだつもりが、上を行かれてしまった。


 敗北感とか憎悪だとかそんな感情はない。


 素直に負けを認めるしかなかった。


 それと同時に、こんなことも思う。


「ちッ………こんなに強いやつと戦ってたなら、あいつに『バッシュ』なんて預けるんじゃなかったぜ………舐めてかかった報いか………そりゃあ、神も城ヶ崎高校の勝利を望む訳だ………」


 バッシュとはバスケットシューズのことである。


 上杉は子龍と死闘の末に試合には負けたが勝負には勝った。


 故に、試合に負けたため今履いてるバッシュは部室にあった物を借りている。


 本来のバッシュでないために、上杉の動きはどこかぎこちなかった。


 しかし、次の瞬間だった。


(まずい………もう、限界みたいだ………だが、最後は味方にパスするだけで勝ち………俺達の勝ちだ!!)


 神崎が勝利を確信して味方にパスを出した。


 だが、その先には桜井が居た。


「え!!?」


 パスを受け取った桜井は驚いた。


 桜井の身長が小さいからか、敵意が全く感じなかったからか、定かではない。


 体力の限界と上杉を警戒しすぎたのか、最後の最後で気が緩んでしまった。


「斎賀………高校………俺達の勝ち………だ………」


 そう言って神崎は倒れてしまう。


 これには城ヶ崎高校の選手達も落胆する。


 しかし、勝負は非常なものだ。


 桜井がそのまま得点を決めてしまう。


 3分にして8点差が6点差になってしまう。


「『卑怯』だぞ!! 斎賀高校!!」


 『卑怯』ではない。


 これは斎賀高校が必死の覚悟で神崎の『体力』を削りきった。


 努力の賜物なのだ。


「神崎はすでに限界を超えていた………勝利を確信して力尽きてしまったんだ………」


 だが、それでも斎賀高校が圧倒的不利であることに変わりはない。


 神崎はそのまま病院へ運ばれてしまう。


「何を弱気になっている!! 神崎が作ってくれた圧倒的有利を無駄にする気か!!? 神崎のために勝つんだろ!!?」


 城ヶ崎高校の選手に活を入れる者がいる。


「そ、そうだぜ!! いつも『神崎1人で勝ってきた』んだ!! 『俺達の力で今度は神崎を勝たせてやる』番だ!!」


 城ヶ崎高校の士気は落ちるどころか逆に高まり始める。


 だが、神崎が居なくなれば話は別だ。


 上杉が氷川に何かを耳打ちする。


 上杉の『秘策』は神崎には見破られた。


 だが、神崎が居なくなったのであれば『新たな秘策』が誕生する。


 城ヶ崎高校は24秒後にシュートを打てばいい。


 それでも十分勝てる。


 桜井ももう疲れ切っている。


 だが、何かがおかしい。


 敵が何もしてこない。


 この時点で上杉の『秘策』に引っ掛かっていることに気付くべきだったのだ。


 そう、守っているのは上杉と氷川だけだ。


 24秒のブザーがなる2秒前に氷川が神速で城ヶ崎高校の選手へ『プレスディフェンス』する。


 プレスディフェンスとは、一気に距離を詰めて相手選手へ密着する。


 密着された選手はシュートもパスもできず24秒バイオレーションが取られてしまう。


 そのままスローインで即座に桜井へとパスする。


 桜井は相手ゴール付近で休んでいたのだ。


 従って、即座に点を取ることができた。


 残り2分30秒超で4点差、こうなってくると逆転も可能だ。


「24秒ギリギリまで時間を稼いでくるのはわかっていた。だから、俺は22秒間、氷川に何もするなと言っておいたんだ。」


 上杉が策を明かすと氷川も続いて言う。


「御蔭でゆっくり休めたよ。」


 体力が少し回復した氷川なら2分30秒くらいどうということはない。


「城ヶ崎高校、俺達は神崎の体力を削りきった。だが、お前たちは神崎が俺達の体力を削っていることに気がつけなかったんだ。その差が勝敗を分けたんだ………」


 そう、城ヶ崎高校は時間稼ぎをしない方が勝機があったのだ。


 神崎が時間稼ぎの道を選ばなかった理由、それは神崎が馬鹿だからではない。


 神崎はチームの勝利を考えてしていたことだ。


 勝負成れしていない城ヶ崎高校の選手には勝敗の駆け引きができなかっただけだ。


 ゲームが終われば審判が選手たちを整列させて勝敗を告げる。


「126対124で斎賀高校の勝ち!!」


 その後で選手たちが礼をし合う。


『ありがとうございました!!』


 第1試合クリスタル杯、勝者となった斎賀高校は城ヶ崎高校から『クリスタルトロフィー』と『神崎 真琴』選手が送られる。


 神崎選手がチームに来てくれるかは神崎の『意志次第』だ。


「なんてことだ………」


 試合が終われば、一人の男が結果に驚いている。


「城ヶ崎高校が負けただって………!!?」


 この男は偵察だろう。


 城ヶ崎高校のデータしか取っていなかったのだろう。


「こ、このままじゃあ、怒られてしまう!!」


 そんな様子を一人の男が見ていた。


「貴様、志木城高校の人間だな………」


 偵察の男は驚いていう。


「あ、あなたが………なぜ、ここに!!?」


 その男は世界でも有名な選手だ。


 だが、謎は多い。


「決まっているだろう。最強のレジェンズを0点(無得点)に抑えて300点を奪い取った志木城高校のレジェンズに興味が湧いたからだ………」


 なんと、神崎は最強と言われていながらも0対300点で負けていた。


「その上、志木城高校のレジェンズはベンチで指示していただけ、圧倒的知力で最強を完封………これほど面白い話はない………」


 志木城高校の偵察男子は驚く。


「な、なぜ、そのことを………!!?」


 男は言う。


「決まっているだろう………俺にとってクリスタル大会は退屈なお遊び………しかし、敵を無得点に抑える上に300点を挙げる。それだけでなく、ベンチから指示しかしていない。そんな『天才』がコートに出たら、どんなバスケをしてくれるのか………!!」


 話から察するに、出場していた選手はレジェンズでもない5人だろう。


 しかし、神崎の速さについていける一般人は居ない。


 勝つことなど夢のまた夢、それを知力だけで勝った男、その名を男が告げる。


「『最弱のレジェンズ』………公式から冷遇されし『天才』、この『軌跡のレジェンズ』と対等に戦える奴が人の身で存在するという期待感からだ!!」


 志木城高校の偵察男子は少し呆れて答える。


「は、はぁ………」


 そんなことはお構いなしに軌跡のレジェンズが言う。


「それで、『最弱のレジェンズ』はいつ試合に出るんだ!!」


 食いついてくる奇跡のレジェンズに言う。


「大体、0対300点の試合ならいくらでもあるでしょう?」


 過去にもそんな試合をした男が居た。


 しかし、奇跡のレジェンズは言う。


「フン、一般人5人でレジェンズを倒した男は志木城高校のレジェンズのみだ………彼には内緒だぞ………いつ出るか聞いてきたというのは………噂が広まれば、厄介なことになる。わかったな………。」


 奇跡のレジァンスが立ち去ろうとする。


 それに対して、偵察男子は疑問に思う。


「あれ? 次はあなたの試合でしょう? 出ないんですか?」


 奇跡のレジェンズがジュースを飲みながら答える。


「それは、このジュースの『甘味』よりも『楽しめる』ことなのか?」


 世間では、クリスタル大会に出場しようと死にもの狂いになる狂人であふれている。


 どうやら、クリスタル大会に興味が無いのは『上杉』や『桜井』だけではなかった。


 別の意味で興味がない者も居る。


 それが『軌跡のレジェンズ』だった。


「それにしても、斎賀高校………あいつらの体が壊れてなければ………少しは興味を持てたのだろうか………」


 そう呟きながら軌跡のレジェンズは会場を後にした。

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